創造性を支えているのは、挫折への向き合い方だった

この記事の読みどころ
  • 創造性傾向は、達成動機が高いと高くなり、リスクを取ったり新しい考えに挑んだりする気持ちにつながる。
  • 達成動機だけでは十分でなく、耐挫折力を通して創造性傾向が高まることが、研究で示された。
  • 耐挫折力は学生コンピテンスが高いほど強く働き、基礎力があると創造性が育ちやすくなる。

成果を求める気持ちは、なぜ創造性につながるのか

――大学生の創造性傾向を支える「挫折に向き合う力」と「コンピテンス」

大学教育の現場では、ここ数年、「知識を均一に教えること」から、「一人ひとりの特性に応じて育てること」へと、大きな転換が進んでいます。
その中で、特に重視されるようになってきた能力の一つが「創造性」です。

創造性というと、芸術的な才能やひらめきを思い浮かべる人も多いかもしれません。しかし教育心理学の分野では、創造性は一部の特別な人のものではなく、「育てることのできる傾向」だと考えられています。

今回紹介するのは、中国の**華東理工大学 経営学院(East China University of Science and Technology, Department of Business Administration)寧夏大学(Ningxia University)**の研究チームが行った調査研究です。
この研究は、大学生の「創造性傾向」が、どのような心理的要因によって支えられているのかを、比較的大規模なデータを用いて明らかにしています。

研究の焦点は、
達成動機(Achievement Motivation)
耐挫折力(Anti-frustration Ability)
学生コンピテンス(Student Competence)
という三つの心理的・行動的要素でした。


「創造性傾向」とは何か

この研究で扱われている「創造性傾向」とは、問題に直面したときに創造的に関わろうとする心理的な傾きのことです。
研究では、次の四つの特徴から構成されるものとして定義されています。

  • リスクを取ろうとする姿勢

  • 好奇心の強さ

  • 想像力の豊かさ

  • 困難や複雑さに挑もうとする態度

重要なのは、これは「実際にどれだけ創造的な成果を出したか」ではなく、「創造的に考え、行動しようとする心の向き」を測っている点です。
創造性の土台となる、いわば「準備状態」に近い概念だと言えます。


達成動機は、創造性傾向を高めるのか

研究チームがまず検討したのは、達成動機と創造性傾向の関係です。

達成動機とは、「うまくやりたい」「成果を出したい」「失敗を避けたい」といった、目標達成に向かう内的な動機づけを指します。
この研究では、

  • 成功を目指す気持ち

  • 失敗を避けようとする気持ち
    のバランスを含めた総合的な指標として測定されました。

1275人の大学新入生を対象とした分析の結果、
達成動機が高い学生ほど、創造性傾向も高い
という明確な正の関連が確認されました。

つまり、「成果を出したい」「できるようになりたい」という気持ちそのものが、

  • リスクを取る

  • 新しい発想を試す

  • 難しい課題に挑む
    といった創造的な態度につながっていたのです。


なぜ達成動機だけでは十分ではないのか

しかし研究チームは、ここで立ち止まります。
達成動機が強くても、すべての学生が同じように創造的になるわけではありません。

そこで注目されたのが、**耐挫折力(Anti-frustration Ability)**でした。

耐挫折力とは、単に「我慢する力」ではありません。
この研究では、

  • 挫折を受け止める

  • 挫折から学ぶ

  • 挫折をきっかけに立て直す
    といった、より能動的な心理的能力として定義されています。


耐挫折力は「橋渡し役」になっていた

分析の結果、次のような構造が明らかになりました。

  • 達成動機が高いほど、耐挫折力が高い

  • 耐挫折力が高いほど、創造性傾向が高い

  • 達成動機と創造性傾向の関係は、耐挫折力によって部分的に媒介されていた

つまり、
達成動機 → 耐挫折力 → 創造性傾向
という経路が、統計的に確認されたのです。

成果を求める気持ちは、直接的に創造性を高めるだけでなく、
「うまくいかないときに踏みとどまり、考え続ける力」を通して、創造性を支えていました。


挫折に強い人は、なぜ創造的になりやすいのか

研究では、耐挫折力の高い学生の特徴として、次のような点が挙げられています。

  • 困難な状況でも感情が大きく崩れにくい

  • 自信や心理的準備が比較的整っている

  • 対人関係や状況理解を通して立て直しができる

こうした状態では、注意や思考の幅が狭まらず、
「別のやり方はないか」「ここから何が学べるか」と考える余地が残ります。

結果として、リスクを避けるよりも、試行錯誤を続ける選択がしやすくなり、
それが創造性傾向の高さにつながっていくと考えられています。


もう一つの鍵――学生コンピテンス

さらにこの研究で特徴的なのは、**学生コンピテンス(Student Competence)**という要因を組み込んでいる点です。

学生コンピテンスとは、

  • 問題解決力

  • 合理的思考

  • 自己管理

  • 学ぶことを楽しむ姿勢

  • 社会や世界を理解する力
    などを含む、比較的広い基礎的能力の集合体です。


コンピテンスが高いと、何が変わるのか

分析の結果、学生コンピテンスは、
達成動機が耐挫折力に影響する段階を調整していました。

具体的には、

  • コンピテンスが高い学生では、
     達成動機が耐挫折力を強く高めていた

  • コンピテンスが低い学生では、
     達成動機があっても、耐挫折力の向上は限定的だった

つまり、「頑張りたい」という気持ちが、
実際に挫折に耐える力へと変換されるかどうかは、
その人がどれだけ基礎的な能力やスキルを持っているかに左右されていたのです。


「やる気」だけでは乗り越えられない場面

この結果は、直感的にも理解しやすいかもしれません。

どれだけ意欲があっても、

  • 問題をどう整理すればいいかわからない

  • 選択肢を比較する力がない

  • 自分の状態を調整できない

こうした状況では、挫折は「学びの材料」ではなく、「行き止まり」になりやすくなります。

一方で、コンピテンスがある学生は、
達成動機を現実的な行動や戦略に結びつけることができ、
その結果、挫折に向き合い続ける力が育ちやすくなると考えられます。


教育への示唆――創造性は三層構造で育つ

この研究が示しているのは、創造性傾向が、
一つの性格特性だけで決まるものではないという点です。

  • 成果を求める気持ち(達成動機)

  • うまくいかないときに折れない力(耐挫折力)

  • それを支える基礎的能力(学生コンピテンス)

これらが重なり合うことで、創造性傾向は安定して育っていきます。

研究チームは、大学教育において、

  • 動機づけだけを高める

  • 根性論で粘らせる
    といった単線的なアプローチでは不十分だと示唆しています。


創造性は「守られた挑戦」の中で育つ

達成動機があり、失敗しても立て直せて、
さらに考え直すための道具や力を持っている。
そのような環境と個人特性がそろったとき、
創造性は初めて、持続的に発揮されるのかもしれません。

この研究は、
「創造性を育てるとは、何を整えることなのか」
という問いに、心理学的な構造として一つの答えを示しています。

創造性は、特別な才能ではなく、
動機・耐性・基礎力の重なり合いの中で育つ傾向である。
その視点は、教育だけでなく、私たち一人ひとりの学び方を見直すヒントにもなりそうです。

(出典:Frontiers in Psychology DOI: 10.3389/fpsyg.2025.1720648

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