- AIへの態度を決めるのは、性格よりも性別や学生かどうか、日常の家計管理といった社会的立場の方が強く影響していた。
- AIとサステナビリティを同時に見ると、社会的条件がAIへの評価を約4割説明していた。
- 性格特性はAIにはあまり関係なく、サステナビリティには性格が影響する一方、ジェネラリティとAIの関連は弱かった。
AIをどう感じるかは、性格で決まるのか、それとも立場なのか
人工知能(AI)は、もはや専門家だけの話題ではなくなりました。仕事、学習、医療、金融、日常的な意思決定の場面にまで入り込み、多くの人が「AIをどう感じるか」「どこまで信頼できるのか」を、自分なりに判断する時代に入っています。ただ、その判断は本当に個人の性格や価値観から生まれているのでしょうか。それとも、もっと別の要因が静かに作用しているのでしょうか。
イギリスのオープン・ユニバーシティ心理学部が行った本研究は、この問いに対して、意外とも言える答えを示しています。AIへの態度を決めているのは、思いやり深さや未来志向といった内面的な性格特性よりも、性別や学生であるかどうか、経済的な感覚といった社会的・人口統計学的な立場のほうがはるかに強い影響を持っていたのです。
研究の視点──AIとサステナビリティを同時に見る
この研究が特徴的なのは、AIへの態度だけを単独で調べていない点です。研究チームは、AIとサステナビリティ(持続可能性)という二つの領域を並べて扱っています。AIは環境問題の解決に役立つ可能性を持つ一方で、巨大な計算資源を消費する技術でもあります。そのため、人々がAIをどう評価するかには、環境や未来世代への配慮が関係しているかもしれない、という発想が出発点にあります。
そこで研究者たちは、性格特性、ジェネラティビティ(次世代への関心)、サステナビリティへの態度、そして年齢や性別、経済状況、親であるかどうかといった人口統計学的要因を同時に測定し、それらがAIへの態度とどう結びつくのかを検討しました。
参加者と調査方法
調査はイギリス在住の成人176名を対象に、オンライン質問紙で実施されました。年齢は19歳から82歳までと幅広く、平均年齢は約41歳でした。性別は女性が約6割、男性が約3割、ノンバイナリーの参加者も含まれています。
用いられた尺度は、AIへの態度を測る尺度、サステナビリティへの態度尺度、ジェネラティビティ尺度、そして男性性・女性性といった性格特性を測る質問紙です。これらをもとに、どの要因がどの態度をどの程度説明できるのかが、統計的に分析されました。
AIへの態度を強く左右していたもの
分析の結果、AIへの態度を最も強く予測していたのは、性格特性ではありませんでした。思いやり深さや協調性、未来世代への関心といった心理的要因は、AIへの評価をほとんど説明できなかったのです。
代わりに強い影響を示したのは、人口統計学的な要因でした。具体的には、男性であることがAIに対する肯定的な態度と強く結びついていました。また、学生であること、日常的に慎重な家計管理をしていることは、AIへの態度をやや否定的な方向に予測していました。さらに、アジア系インド人という民族的背景も、AIに対して比較的肯定的な態度と関連していました。
これらの要因だけで、AIへの態度の約4割が説明できていたという結果は、非常に大きな意味を持ちます。AIに対する評価は、内面の価値観よりも、その人が置かれている社会的な位置や経験の影響を強く受けていることが示されたからです。
性格特性は無関係だったのか
本研究では、男性性・女性性といった性格特性も詳しく検討されました。しかし、これらはAIへの態度を有意に予測しませんでした。男性的な特性が強いからといってAIを好意的に見るわけでも、女性的な特性が強いからといって警戒するわけでもなかったのです。
一方で、同じ性格特性はサステナビリティへの態度には明確な影響を持っていました。特に女性的特性が高い人ほど、環境や社会的公正を重視する姿勢が強く示されていました。この対照は重要です。性格特性は、価値やケアが前面に出やすい領域では力を持つものの、AIのように権力構造や技術的不透明性が絡む領域では、その影響力が弱まる可能性を示しています。
ジェネラティビティと未来へのまなざし
次世代への関心を表すジェネラティビティも、興味深い結果を示しました。ジェネラティビティが高い人ほど、サステナビリティへの態度は明確に肯定的でした。しかし、AIへの態度との関連は弱く、統計的に有意とは言えませんでした。
この違いは、未来への責任がどれだけ具体的に想像できるかという点に関係している可能性があります。環境問題は、子どもや孫の生活と直結してイメージしやすい一方、AIの影響は抽象的で間接的に感じられやすいのかもしれません。そのため、未来志向の心理がAI評価に十分には結びつかなかったと考えられます。
学生と家計管理が示す慎重さ
学生であることや、慎重な家計管理をしていることがAIへの否定的態度と結びついていた点も注目に値します。これは、AIがもたらす利益よりも、リスクや不透明さに敏感である立場を反映している可能性があります。特に経済的な余裕が限られている場合、説明のわかりにくい技術に対して慎重になるのは自然な反応とも言えます。
AIへの態度は「個人の心」だけではない
この研究が示しているのは、AIへの態度が単なる性格や価値観の問題ではない、という点です。むしろ、性別、立場、経済的経験、文化的背景といった社会的条件の積み重ねが、人々のAI観を形づくっていることが明らかになりました。
サステナビリティのように、ケアや責任が前面に出る領域では、個人の性格やジェネラティビティが意味を持ちます。しかしAIという技術に対しては、「どの立場からそれを見るか」が、態度を大きく左右しているのです。
技術をめぐる議論への示唆
AIを社会にどう位置づけるかを考えるとき、「価値観を育てれば受け入れられる」という発想だけでは不十分かもしれません。どのような人が、どのような経験や不安を抱えながらAIと向き合っているのか。その社会的文脈を理解することが、責任あるAIの議論には欠かせないことを、この研究は静かに示しています。
AIへの態度は、心の奥深くにある性格よりも、日常の立ち位置から生まれている。その事実は、私たち自身がAIをどう感じているのかを振り返る手がかりにもなるはずです。
(出典:PsyArXiv)

