- 基本的欲求の充足は人生満足度と単身生活の満足度を高め、抑うつを減らす傾向が強い。
- アタッチメント不安が高い人は抑うつが多く、単身生活の満足度も低くなりやすい。
- 「なぜ単身か」の理由づけで自由を重視しているほど満足度が高く、過去の関係の制約と感じるほど抑うつが高くなる。
なぜ「ひとり」は幸せになれるのか?
――基本的欲求からアタッチメントまで、単身生活の質を決めるもの
近年、パートナーと暮らす人だけでなく、「ひとりで生きる時間」を長く経験する人が増えています。しかし、私たちはこれまで「良い結婚生活」については数多く語ってきた一方で、「良い単身生活」についてはあまり深く考えてきませんでした。
今回ご紹介するのは、米国の**シラキュース大学心理学部(Department of Psychology, Syracuse University)**の研究チームが、学術誌 Personal Relationships に2026年に発表した論文です。
この研究は、「どんな人が、満足度の高い単身生活を送っているのか?」という問いに、心理学的に迫っています。
本記事では、論文の内容に基づき、その核心をわかりやすく整理していきます。引用URLは本文中に記載しません。
研究の問い:単身生活の質を決めるのは何か?
研究チームは、単身者の幸福感の違いを説明する要因として、次の4つを同時に検討しました。
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基本的心理欲求の充足
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アタッチメント(愛着)傾向
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ソシオセクシュアリティ(コミットメントのない性的関係への開放性)
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単身でいる理由の捉え方
これらはいずれも、「自分は単身でいることを選んでいるのか、それともそうならざるを得ないのか」という“選択感”に関係する心理的特徴です。
どんな人を調べたのか
研究は二つのサンプルで実施されました。
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30歳以上で少なくとも5年以上単身でいる成人445名(平均年齢52.91歳、平均単身期間20.43年)
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大学生の単身者545名(平均年齢18.87歳)
若年層と中高年層を含むことで、単身経験の長さやライフステージの違いも考慮されています。
幸福感の指標としては、
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人生満足度
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抑うつ症状
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単身生活への満足度
が測定されました。
最も強かった要因:基本的心理欲求の充足
もっとも一貫して強い関連を示したのが、「基本的心理欲求の充足」でした。
これは自己決定理論に基づく概念で、
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自律性(自分で選んでいる感覚)
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有能感(自分はできるという感覚)
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関係性(人とのつながりの感覚)
の3つがどの程度満たされているかを測定しています。
結果は明確でした。
基本的欲求が満たされている人ほど、
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人生満足度が高い
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単身生活への満足度も高い
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抑うつ症状は少ない
という一貫した関連が見られました。
重要なのは、「恋愛関係があるかどうか」ではなく、「自分の人生が自分で選ばれていると感じられているか」が中核だった点です。
アタッチメント不安は抑うつと関連
次に検討されたのがアタッチメント傾向です。
アタッチメントには主に二つの次元があります。
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不安(見捨てられることへの強い恐れ)
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回避(親密さへの不快感)
この研究では、
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アタッチメント不安が高い人は抑うつ症状が多い
-
単身生活への満足度も低くなりやすい(統合サンプルで有意)
という結果が示されました。
つまり、「本当は親密な関係を強く求めているが、不安が強い」という心理傾向は、単身生活において心理的な負担になりやすい可能性があります。
一方、回避傾向については、一般的な人生満足度とは関連しましたが、単身生活への満足度との関連は限定的でした。
ソシオセクシュアリティは決定打ではなかった
研究者たちは、「コミットメントのない性的関係への開放性」も単身生活の幸福に影響するのではないかと予想しました。
しかし分析の結果、
基本的欲求やアタッチメントを考慮すると、ソシオセクシュアリティは独立した予測因子にはならなかった
ことが示されました。
つまり、カジュアルな関係を好むかどうかそれ自体は、単身生活の幸福感を強く説明する要因ではありませんでした。
「なぜ単身か」という意味づけの力
最後に重要だったのが、「自分はなぜ単身なのか」という理由の捉え方です。
研究では理由を大きく4つに分類しました。
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求愛能力の低さ
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自由を重視
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過去の関係による制約
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個人的制約
結果として、
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「自由を大切にしているから単身でいる」と考える人は、満足度が高い
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「過去の関係の制約によって単身でいる」と感じる人は、抑うつ症状が高い
という傾向が示されました。
ここでも鍵となるのは、「自分の価値観に沿った選択かどうか」です。
単身生活は“状態”ではなく“体験”
この研究が示したのは、単身であることそのものが幸福か不幸かを決めるのではない、という点です。
重要なのは、
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基本的欲求が満たされているか
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親密さへの不安がどの程度あるか
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単身でいる理由をどう意味づけているか
といった複数の心理的層が重なり合って、単身生活の質が形づくられているということでした。
論文の結論でも、研究者たちは、一般的な心理的欲求だけでなく、より文脈に即した個人差を統合的に理解する必要性を強調しています
私たちへの示唆
単身生活は、「欠如」でも「失敗」でもありません。
それがどのように体験されているかは、
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自分の人生を自分で選んでいるという感覚
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親密さへの不安との付き合い方
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単身であることを自分の価値観とどう結びつけているか
によって大きく変わります。
本研究は、「単身である」という状態を超えて、「単身をどう生きるか」という視点を提示しています。
そしてその核心にあるのは、やはり“選択感”なのかもしれません。

