将来を考える力は、教えられるものなのか

この記事の読みどころ
  • 思春期の子どもが将来を思い描く力(未来志向)は、親の自律性支援と友だち関係の良さと関係があるとされる。
  • 親の自律性支援は直接ではなく、成長マインドセットや希望といった内面の変化を経て未来志向につながる。
  • 友だち関係はこの連鎖の最初の段階を支えるが、未来志向自体を直接変えるわけではなく、学校の人間関係も影響する。

未来を考えられる子は、どこで育つのか

「先のことを考えなさい」と言われても、すぐに考えられる子もいれば、そうでない子もいます。
それは性格や努力の差だけではなく、日々の人との関わりの中で、少しずつ形づくられている可能性があります。

この研究が注目したのは、思春期初期の子どもがもつ未来志向です。
将来を思い描き、目標を考え、自分の先にある時間を現実のものとして感じられるかどうか。その力が、どのように育つのかを検討しています。

研究者たちは、親の関わり方がこの未来志向と結びついているのではないか、さらにその影響は、子どもの内側で起こる心理的な変化を通して強まるのではないか、と考えました。
そして、その最初の段階には、友だち関係の質が関係しているのではないか、という仮説を立てています。


親の「自律性支援」とは何か

研究で中心となる概念は、親の自律性支援です。
これは、子どもを放任することや、好き勝手にさせることとは異なります。

具体的には、

  • 子どもの気持ちや考えを尊重する

  • ルールや期待の理由を、意味のある形で伝える

  • 子どもが選べる余地を残す

  • 支配的・威圧的な言い方を避ける

といった関わり方を指します。

行動を無理にコントロールするのではなく、子ども自身が「納得して動ける状態」をつくることが重視されています。


研究はどこで行われたのか

この研究は、中国の研究チームによって行われました。
中国科学院の心理学系研究拠点と、中国科学院大学に所属する研究者が中心となり、思春期の子どもの心理発達を調べています。


調査の対象と方法

調査の対象となったのは、中国・北京郊外の中学校に通う生徒です。
分析に用いられたのは約600人分のデータで、平均年齢は13歳前後でした。

質問紙を用いて、次のような点が測定されています。

  • 親からどの程度、自律性を尊重されていると感じているか

  • 将来についてどれくらい考え、見通しを持っているか

  • 「能力は努力で伸ばせる」と感じているか

  • 目標に向かう道筋を考えられるという感覚(希望)

  • 友だちとの関係の良さ

これらの変数の関係を、統計的に詳しく分析しています。


親の関わりと未来志向のあいだにあったもの

分析の結果、親の自律性支援が高いほど、子どもの未来志向も高い傾向があることが確認されました。

ただし、この研究の特徴は、「親の関わりが直接、未来志向を高める」と単純に結論づけていない点にあります。
研究者たちは、そのあいだにある子どもの内側の変化に注目しました。


心の中で起きていた連鎖

検討されたのは、次のような心理的な流れです。

まず、親から自律性を尊重されていると感じると、
子どもは「能力は生まれつき決まっているものではなく、伸ばせるものだ」と考えやすくなります。
これは成長マインドセットと呼ばれる考え方です。

次に、その成長マインドセットがあると、
「目標に向かう道筋を考えられる」「工夫すれば前に進める」という感覚、つまり希望が育ちやすくなります。

そして、この希望が、将来を現実のものとして思い描く未来志向につながっていく、という連鎖です。

分析の結果、この一連の流れは統計的にも支持されていました。
親の自律性支援は、成長マインドセットや希望を通じて、段階的に未来志向と結びついていたのです。


友だち関係が影響していた場所

もう一つ重要だったのが、友だち関係です。

研究では、友だち関係の良さが、親の自律性支援と成長マインドセットの結びつきを左右していました。
友だちとの関係が良好な場合、親の尊重的な関わりは、「自分は伸びる」という感覚につながりやすくなっていました。

一方で、友だち関係は、希望や未来志向そのものを直接左右していたわけではありません。
影響していたのは、あくまで連鎖の最初の段階でした。

この結果は、親と子の関係だけでなく、学校での人間関係が、子どもの内的な土台づくりに関わっている可能性を示しています。


親だけでも、友だちだけでもない

この研究が示しているのは、「親がすべて」「友だちがすべて」という考え方ではありません。

親の関わり方
学校での人間関係
子どもの中で育つ考え方や感覚

これらが重なり合い、連鎖することで、未来志向が形づくられていくという構造が描かれています。


この研究からどこまで言えるのか

この研究は、同じ時点での質問紙データをもとにしています。
そのため、「親の関わりが原因で未来志向が高まった」と断定することはできません。

また、調査対象は特定の地域・文化圏の中学生に限られています。
他の国や年齢層でも同じ結果になるかどうかは、今後の研究が必要です。

それでも、未来志向を「やる気」や「性格」の問題として片づけず、
関係性と心理の連なりとして捉えた点には、大きな意味があります。


未来志向は、教え込むものではない

未来を考えるには、心の余白が必要です。
不安や圧力が強い状況では、人は先を思い描くことが難しくなります。

この研究は、未来志向を「計画力」や「意識の高さ」として扱っていません。
その前に、

  • 自分は成長できると思えるか

  • 目標への道筋を考えられると感じているか

という、内側の足場があるかどうかが重要だと示しています。

そしてその足場は、日常の関係の中で、少しずつ育っていくものです。
命令や説教で作られるものではありません。

未来志向は、結果として立ち上がってくるもの。
この研究は、その背景にあるプロセスを、丁寧に描き出しています。

Frontiers in Psychology

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