人はなぜ進路を決められなくなるのか?

この記事の読みどころ
  • 学生の進路の迷いを減らすには、周囲の支えと自分の目標をはっきりさせること、そして主体的に動く性格が大切だと分かった。
  • 自信(自己効力感)が高くても、迷いを直接減らすとは限らず、支えがあって初めて目標が明確になりやすいという結果だった。
  • 男性は迷いやすい傾向があり、支えを増やすことと将来の目標を具体化することを組み合わせるのが有効だと示唆されている。

進路を決めることは、多くの人にとって簡単なことではありません。

どんな仕事が自分に合うのか。
どんな道を選べばいいのか。
何を基準に判断すればいいのか。

特に学生にとって、こうした問いは大きな不安の源になります。
進路を決められないこと自体が、次の行動を遅らせてしまうこともあります。

心理学では、このような状態をキャリア意思決定の困難と呼びます。
つまり「職業や進路を決める際に感じる迷い・不安・情報不足」などのことです。

では、人はなぜ進路を決められなくなるのでしょうか。
そして、その迷いを減らす方法はあるのでしょうか。

この問いを詳しく調べた研究があります。


進路の迷いはどこから生まれるのか

キャリアの意思決定が難しくなる理由は、大きく三つに分けられるとされています。

ひとつ目は、準備不足です。
自分の興味や能力について十分に考えていない場合、進路を決めることは難しくなります。

二つ目は、情報不足です。
どんな仕事があるのか、どんな能力が必要なのかを知らないと、選択肢そのものが見えません。

三つ目は、情報の矛盾です。
異なるアドバイスや期待がぶつかると、どれを信じればよいのか分からなくなります。

このような状態が続くと、人は進路の決定を先延ばしにしたり、十分に考えないまま決めてしまったりする可能性があります。

そしてその結果は、就職後の満足度やキャリアの安定にも影響することがあります。


研究の目的

この研究では、進路の迷いを減らす要因として、特に次の三つに注目しました。

  • 社会的支援(周囲からのサポート)

  • キャリアに関する自己効力感

  • 就職活動の目標の明確さ

さらに、個人の性格として**主体的に行動する傾向(プロアクティブ・パーソナリティ)**が、この関係に影響するかどうかも調べました。

研究は中国の学生を対象に行われました。
調査は成都の職業大学で実施され、991人の学生が参加しました。

この研究は、
成都航空職業技術学院(Chengdu Aeronautic Polytechnic University)のメンタルヘルス教育センター
成都大学(Chengdu University)の教育学部の研究者によって行われています。


社会的支援とは何か

ここでいう社会的支援とは、

  • 家族

  • 友人

  • 教員

  • 同級生

などから得られる心理的・実際的なサポートを意味します。

たとえば

  • 励ましてくれる

  • 相談に乗ってくれる

  • 情報を教えてくれる

  • 判断を助けてくれる

といったものです。

研究ではまず、こうした社会的支援が多い学生ほど、進路の迷いが少ないかどうかを調べました。

その結果、社会的支援が多い学生ほど、キャリアの意思決定の困難が少ないことが確認されました。

つまり、人は周囲に支えられていると感じるほど、進路を決めやすくなる傾向があるということです。


自信だけでは迷いは減らない

研究では次に、「キャリア意思決定の自己効力感」を調べました。

これは簡単に言うと、

「自分は進路をうまく決められる」という自信

のことです。

一般的には、この自信が高いほど進路の迷いは少なくなると考えられています。

しかし今回の研究では、少し意外な結果が出ました。

自己効力感は社会的支援によって高まることは確認されましたが、
自己効力感そのものが直接、迷いを減らす効果は見られなかったのです。

つまり、

自信があるだけでは、進路の迷いは必ずしも解決しない

ということになります。


迷いを減らす本当の要因

では、何が進路の迷いを減らすのでしょうか。

研究の結果、重要だったのは
就職活動の目標の明確さでした。

これは、

  • 自分はどんな仕事をしたいのか

  • どんな職種を目指すのか

  • 将来どんな働き方をしたいのか

といったことが、どれくらいはっきりしているかを意味します。

研究では、

目標が明確な学生ほど
キャリアの意思決定の困難が少ない

ことが確認されました。

さらに興味深いことに、次のような流れも見つかりました。

社会的支援

自己効力感が高まる

目標が明確になる

進路の迷いが減る

つまり、

「支え → 自信 → 目標 → 決断」

という連鎖が存在している可能性が示されたのです。


主体的な性格が効果を強める

研究ではさらに、性格の違いにも注目しました。

ここで重要だったのが、
主体的に行動する性格です。

これは、

  • 自分から行動する

  • 環境を変えようとする

  • 機会を探す

といった傾向のことです。

分析の結果、この性格を持つ学生では、

目標の明確さが迷いを減らす効果がさらに強くなる

ことが分かりました。

つまり、

目標がはっきりしている

主体的に動く性格

という組み合わせのとき、進路の迷いは特に小さくなるということです。


男性の方が迷いやすい?

研究ではもう一つ興味深い結果がありました。

全体として、男性の学生の方が進路の迷いがやや大きかったのです。

研究者はその理由として、文化的な期待の違いを指摘しています。

男性には

  • 高い収入

  • 昇進

  • 社会的成功

などを求めるプレッシャーが強い場合があり、そのため考える要素が増えて迷いやすくなる可能性があります。

一方で女性は、仕事の安定性などを重視する傾向があり、比較的早く方向性を決める場合もあると考えられています。


進路支援にとっての意味

この研究は、進路支援に重要な示唆を与えています。

多くの場合、キャリア支援では

  • 自信を持たせる

  • スキルを高める

ことが重視されます。

しかし今回の結果からは、もう一つ重要な要素が見えてきます。

それは、

目標をはっきりさせること

です。

進路の迷いを減らすためには

  • 支援ネットワークを広げる

  • 自信を高める

  • 将来の目標を具体化する

という三つの要素が連携することが重要だと考えられます。


人は一人で進路を決めているわけではない

私たちはしばしば、進路の決定を

「個人の能力」
「個人の努力」

だけの問題として考えてしまいます。

しかし今回の研究は、そうではない可能性を示しています。

人が進路を決めるとき、

  • 周囲の支え

  • 自分への自信

  • 将来の見通し

  • 行動のスタイル

といった多くの要素が重なり合っています。

そしてその中でも、
誰かに支えられているという感覚が、最初の重要な出発点になっているのかもしれません。

進路の迷いは、単なる個人の弱さではありません。

それは、

環境
心理
目標
性格

といった多くの要素が絡み合って生まれる現象です。

だからこそ、人が未来を選ぶときには、
一人で考えるよりも、誰かと一緒に考えることが意味を持つのかもしれません。

(出典:PLOS One DOI: 10.1371/journal.pone.0344515

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