- インターネット依存は自傷のリスクと関係があり、直接の要因だけでなく感情の連鎖を通じて影響することがある。
- 社会不安が抑うつへつながり、さらに自傷へと進む経路を作ることが明らかになった。
- 感情をよく理解する性質が必ずしも守りにならず、感情に注目しすぎるとリスクが高まることがある。
思春期は、人格や自己像が大きく揺れ動く時期です。
この時期、多くの若者がスマートフォンやインターネットと深く関わりながら成長していきます。しかし、その関係が過剰になると、心の内側で静かに、しかし確実に変化が積み重なっていく可能性があります。
今回紹介する研究は、中国の高校生を対象に、「インターネット依存」と「非自殺的自傷行為(自殺の意図を伴わない自傷)」の関係を、感情の連鎖という視点から丁寧に解きほぐしたものです。この研究は、インターネット依存が直接自傷を引き起こすだけでなく、社会不安と抑うつという感情の連なりを通じて、そのリスクが高まっていく過程を明らかにしています。
非自殺的自傷行為とは何か
非自殺的自傷行為とは、死を目的とせずに、自らの身体を意図的に傷つける行為を指します。切る、引っかく、火傷を負わせる、噛むといった行為が含まれます。
この行動は長い間、表に出にくい問題として扱われてきました。しかし近年の研究により、特に思春期において頻度が高く、放置すると慢性化しやすいことが明らかになっています。自傷は痛みへの感受性の低下や、自己イメージの固定化を通じて、繰り返されやすくなる特徴を持っています。
インターネット依存と自傷の「直接的な関係」
本研究では、インターネット依存の程度が高い生徒ほど、非自殺的自傷行為の頻度が高いことが確認されました。
統計的にも、両者のあいだには明確な正の関連が示されています。
研究者たちは、インターネット上で自傷に関する情報や体験談に触れること、またオンライン空間が苦痛からの逃避先になりやすいことが、この関係を強めている可能性を指摘しています。
ただし、この研究の核心は、「インターネット依存があるから自傷する」という単純な図式ではありません。
社会不安という最初の分岐点
研究が注目した最初の感情は「社会不安」です。
社会不安とは、人前で否定的に評価されることへの強い恐れや緊張を指します。
インターネット依存が強まると、現実の対人関係の機会が減少します。その結果、対面でのやりとりに自信が持てなくなり、社会不安が高まりやすくなります。
この研究では、インターネット依存が社会不安を有意に高めることが示されました。つまり、インターネットへの過度な没入は、現実世界での不安感情を増幅させる方向に働いていたのです。
社会不安から抑うつへ
次に明らかになったのは、社会不安が「抑うつ」へとつながる流れです。
社会的な場面での不安や回避が続くと、自分には価値がない、うまくやれないという否定的な自己評価が強まりやすくなります。研究では、社会不安が高いほど、抑うつ症状も強くなることが確認されました。
この結果は、社会不安と抑うつが独立した問題ではなく、時間的・心理的に連なって生じやすいことを示しています。
感情の連鎖が自傷に至るまで
この研究の最も重要な発見は、次の連鎖です。
インターネット依存 → 社会不安 → 抑うつ → 非自殺的自傷行為
社会不安と抑うつは、それぞれ単独でも自傷と関連しますが、両者が連なったとき、その影響はより強くなります。統計解析の結果、この「連鎖的媒介経路」が、インターネット依存と自傷の関係の約4分の1を説明していました。
自傷は、耐えがたい感情を一時的に和らげる手段として選ばれることがあります。この研究は、その背景にある感情の積み重なりを、数量的に示した点に特徴があります。
感情を「よくわかる力」は、なぜ保護にならなかったのか
本研究がもう一つ注目したのが、「特性メタ気分(トレイト・メタムード)」です。
これは、自分の感情にどれだけ注意を向け、理解し、調整しようとする傾向があるかを示す個人特性です。
一般には、感情への気づきや理解が高いことは、心の健康にとって良いものだと考えられがちです。しかし、この研究では、意外な結果が示されました。
特性メタ気分が高い生徒ほど、インターネット依存から社会不安へと進む影響が、むしろ強くなっていたのです。
感情への敏感さが、負担になるとき
研究者たちは、この結果を「感情への過度な注目」と関連づけて解釈しています。
感情を細かく察知し、分析しようとする力が高い場合、適切な調整手段が伴わなければ、かえって反すうや不安を強めてしまうことがあります。その結果、社会不安や抑うつが増幅され、自傷行為へとつながるリスクが高まる可能性が示されました。
つまり、感情をよく理解しようとする姿勢そのものが問題なのではなく、「理解した感情をどう扱えるか」が重要であることが浮かび上がってきます。
この研究が示していること
この研究は、次の点を明確に示しています。
・インターネット依存は、自傷の直接的なリスク因子である
・社会不安と抑うつは、その影響を媒介する重要な感情経路である
・感情への気づきの高さは、必ずしも保護的には働かない
インターネットの問題は、使用時間や内容だけでは語れません。その背後で進行している感情の変化を捉えることが、より本質的な理解につながることを、この研究は示唆しています。
まとめ
インターネット依存と非自殺的自傷行為の関係は、単純な因果ではなく、社会不安と抑うつという感情の連鎖を通じて形づくられていました。
また、感情を深く理解しようとする特性が、状況によってはリスクを強める可能性があることも示されました。これは、思春期の心の繊細さと複雑さを改めて浮き彫りにする結果です。
インターネットと共に育つ時代において、私たちは「どれだけ使うか」だけでなく、「そのとき心の中で何が起きているのか」に、より注意深く目を向ける必要があるのかもしれません。
(出典:Frontiers in Psychology DOI: 10.3389/fpsyg.2025.1735137)

