評価されるリーダーと、疲れるリーダーのあいだにあるもの

この記事の読みどころ
  • リーダーの価値観には、他者を重視する方向と自分の成功を重視する方向の二つがある。
  • 他者を重視するリーダーは部下から信頼されやすく、配慮や公正さなどの行動につながりやすい。
  • 自分を重視する価値観はリーダーとしての有効さと必ずしも結びつかず、文化によって結果が変わることがある。

価値観は、どこに表れるのか

職場で「この人のもとで働くと、なぜか落ち着く」と感じるリーダーがいます。特別に雄弁でも、強い指示を出すわけでもないのに、気持ちが乱れにくい。一方で、成果は出しているはずなのに、関わるほど疲れてしまうリーダーもいます。その違いは、能力や経験だけで説明できるのでしょうか。

この研究は、その違いの背景にあるものとして、リーダー自身がどのような価値観を大切にしているかに注目しています。価値観とは、目に見える行動や発言の前にある、「何を優先し、何のために判断するのか」という内側の軸のことです。


二つの異なる価値の向き

研究では、リーダーの価値観を大きく二つの方向として捉えています。
一つは、他者や集団全体の利益を重視する方向です。平等や公正、調和、社会全体の幸福といったものを大切にする考え方がここに含まれます。
もう一つは、自分自身の成功や地位、影響力を重視する方向です。権力や富、社会的な評価を重んじる姿勢がこれに当たります。

重要なのは、これが「善い人か悪い人か」を分ける話ではないという点です。どちらの価値観も、多かれ少なかれ誰もが持っています。この研究が見ているのは、「どちらの向きが、その人の判断や振る舞いの中心になっているか」です。


幸福感までの道筋

この研究の特徴は、価値観と従業員の幸福感を直接結びつけていないところにあります。
研究者たちは、その間に「リーダーとして有効だと感じられているかどうか」という要素を置きました。

ここでいうリーダーシップとは、単に指示を出す力ではありません。将来の方向性を示すこと、意味づけを伝えること、考え直すきっかけを与えること、困ったときに支えること、個人の努力を認めること。こうした複数の関わり方をまとめたものとして扱われています。

価値観は、そのまま表に出るわけではありません。しかし、日々の言葉の選び方や、部下への接し方として少しずつ現れ、それが「この人はリーダーとして機能している」と感じられるかどうかを左右していきます。


他者を重視する価値観がもたらしたもの

分析の結果、他者や集団を重視する価値観は、リーダーとしての有効さをはっきりと高めていました。
利他的な価値観を強く持つリーダーほど、部下から「この人は信頼できる」「この人のもとでなら働ける」と感じられやすかったのです。

研究者たちは、その理由として、こうした価値観が信頼や協力を生みやすい点を挙げています。相手の立場を考え、公正さを意識する姿勢は、励ましや支援、承認といった行動につながりやすく、それがリーダーシップとして受け取られます。

ここで描かれているのは、単なる「優しさ」ではありません。チームが安心して意見を出し、失敗を恐れすぎず、方向性を共有できる状態をつくる力として、価値観が働いている様子です。


自分を重視する価値観が示した結果

一方で、自分の成功や権力を重視する価値観は、リーダーとしての有効さと明確な関係を示しませんでした。
この結果は、「利己的な価値観を持つリーダーは必ず問題がある」という意味ではありません。この研究の範囲では、少なくとも「部下から見て、リーダーとして機能していると感じられること」にはつながりにくかった、ということが示されています。

研究の考察では、文化的な背景にも触れられています。この調査が行われた社会では、調和や関係性の安定が重視されやすく、その中では自己中心的に見える振る舞いが評価されにくかった可能性があります。状況や文化が違えば、異なる結果になる余地も残されています。


感情と評価、二つの幸福感

この研究で扱われた幸福感は、一つの感情ではありません。
一つは、日々の仕事の中で感じる前向きな気分や満足感といった感情的な側面です。もう一つは、自分の仕事や人生をどう評価しているかという認知的な側面です。

分析の結果、リーダーとして有効だと感じられている環境では、この両方の幸福感が高まりやすいことが示されました。つまり、「信頼できるリーダーがいる」と感じられること自体が、気分にも、考え方にも影響しているということです。


静かに残る問い

この研究は、「正しいリーダー像」を押しつけてはいません。
示されているのは、リーダーがどんな価値観を軸に判断し、それがどのように日常の関わりとして表れるかが、働く人の心の状態に静かに影響しているという事実です。

成果や効率だけでなく、「誰のために」「何を大切にして」決断しているのか。その姿勢は、言葉にしなくても周囲に伝わります。
職場の幸福感は、制度や環境だけで決まるものではなく、こうした見えにくい価値観の積み重ねの中で形づくられているのかもしれません。

この研究は、そのことを、過度な主張をすることなく、淡々と示しています。

(出典:Frontiers in Psychology DOI: 10.3389/fpsyg.2025.1637594

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