“ファン”が生まれるとき、何が起きているのか

この記事の読みどころ
  • 性格は直接行動を決めず、チームへのロイヤルティを高めると、その後の観戦やグッズ購入などの行動につながる。
  • 行動は性格ではなく、ロイヤルティを通じた間接的な影響で動くことがわかった。
  • 「私たち」という所属感が消費を支える力になり、長く応援する理由になる。

なぜ人は、負けても応援をやめないのか

チームが連敗しても、スタジアムには人が集まります。
ユニフォームは売れ続け、SNSでは議論が止まりません。

合理的に考えれば、不思議です。
「勝つから応援する」のなら、負けが続けば離れてもよいはずです。

それでも人は離れない。

これはスポーツの話に見えて、実はビジネスの核心に近い問いでもあります。

なぜ顧客は離れないのか。
なぜ多少の不満があっても、同じブランドを選び続けるのか。


性格がそのまま財布を開かせるのか

外向的な人はイベントに行きやすい。
まじめな人は継続しやすい。
感情が安定している人は長く支えそうだ。

そう考えると、「性格がそのまま行動を決める」という説明はわかりやすいものです。

今回の研究は、まさにそこを検証しました。
ビッグファイブと呼ばれる5つの性格特性と、ファンの消費行動(観戦、グッズ購入、メディア視聴、口コミ)との関係を調べたのです。

ところが、結果は少し違いました。

性格は、直接には消費行動を説明しなかったのです。


行動の前にある“見えないスイッチ”

では、人を動かしていたものは何だったのでしょうか。

研究が明らかにしたのは、
性格と行動のあいだに「ロイヤルティ(心理的な忠誠・結びつき)」が存在していた、という構造です。

性格がそのまま観戦や購入を生むのではありません。

性格がチームへの心理的な結びつきを強め、
その結びつきが、はじめて行動へと変わる。

つまり、

性格 → ロイヤルティ → 行動

という流れが確認されました。

行動のエンジンは、性格そのものではなく、ロイヤルティだったのです。


「私たち」という感覚が人を動かす

この研究は、社会的アイデンティティ理論という考え方を背景にしています。

人は、所属する集団を通して「自分とは何者か」を感じる。

チームを応援することは、単なる娯楽ではなく、
「私はこのチームの一員だ」という自己確認の行為になります。

グッズはモノであると同時に、所属の証。
観戦は娯楽であると同時に、参加。
口コミは宣伝であると同時に、仲間への呼びかけ。

消費は、帰属の表現なのです。


この研究はどこで行われたのか

この研究は、トルコ共和国のチャナッカレ・オンセキズ・マルト大学スポーツ科学部スポーツマネジメント学科の研究者によって行われました。

対象は、同大学に在籍する18歳以上のサッカーファンの学生929名です。
性格、ロイヤルティ、消費行動をそれぞれ測定し、その関係を統計的に分析しました。

その結果、どの性格特性においても共通していたのは、

ロイヤルティを通じた間接的なつながりは確認されたが、直接的な影響は確認されなかった

という点でした。


ビジネスにとっての示唆

ここが、特にビジネスパーソンにとって重要な部分です。

顧客の「タイプ」に合わせて売る。
性格傾向に合わせてアプローチする。

もちろん、それは意味があります。

しかし、この研究が示しているのは、

人を動かすのは性格ではなく、帰属感である可能性が高い

ということです。

顧客ロイヤルティを高めるとは、
ポイントを配ることではありません。

「ここに属している」と感じさせることです。

歴史や価値観を共有する。
コミュニティをつくる。
長期的な関係を前提にする。

性格を狙うよりも、
「私たち」という感覚を育てるほうが、行動は持続する。


私たちは何で動いているのか

自分は理性的に選んでいると思っていても、
実際には「所属」が選択を導いているのかもしれません。

私はこのブランドの人間だ。
私はこのチームの人間だ。

その感覚があるとき、
価格や一時的な不満は、決定的な理由になりにくい。

応援とは、好みの表明ではなく、
アイデンティティの表明。

行動の奥には、いつも「帰属」という静かな力がある。

そしてそれは、スポーツだけでなく、
あらゆるビジネスに通じる構造なのかもしれません。

(出典:PLOS One DOI: 10.1371/journal.pone.0343795

ファンベースビジネスの極意: 長期的な支持を得るための戦略的アプローチ (ホビーク) 鑓水 訟氏 (著)

テキストのコピーはできません。