「たった3分の動画」で、偏見は動くのか

この記事の読みどころ
  • 無意識の偏見は、約3分の動画で変わることがあると分かった。
  • 動画を見たグループでは、黒人と示唆される名前の人への分配額が増える傾向が見られた。
  • 影響は限定的だが、情報の伝え方が偏見を動かす大事な要因だと示唆される。

私たちは、差別や偏見を「よくない」と頭では理解しています。
それでも、無意識のレベルでは、誰かを少し遠ざけたり、評価を低く見積もったりしてしまうことがあります。

今回取り上げる研究は、その“無意識の傾き”に、たった一本の短い動画がどれほど影響を与えるのかを、大規模な実験で確かめたものです。研究を行ったのは、アメリカのクレアモント大学院大学の神経経済学研究センターおよびドラッカー/イトウ経営大学院の研究チームです。


偏見は「意見」だけでなく「行動」にも表れる

この研究が興味深いのは、「どう思うか」という意見だけでなく、「どう振る舞うか」という行動にも注目している点です。

まず、参加者に対して、黒人に対する態度を測る心理尺度を実施しました。ここでは、表面的な好悪だけでなく、より無意識に近い評価傾向も含めて測定されています。

さらに研究チームは、実際の行動に近い指標として、10ドルをどのように分けるかという分配課題を用いました。これはアルティメイタム・ゲームと呼ばれるもので、相手に提示する金額を自分で決めるというシンプルな課題です。

重要なのは、相手の名前です。
典型的な白人の名前と、典型的な黒人の名前がランダムに提示されます。名前だけで、分配金額に差が生まれるのかを見たのです。

つまりこの研究は、「私は差別しません」と答えるかどうかではなく、実際にどれだけ分けるかという、より具体的な選択に焦点を当てています。


3分の動画という介入

実験では、参加者をいくつかのグループに分けました。

一部の参加者は、黒人の人々が直面してきた歴史的・社会的な不平等を説明する短い動画を視聴しました。動画の長さはわずか約3分です。

他のグループは、内容の異なる動画を見ました。つまり、「人種的不平等に関する情報」に触れるかどうかが、実験の分かれ目になります。

研究の問いは明確です。

短い教育的動画を見ることで、
・態度は変わるのか
・行動も変わるのか
・その変化は一時的なのか、それとも持続するのか


結果:態度は動き、行動も一部動いた

結果は単純ではありませんが、重要な点があります。

まず、黒人に対する態度は、動画を見たグループで有意に改善しました。わずか数分の情報提示でも、認識の枠組みは動くことが示されたのです。

さらに、分配課題においても、黒人と示唆される名前の相手に対する提示額が増える傾向が確認されました。つまり、意見だけでなく、実際の金銭的選択にも影響が及んだのです。

ただし、すべてが劇的に変わるわけではありません。
効果の大きさは限定的であり、個人差もあります。

それでも、「短時間の教育的介入が、態度と行動の両方に影響を与えうる」という点は、見過ごせない結果です。


偏見は固定されたものではない

この研究が示しているのは、偏見が「一生変わらない固定的な性質」ではないということです。

私たちは情報に影響されます。
しかも、意外なほど短い時間でも、その影響は起こり得ます。

もちろん、この研究は特定の状況で行われた実験です。
現実社会の複雑さすべてを再現しているわけではありません。

しかし、少なくともこう言えるでしょう。

偏見は、ただの道徳的問題ではなく、
「情報によって動く認知の仕組み」の問題でもある。

もしそうなら、社会的な対立や分断を減らすためのアプローチも、感情的な非難だけではなく、「どんな情報が、どのように伝わるか」という設計の問題になるはずです。


たった3分で、何が変わるのか

3分という時間は、とても短いものです。
動画を一本見るだけで、社会は変わらないかもしれません。

けれども、人の心の傾きが少しだけ動くとき、
その小さな変化が、次の選択に影響します。

10ドルの分け方。
それは象徴的な行動ですが、その背後には「誰をどれだけ信頼するか」という判断が含まれています。

この研究は問いかけています。

私たちの判断は、本当に「自分の確固たる信念」だけでできているのか。
それとも、私たちは思っている以上に、見聞きする情報に影響されているのか。

そしてもし後者だとすれば、
どのような情報環境をつくるかは、社会の未来にとって決して小さな問題ではないのかもしれません。

(出典:PLOS One DOI: 10.1371/journal.pone.0339057

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