AIは合理的、人間は非合理? 研究が示した意外な結果

この記事の読みどころ
  • 人間は確率を判断するとき、条件が増えると「ありそう」と感じたり、関係を整理できなかったりする間違いをすることがある。
  • AIも確率の判断を間違えることがあるが、その間違い方は人間とは違うパターンで現れる。
  • AIは人間の思考をそのまま再現せず、別の仕組みで答えを出す新しい知性の可能性がある。

私たちは毎日、「どちらが起こりそうか」をなんとなく判断しながら生きています。

雨が降りそうかどうか。
この店は混んでいそうか。
この人は信用できそうか。

こうした判断の多くは、「確率」を頭の中で想像することによって行われています。
しかし、人間の確率の判断は、必ずしも数学的に正しいわけではありません。

たとえば、心理学の研究では昔からよく知られている現象があります。

ある人物の説明を読んだあとで、

「この人は銀行員です」

「この人は銀行員で、さらに社会運動にも関わっています」

どちらがありそうか、と聞くと、多くの人が後者を選びます。

しかし数学的には、これはおかしな答えです。

なぜなら、

「銀行員である」
という条件に、さらに
「社会運動に関わっている」
という条件を追加すれば、可能性は狭くなるはずだからです。

つまり、本来は

銀行員である
の方が、
銀行員で社会運動にも関わっている

より起こりやすいはずなのです。

それでも人は、より「それらしく感じる」方を選んでしまうことがあります。

こうした判断のクセは、人間の思考の特徴として長く研究されてきました。

人間とAIの判断は同じなのか

近年、大規模言語モデルと呼ばれるAIが急速に普及しています。
多くの人が、さまざまな場面でAIに質問し、助言を求めるようになりました。

では、こうしたAIは「確率」をどのように判断しているのでしょうか。

人間と同じような判断をするのでしょうか。
それとも、まったく違うのでしょうか。

この疑問を詳しく調べた研究が発表されました。

研究では、人間の確率判断に関する大規模なデータと、AIの回答を比較しています。
AIには、現在広く知られている大規模言語モデルの一つが使われました。

研究者たちは、特に次のような判断に注目しました。

・条件が増えたほうを「ありそう」と感じてしまう現象
・複数の可能性の関係を正しく理解できるかどうか
・ある出来事が起きない確率を正しく考えられるか

つまり、人間がよく間違えるタイプの問題に、AIがどう答えるのかを調べたのです。

人間はさまざまなタイプの間違いをする

まず、人間のデータを見ると、確率判断にはいくつかの特徴的な間違いがあることが確認されました。

ある場合には、

条件が多いほうを「ありそう」と感じてしまう。

別の場合には、

二つの出来事の関係をうまく整理できない。

さらに、

ある出来事が起こらない確率と、起こる確率の関係を正しく扱えないこともあります。

こうした判断のクセは、個人によって少しずつ違います。
しかし、全体として見ると、人間には一定のパターンがあることがわかります。

つまり、人間の確率判断には「特徴的なゆがみ」があるのです。

AIは人間と同じように間違うのか

では、AIはどうだったのでしょうか。

研究の結果は、かなり意外なものでした。

AIも確率判断で間違うことがあります。
しかし、その間違い方は、人間とはかなり違っていたのです。

人間の場合、いくつかのタイプの間違いが一緒に現れる傾向があります。
つまり、「このタイプの誤りをする人は、別の誤りもしやすい」というパターンがあります。

ところがAIでは、そのようなまとまりはあまり見られませんでした。

人間とは違う形で、ばらばらの誤りが現れたのです。

さらに興味深いのは、AIが人間と同じような答えを出す場合でも、その理由が同じとは限らない可能性があることです。

つまり、

見た目の答えは似ている
しかし、そこに至る仕組みは違うかもしれない

ということです。

AIは人間の思考を再現しているわけではない

この研究は、AIの能力について重要な示唆を与えています。

AIは人間の文章を大量に学習しているため、
人間のような答えを出すことがあります。

しかし、それは必ずしも

人間と同じように考えている

ことを意味するわけではありません。

人間の思考には、

直感
経験
社会的理解
感情

など、さまざまな要素が関わっています。

一方で、AIは膨大な文章のパターンを学習することで答えを生成しています。

そのため、同じ問題に答えていても、背後の仕組みはかなり違う可能性があります。

AIを「人間のように考える存在」と思うと誤解が生まれる

AIが人間らしい文章を書くと、多くの人は

「人間と同じように理解している」

と感じてしまいます。

しかし、この研究は、その印象に注意が必要であることを示しています。

AIは確かに高度な文章生成ができます。
しかし、人間の思考をそのまま再現しているわけではありません。

人間の判断のクセとも、完全には一致しません。

つまり、

人間の知性をコピーした存在

というよりも、

人間とは違う仕組みで動く、新しいタイプの知的システム

と考えたほうが近い可能性があります。

人間とAIの「考え方の違い」を理解すること

この研究は、人間とAIを単純に比べることの難しさを示しています。

AIが人間と同じ答えを出すときでも、
その理由が同じとは限りません。

また、AIが間違えるときも、
人間と同じタイプの間違いとは限りません。

こうした違いを理解することは、これからAIを社会で使っていくうえでとても重要です。

AIを過大評価することも、
逆に過小評価することも、
どちらも誤解につながる可能性があります。

この研究を行った組織

この研究は、イギリスのCity St George’s, University of London(シティ・セントジョージズ・ロンドン大学)心理学部と、University of Plymouth(プリマス大学)心理学部の研究者たちによって行われました。

人間の判断研究で長く使われてきた大規模データと、AIの回答を直接比較することで、
人間とAIの思考の違いを詳しく分析しています。

AIは「人間の代わり」ではなく、別の知性かもしれない

AIの能力は急速に進歩しています。
文章を書き、説明をし、助言を与えることもできます。

しかし、この研究が示しているのは、
AIは単純に「人間の知性をコピーしたもの」ではないということです。

人間とは違う方法で判断し、
違う形で間違い、
違うパターンで答えを出している可能性があります。

AIを理解するということは、
人間の知性を理解することでもあります。

そして同時に、
私たちとは異なる知性のあり方を知ることでもあるのかもしれません。

これからAIが社会に広く入り込んでいくなかで、
「人間とAIはどこが似ていて、どこが違うのか」

その問いは、ますます重要になっていきそうです。

(出典:Frontiers in Psychology DOI: 10.3389/fpsyg.2026.1782184

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