- 睡眠時間が短いと、攻撃的な性格の人ほど攻撃行動が増える傾向があった。
- 睡眠時間が十分だと、攻撃的な性格の人ほど攻撃行動が減る可能性がある。
- 睡眠の質は攻撃行動と関係なく、思春期の女子高校生34人を対象にワサビ課題で測定した。
朝、なぜかいつもよりイライラする日があります。
普段なら気にならない言葉に腹が立ったり、ちょっとした出来事に強く反応してしまったりすることがあります。
「今日は寝不足だからだろう」
多くの人が、そんなふうに感じた経験があるかもしれません。
しかし、実際に睡眠不足は人の攻撃的な行動に影響するのでしょうか。
もし影響するとしても、それはすべての人に同じように起こるのでしょうか。それとも、特定の性格の人だけに強く表れるのでしょうか。
こうした疑問を実験的に調べた研究が、2026年に心理学の学術誌で発表されました。
研究では、睡眠時間と攻撃的な性格の組み合わせが、実際の攻撃行動にどのように影響するかが調べられました。
その結果、興味深いことがわかりました。
寝不足は、すべての人を同じように攻撃的にするわけではないということです。
攻撃性は「性格」と「状況」で生まれる
心理学では、攻撃行動とは
他者に害を与えることを意図した行動
と定義されています。
たとえば次のような行動です。
-
怒鳴る
-
叩く
-
相手を無視する
-
嫌がらせをする
攻撃にはいくつかの種類があります。
一つは、怒りなどの感情によって衝動的に起こる反応的攻撃です。
もう一つは、目的を達成するために計画的に行われる道具的攻撃です。
多くの心理学研究では、攻撃は単に「性格が悪いから起こる」わけではないと考えられています。
心理学では、人の攻撃行動は
-
性格
-
感情
-
状況
-
思考の余裕
などの要素が組み合わさって生まれると考えられています。
この考え方は**一般攻撃モデル(General Aggression Model)**と呼ばれています。
このモデルでは、攻撃が起きるかどうかは
-
その人の性格
-
そのときの状況
-
判断するための認知的な余裕
などによって決まるとされています。
ここで重要になる可能性があるのが睡眠です。
攻撃性の強い人ほど睡眠の影響を受けるのか
今回の研究では、特に次の点が調べられました。
攻撃的な性格の人は、睡眠不足のときにより攻撃的になるのか
これまでの研究では
-
睡眠不足と攻撃性の関連
-
睡眠の質と怒りの関連
などは調べられてきました。
しかし、
性格としての攻撃性
×
睡眠時間
という組み合わせが、実際の攻撃行動にどう影響するかはほとんど研究されていませんでした。
この問題を調べるために行われたのが今回の実験です。
睡眠研究室で行われた実験
この研究は、オーストラリアの**フリンダース大学(Flinders University)とスウェーデンのエーレブルー大学(Örebro University)**の研究者によって行われました。
fpsyg-17-1705874
研究には、16〜18歳の女子高校生34人が参加しました。
参加者は睡眠研究室で一晩過ごし、次のことが測定されました。
攻撃的な性格
攻撃性は心理学でよく使われる質問紙
Buss-Perry Aggression Questionnaire
によって測定されました。
この尺度では
-
身体的攻撃
-
言語的攻撃
-
怒り
-
敵意
などが評価されます。
睡眠時間
睡眠時間は、腕時計型の睡眠トラッカーによって測定されました。
これは研究用の脳波測定ほど精密ではありませんが、最近の研究ではかなり正確な睡眠時間を測定できることが示されています。
睡眠の主観的な質
朝起きたときに
-
昨夜の睡眠の質
-
朝の爽快感
を10段階で自己評価してもらいました。
攻撃行動を測るための「ワサビ課題」
この研究の最もユニークな部分は、攻撃行動の測定方法です。
研究では、参加者に次のような説明がされました。
「別の実験で、味覚テストを行っています。
その参加者が食べるワサビの量を決めてください。」
参加者は
-
ワサビをどれくらい入れるか
-
自由に決めることができます
そして重要なのは
相手はそのワサビを全部食べる
と説明されていることです。
つまり、ワサビを多く入れるほど
相手に不快な体験を与える可能性が高くなるわけです。
この方法は心理学では有名で、
**ホットソース課題(Hot Sauce Paradigm)**と呼ばれています。
今回の研究ではワサビが使われました。
研究では、このワサビの量(グラム)が
攻撃行動の指標として測定されました。
実験で起きたこと
参加者は朝6時30分に
-
大きなアラーム
-
明るい照明
で起こされました。
その直後に、ワサビ課題が行われました。
つまり、研究は
睡眠の影響が出やすい状況
で攻撃行動を測定するよう設計されていました。
見えてきた結果
分析の結果、はっきりしたことがわかりました。
睡眠時間は、攻撃的性格と攻撃行動の関係を変化させていました。
具体的には次のような傾向が見られました。
睡眠が短い場合
攻撃性の高い人は
より多くのワサビを入れる
つまり
より攻撃的な行動をとる傾向がありました。
睡眠が十分な場合
逆に、睡眠時間が長いと
攻撃性の高い人ほど攻撃行動が少なくなる
という傾向も見られました。
つまり、
睡眠は攻撃性を抑える資源のように働く可能性
が示されたのです。
睡眠の「質」は関係しなかった
一方で意外な結果もありました。
研究では
-
睡眠の質
-
朝の爽快感
などの自己評価も測定されました。
しかし、これらは
攻撃行動と関係がありませんでした。
これは、これまでの多くの研究とは異なる結果でした。
研究者は、その理由として次の可能性を指摘しています。
人は
自分の睡眠状態を正確に判断できないことがある
という問題です。
実際、睡眠研究では
-
主観的な睡眠の質
-
客観的な睡眠時間
が一致しないことがよくあります。
睡眠は「感情のブレーキ」かもしれない
この結果は、心理学の攻撃モデルともよく一致しています。
攻撃行動が起きる前には
-
状況を理解する
-
相手の意図を考える
-
感情を調整する
といった認知プロセスが働くと考えられています。
しかし、睡眠が不足すると
-
認知能力
-
感情調整
の両方が弱くなる可能性があります。
その結果
衝動的な攻撃行動が起きやすくなる
と考えられます。
特に、もともと攻撃的な性格の人では
この影響が強く現れる可能性があります。
睡眠は攻撃性を和らげる可能性
この研究は、次のことを示唆しています。
十分な睡眠は
攻撃的な行動を減らす重要な要因
かもしれないということです。
特に
-
もともと攻撃性が高い人
-
思春期の若者
では、その影響が大きい可能性があります。
思春期は
-
睡眠時間が減りやすく
-
感情調整も不安定
になりやすい時期です。
そのため、睡眠は思春期の社会的行動にとって重要な役割を持つ可能性があります。
たった1時間の睡眠が変えるもの
この研究では、睡眠時間の差は
わずか1時間程度
でも影響が見られました。
睡眠時間が
-
約6.5時間
-
約8.5時間
の違いだけで、攻撃行動の傾向が変わる可能性が示されました。
これは、日常生活でも十分に起こりうる差です。
私たちは
「睡眠不足はつらい」
とは感じますが、
それが自分の行動をどれほど変えているのか
までは意識しないことが多いかもしれません。
しかし、睡眠は単に疲労を回復するだけではなく
人との関わり方そのもの
にも影響している可能性があります。
(出典:Frontiers in Psychology DOI: 10.3389/fpsyg.2026.1705874)

