- シェアは情報を伝えるだけでなく、自分がどの集団の一員かを示すサインにもなると指摘されている。
- 正しさよりも社会的アイデンティティの強さや仲間の同意を感じること、そして自己表現としてのシェアが拡散に影響する。
- ミスインフォメーション対策は知識不足だけでなく、所属意識を考える視点も必要かもしれない、という示唆がある。
なぜ人は「あやしい情報」を広めてしまうのか
この研究は、オーストラリアのボンド大学(Bond University)、アデレード大学(The University of Adelaide)、ACAP大学カレッジ(ACAP University College)の研究チームによって行われました。テーマは、ソーシャルメディア上で広がるミスインフォメーション、つまり誤った情報がなぜシェアされてしまうのかという問題です。
私たちはふつう、「間違いだとわかればシェアしないはずだ」と考えます。
けれど実際には、あとから誤りだと判明した情報が、大量に拡散されていることがあります。
この研究は、その理由を「人は正しいと思ったから広めた」という単純な説明だけでは足りないと考えました。
そして、もう一つの視点――「人は自分がどの集団に属しているかを示すためにシェアすることがあるのではないか」という問いから出発しています。
シェアは「情報の共有」だけではない
ソーシャルメディアで投稿をシェアする行為は、単に情報を広めるだけではありません。
それは同時に、
・私はこの意見に賛成です
・私はこの立場にいます
・私はこの人たちと同じ側です
という「サイン」でもあります。
つまり、シェアは事実の伝達だけでなく、「自分が何者かを示す行動」でもあるということです。
研究チームは、この点に注目しました。
もしかすると、人は「正しいと思ったから」だけでなく、「仲間とのつながりを確認するため」にもシェアしているのではないか、というのです。
行動を説明する理論を組み直す
この研究は、「計画的行動理論」という心理学の理論を土台にしています。
この理論では、ある行動をするかどうかは、主に次のような要素で決まると考えます。
・その行動に対する自分の態度
・周囲がどう思っているかという認識
・自分にそれができるという感覚
・そして実際にやろうとする意図
たとえば、「運動しよう」と思うときも、
「運動は大切だと思う」「周りもやっている」「自分にもできそうだ」という感覚が重なると、実際に行動に移しやすくなります。
研究チームは、この枠組みをミスインフォメーションのシェア行動に当てはめました。
ただし、ひとつ調整を加えました。
ソーシャルメディアでは、投稿をシェアすること自体はとても簡単です。
特別な能力はほとんど必要ありません。
そこで研究では、「シェアする技術」ではなく、「シェアすることが自分を表す手段になると感じているか」という点に注目しました。
研究で重視された三つのポイント
今回の研究では、特に次の三つが重要な要素として扱われました。
1 社会的アイデンティティの強さ
自分がある集団の一員であるという感覚の強さです。
政治的立場、宗教、民族性、性的指向など、人にはさまざまな所属があります。
その「私はこの集団の一部だ」という思いが強いほど、集団とのつながりを守ろうとする傾向が強まります。
2 仲間が同意していると思うか
自分の属している集団の人たちが、その投稿に賛成しているはずだと感じるかどうか。
「みんなもこれに同意するだろう」と思えば、シェアの心理的ハードルは下がります。
逆に、「仲間はこれを支持しないだろう」と思えば、ためらいが生まれます。
3 シェアは自分を表現する手段だと思うか
ここがこの研究の特徴的な点です。
「この投稿をシェアすると、自分の価値観や立場が伝わる」と感じているかどうか。
つまり、シェアが自己表現の道具になっているかどうかです。
もしシェアが「自分らしさを示す行為」だと感じられているなら、
情報の正確さとは別の理由で、拡散が起こる可能性があります。
信じていなくてもシェアする?
研究の分析から見えてきたのは、
ミスインフォメーションのシェアには「信頼性の判断」だけでは説明できない側面があるということでした。
特に、
・社会的アイデンティティが強い
・仲間が同意していると感じている
・シェアが自己表現だと思っている
こうした要素が重なると、
情報の正確さよりも「集団とのつながり」が優先される可能性があることが示唆されました。
もちろん、この研究は「人は嘘をわかっていて広めている」と断定しているわけではありません。
また、すべてのシェアがアイデンティティのために行われていると言っているわけでもありません。
ただし、「正しいと思ったから広めた」という説明だけでは足りない、ということは示されています。
問題は「知識不足」だけではない
ミスインフォメーション対策としてよく言われるのは、
・ファクトチェックを強化する
・正しい情報を広める
・批判的思考を育てる
といった方法です。
もちろん、それらは重要です。
しかしこの研究が示しているのは、
問題が「知識不足」だけではない可能性です。
もしシェアが「仲間との絆を示す行為」になっているなら、
単に「それは間違いです」と指摘するだけでは、行動は変わらないかもしれません。
人は理屈だけで動いているわけではありません。
自分の居場所を守るという心理も、強く働いているのです。
私たちは何を考えるべきか
ソーシャルメディアは、意見を発信しやすい場です。
同時に、自分の立場を示す場でもあります。
今回の研究は、ミスインフォメーションの拡散を「愚かさ」や「無知」の問題としてだけ見るのではなく、
「所属」や「アイデンティティ」の問題として捉え直す視点を提示しました。
それは少し不安になる視点でもあります。
なぜなら、私たちもまた、
知らないうちに「正しさ」より「仲間との一体感」を優先している可能性があるからです。
情報をシェアするとき、
私たちは何を広めているのでしょうか。
事実でしょうか。
それとも、自分の立場でしょうか。
その問いは、ミスインフォメーション対策だけでなく、
現代のコミュニケーション全体を考えるうえで、大きな意味を持っているのかもしれません。
(出典:Current Psychology DOI: 10.1007/s12144-026-09157-8)

