- 学習の瞬間に瞳孔の変化がどう現れるかを、情報利得という指標とともに調べた研究だ。
- フィードバック直後と少し遅れた時間帯で反応が異なり、予測の更新の仕方や課題の進み方に影響が出ることが分かった。
- 瞳孔は学習量だけで決まるわけでなく、信念の更新過程を多面的に反映する生理指標として読み取れるとされる。
フィードバックのあとに、目は何を語っているのか
私たちは日常生活の中で、無数の予測をしながら生きています。信号はそろそろ変わりそうだ、相手はこう答えてくるだろう、この選択はたぶん正しい。こうした予測は、外れたときには修正され、当たったときには少し強化されます。この「予測と修正」の積み重ねが、学習の中核にあります。
この論文が問いかけているのは、その学習の瞬間が、どこに、どのように現れているのかという点です。研究者たちは「瞳孔の変化」に注目しました。瞳孔は光の量だけでなく、驚きや注意、緊張といった内的な状態にも反応することが知られています。では、予測が外れたり更新されたりする瞬間にも、瞳孔は反応しているのでしょうか。
予測誤差と情報量という考え方
この研究の理論的な背景にあるのは、予測処理という考え方です。脳は世界についての内部モデルを持ち、予測と実際の結果との差、つまり予測誤差をもとにモデルを更新していくと考えられています。
研究者たちは、単なる「当たった・外れた」ではなく、どれくらい信念が更新されたかを数量化するために、情報理論の指標を用いました。とくに重視されたのが「情報利得」と呼ばれる量です。これは、結果を知る前と後で、信念の分布がどれだけ変化したかを表す指標です。
重要なのは、情報利得が単なる驚きとは異なる点です。驚きは「予想外だったかどうか」に強く関係しますが、情報利得は「どれだけ学習が進んだか」に対応します。この研究は、瞳孔の変化がどちらに近いのか、あるいは状況によって異なるのかを検討しています。
二つの異なる学習課題
研究では、内容の異なる二つの課題が用いられました。どちらも参加者は選択を行い、その結果についてフィードバックを受けますが、学習の構造が異なっています。
一つ目の課題では、視覚的な手がかりをもとに、次に現れる刺激の向きを予測します。手がかりと結果の結びつきには、頻度の偏りがあります。参加者は試行を重ねる中で、その確率構造を学習していきます。
二つ目の課題では、事前の課題で経験した文字と色の組み合わせについて、どれがよく一緒に出てきたかを判断します。こちらでは、学習はすでに終わっており、後の判断課題では、その記憶にもとづいて選択します。
この二つの課題は、学習の進み方や不確実性の変化のしかたが異なります。研究者たちは、この違いが瞳孔反応にどう影響するかを比較しました。
フィードバック直後と、少し遅れて現れる反応
分析の中で重要だったのは、時間の観点です。研究者たちは、フィードバック直後の比較的早い時間帯と、少し遅れた時間帯に分けて瞳孔の変化を調べました。
その結果、同じフィードバックに対する反応でも、時間帯によって意味が異なる可能性が示されました。早い時間帯では、予測がどれくらい更新されたか、つまり情報利得と関連する反応が見られることがあります。一方で、遅い時間帯では、正解か不正解かといった評価的な側面や、別の情報量指標との関連が強まる場合がありました。
この時間的な違いは、学習が一瞬で終わるのではなく、複数の段階を経て進んでいることを示唆しています。
情報利得と瞳孔の関係は一方向ではない
とくに興味深い結果は、情報利得と瞳孔反応の「向き」が課題によって異なっていた点です。
一つ目の課題では、情報利得が大きいほど、瞳孔の反応は小さくなる傾向が見られました。つまり、多くを学んだ試行ほど、瞳孔は拡大しにくかったのです。
一方、二つ目の課題では逆の関係が観察されました。情報利得が大きい試行ほど、瞳孔はより大きく拡大しました。
この結果は、瞳孔の変化が単純に「学習量の多さ」を反映しているわけではないことを示しています。どのような文脈で、どの段階の学習なのかによって、同じ情報利得でも身体反応の現れ方が変わる可能性があるのです。
瞳孔は内的な信念更新の窓になるのか
研究者たちは、理想的な学習者モデルを用いて、各試行での情報利得や驚き、不確実性を推定し、それらと瞳孔反応との関係を詳しく分析しました。その結果、少なくとも一部の時間帯では、瞳孔の変化が情報利得と系統的に結びついていることが示されました。
ただし、その結びつきは常に同じ形ではありません。課題の構造、学習の段階、時間帯といった要因が重なり合い、複雑なパターンを生み出しています。
この点で、この研究は「瞳孔は予測誤差を映す単純な指標である」という見方を慎重に修正します。むしろ瞳孔は、学習に伴う信念更新のプロセスを、多面的に反映する生理指標だと考えられます。
学習を身体から読み取るという視点
この論文が示しているのは、学習が頭の中だけで完結する現象ではないということです。私たちが何かを学ぶとき、その過程は視線や瞳孔といった身体の反応にも現れています。
瞳孔の変化は、主観的にはほとんど意識されません。しかし、そのわずかな変化を丁寧に追うことで、信念が更新される瞬間や、予測が書き換えられる過程を捉えられる可能性があります。
学習とは何か、理解とはどのように進むのか。その問いに対して、この研究は「目」という意外な場所から、新しい手がかりを差し出しています。
(出典: eLife)

