「みんなが言っている」は、本当に理由になるのか?

この記事の読みどころ
  • UGCは人を信じさせるのに、論理より直感や雰囲気を強く使うことが多い。
  • 多くの人が「いいね」や体験談の見た目で信頼してしまうのは、真正性と社会的証明が働くからだ。
  • 信頼を高めるためには、なぜ自分が信じたのかを自分に問い、関係性を重視することが大切だ。

知らない誰かを、なぜ私たちは信じてしまうのか

この研究は、海外の独立研究者による論文で、ソーシャルメディア上にあふれる「ユーザー生成コンテンツ(UGC)」が、人の信頼判断にどのような影響を与えるのかを、心理学の理論にもとづいて整理したものです。

私たちは日常的に、知らない人のレビューや投稿、写真、動画を見ています。

・この商品は良さそう
・この人の体験談は本当っぽい
・みんなが支持しているから安心できる

こうした感覚は、とても自然です。ほとんどの場合、深く考えなくても「なんとなく信用できる」と感じます。

しかし、この研究は問いかけます。

その「なんとなくの信頼」は、どこから生まれているのか。

そして、UGCは私たちの信頼を助けているのか、それとも簡単に操作できるものにしてしまっているのか。


私たちは「正しさ」よりも「それっぽさ」で信じている

多くの人は、「自分はちゃんと考えて情報を選んでいる」と思っています。

ところが心理学の研究では、人の判断の多くは、

・直感
・感情
・周囲の雰囲気

に強く影響されていることが知られています。

UGCが強い力を持つ理由の一つは、「論理」よりも「感覚」に直接訴えかけてくるからです。

例えば、

・専門家が書いた長い説明文
・一般の人が書いた短い体験談

この二つが並んでいたとき、多くの人は後者に親近感を覚えます。

そこには、

「同じ立場の人が言っている」
「利害関係がなさそう」

という印象が生まれるからです。

研究では、UGCは**信頼のショートカット(近道)**として機能すると説明されています。

本来、情報を評価するには、

・誰が言っているのか
・根拠はあるのか
・他の証拠と一致しているか

といった確認が必要です。

しかし現実には、そこまで丁寧に調べる時間も余裕もありません。

そこで人は、

「たくさんの人がいいと言っている」
「感情がこもっている」

という手がかりを使って、素早く信頼を決めてしまいます。


UGCが「本音」に見える理由

UGCが信頼されやすいのは、「演出されていない感じ」があるからです。

誤字がある
言葉づかいがラフ
写真が少しブレている

こうした要素は、「作り込まれていない=正直そう」という印象につながります。

皮肉なことに、不完全さが信頼を生むのです。

研究では、これを「真正性(しんせいせい)」と呼んでいます。

真正性とは、

「作られた感じがしない」
「自然に見える」

という感覚のことです。

UGCは、企業広告よりもこの真正性を持ちやすく、そのため信頼されやすくなります。


「みんなが信じている」が信頼をつくる

UGCが力を持つもう一つの理由は、社会的証明です。

社会的証明とは、

「多くの人がそうしているなら正しいはずだ」

と感じる心理のことです。

・いいねが多い
・コメントが多い
・共有されている

こうした数字は、内容の正しさを保証していなくても、

「信じていいサイン」

として受け取られます。

つまり私たちは、

内容そのもの
よりも
周囲の反応

を見て信頼を決めていることが多いのです。


UGCは「信頼を壊す装置」にもなる

ここまで読むと、UGCは便利で良いもののように見えます。

実際、UGCには大きな価値があります。

・経験の共有
・声を上げにくい人の可視化
・多様な視点の提示

しかし研究は同時に、UGCが誤情報の拡散装置にもなり得ることを指摘します。

理由はシンプルです。

UGCは誰でも作れる
→ 誰でも拡散できる
→ 事実確認が追いつかない

感情を強く刺激する内容ほど広まりやすいため、

・怒り
・恐怖
・不安

をあおる投稿が目立ちやすくなります。

その結果、「本当かどうか」よりも「強く感じたかどうか」が重視される環境が生まれます。


問題は「だまされやすさ」ではない

この研究が興味深いのは、人間を「だまされやすい存在」として責めていない点です。

むしろ、

人間の認知システムは、もともと効率重視で作られている

と説明します。

すべての情報を精査するのは不可能です。

だから私たちは、

・信頼できそうな人
・多数派
・感情的に納得できる話

を手がかりに、素早く判断するよう進化してきました。

UGCは、その仕組みにぴったりはまってしまう存在なのです。


「信じるな」ではなく「気づこう」

研究は、UGCを排除すべきだとは言いません。

代わりに示しているのは、メタ認知の重要性です。

メタ認知とは、

「自分はいま、どうやって判断しているのか」

に気づくことです。

例えば、

・この投稿、内容ではなく雰囲気で信じていないか
・「みんなが言っている」から信用していないか
・感情が先に動いていないか

こうした問いを一度挟むだけで、信頼の質は変わります。


信頼は「関係」でできている

この研究が静かに伝えている大きなメッセージは、

信頼は、情報の正確さだけで決まるものではない

ということです。

信頼は、

・親近感
・共感
・つながりの感覚

といった、人と人との関係性の中で育ちます。

UGCが強いのは、「情報」ではなく「関係」を感じさせるからです。

だからこそ、UGCは人を救うこともあれば、迷わせることもあります。


終わりに

私たちはこれからも、UGCに囲まれて生きていきます。

それ自体を止めることはできませんし、止める必要もありません。

大切なのは、

自分が信じた瞬間に、少しだけ立ち止まれるかどうか

です。

「なぜ、私はこれを信じたのだろう」

そう問いかける習慣が、
信頼を守る最も現実的な方法なのかもしれません。

信頼とは、与えられるものではなく、
日々の小さな気づきの中で、静かにつくられていくものなのです。

(出典:Preprints

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