「私はどんな人間か」は、家庭の空気から生まれる

この記事の読みどころ
  • インドの都市部に住む18〜21歳の女子大生150人を対象に、自己概念を6つの側面で評価する研究をしました。
  • 親の“受け止め方”が自己概念に影響し、母親が無関心と感じるほど自己概念は低く、父親の受容と適度な規律、さらに夫婦関係の調和が高いほど自己概念が高くなる傾向がありました。
  • 自己概念は家庭の空気や日々の関係性に左右され、因果関係は断定されていません。

自己概念という、見えない土台

「私は価値のある人間だろうか」
「私はどんな強みを持っているのだろうか」

大学生という時期は、こうした問いが静かに、しかし確実に立ち上がる時期です。進学によって世界が広がり、人との比較や将来への期待が増すなかで、人はあらためて自分自身を見つめ直します。

心理学では、「自分はどんな人間か」という全体的な自己イメージを**自己概念(セルフ・コンセプト)**と呼びます。

今回紹介する研究は、インドの都市部に住む女子大学生を対象に、「親のかかわり方をどう感じているか」が「自己概念」にどのように関係しているのかを検討したものです。

この研究は、デリー大学(University of Delhi)CHRIST University Delhi NCR CampusAssam Don Bosco Universityなどに所属する研究者によって実施されました。


対象となった若い女性たち

対象は、18歳から21歳の女子大学生150名です。
全員が両親と同居しており、心理学専攻ではない学生でした。

都市部の大学に通い、高等教育を受けている若い女性たちです。

この条件は重要です。彼女たちは、一定の教育機会を得ており、自分自身を振り返る力を持っていると考えられます。そのため、「自分はどんな人間か」という問いに対する自己評価も、ある程度言語化できる状態にあります。


自己概念は6つの側面から測定された

研究では、自己概念を6つの側面から評価しました。

  1. 身体的自己(外見や健康についての見方)

  2. 社会的自己(人間関係の中での自分)

  3. 知的自己(問題解決や判断力についての自己評価)

  4. 道徳的自己(善悪の基準に関する自己認識)

  5. 教育的自己(学業に関する自己評価)

  6. 気質的自己(感情の安定や反応傾向)

結果として、多くの参加者が中程度から高い自己概念を示しました。特に道徳的側面は高い水準にありました。

都市部で高等教育を受けている若い女性たちが、一定の自己肯定感を持っていることがうかがえます。


親の「受け止め方」が重要だった

本研究の核心は、「実際に親がどうしているか」ではなく、「娘がどう感じているか」にあります。

親の養育は、次のような対比的な側面で評価されました。

・拒絶 vs 受容
・無関心 vs 保護
・放任 vs 規律
・非現実的な期待 vs 現実的な理解
・夫婦葛藤 vs 夫婦調整

同じ行動であっても、子どもがそれをどう受け止めるかによって、その心理的影響は変わります。


母親の影響

「無関心」と感じることの重み

分析の結果、母親に関して特に重要だったのは、

無関心 vs 保護

という側面でした。

娘が母親を「無関心だ」と感じるほど、自己概念は低くなる傾向が見られました。

インド社会では、母親は日常的なケアの中心的存在です。そのため、「気にかけてもらえていない」という感覚は、「自分は大切にされていない」という自己像に直結しやすいと考えられます。


父親の影響

「受け入れられている」という感覚

父親については、より広い範囲で影響が見られました。

特に重要だったのは、

・拒絶 vs 受容
・自由 vs 規律

でした。

父親を「受け入れてくれている」と感じるほど、自己概念は高い傾向がありました。また、適切な規律があると感じている場合も、自己概念は高い水準を示しました。

単なる自由放任ではなく、あたたかさを伴う規律が意味を持っていたのです。


見えにくい要因

夫婦関係という土台

母親・父親いずれにおいても、共通して重要だったのが、

夫婦関係の調和

でした。

両親の関係が安定し、葛藤が少ないと感じている場合、自己概念はより高くなる傾向がありました。

家庭の空気は、直接言葉にされなくても、子どもに伝わります。
その安定感が、「自分は安心して存在してよい」という感覚を支えている可能性があります。


何が示されたのか

この研究は、次の点を示しました。

・母親の「ケアの感覚」は自己概念と関係する
・父親の「受容」と「規律」は重要である
・夫婦関係の調和が自己概念の土台になる
・父親の影響は広範囲に及ぶ可能性がある

同時に、この研究は都市部の女子大学生を対象としたものであり、因果関係を断定するものではありません。


おわりに

自己概念は、単独で形成されるものではありません。

それは、日々の言葉、態度、まなざし、そして家庭の空気のなかで、少しずつ形づくられていきます。

「私はどんな人間か」という問いは、個人の内面の問題であると同時に、関係性のなかで育つ問いでもあるのかもしれません。

そしてその関係性は、母親だけでなく、父親も、そして夫婦関係も含んだ、家庭全体の力学のなかにある。

自己概念とは、家庭という環境が映し出す、静かな鏡なのかもしれません。

(出典:Discover Psychology DOI: 10.1007/s44202-026-00637-3

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