生成AIを使うと、英語学習の気持ちが変わるらしい

この記事の読みどころ
  • 生成AIを使う英語学習は全体的に「楽しい」と感じる学生が多く、特に教師の設計や説明が楽しさを高めた
  • 性別や英語力には大きな差はなく、使用期間が長いほど楽しさの質に変化があった
  • 楽しいと感じた場面は対話性・創造性・協働性を含む活動で、継続使用と適切な指導が大事だとされる

生成AIは、英語学習をどれだけ「楽しく」変えたのか

近年、生成AI(ジェネレーティブAI)が語学学習の現場に急速に入り込んでいます。
英語学習においても、文章作成、会話練習、発音支援など、さまざまな場面で使われるようになりました。

これまでの研究では、生成AIが語彙力や作文力といった認知的な成果に与える影響が多く検討されてきました。一方で、「学ぶときの気持ち」──つまり感情面、とくに楽しさがどう変わるのかについては、十分に調べられてきたとは言えませんでした。

本研究は、その空白に正面から取り組んだものです。中国の大学で英語を学ぶ学生を対象に、生成AIを使った英語学習が、学習中の外国語学習の楽しさにどのような影響を与えるのかを調べました。


「外国語学習の楽しさ」とは何か

研究で注目されたのは、外国語学習の楽しさ(Foreign Language Enjoyment)です。
これは単なる「楽しい気分」ではなく、

  • 少し難しい課題に挑戦している感覚

  • できるようになっていく手応え

  • 安心して学べる雰囲気

といった要素が組み合わさった、比較的複雑な感情とされています。

この楽しさは、大きく次の三つの側面から捉えられます。

  • 個人的側面:自分が成長していると感じられるか

  • 教師に関わる側面:指導や支援が前向きに感じられるか

  • 学習環境の側面:雰囲気や周囲との関係が心地よいか

本研究では、生成AIを使った英語学習の中で、これらがどのように変化したのかが検討されました。


研究はどのように行われたのか

研究は、中国南東部の公立大学で行われました。
対象は英語を専攻していない2年生の学生で、通常の大学英語授業の中に、生成AIを使う課題が組み込まれました。

学生たちは約12週間にわたり、

  • 英文の作成

  • リスニング・スピーキング練習

  • 翻訳課題

  • 音楽や動画を使った表現活動

などを、複数の生成AIツールを用いて行いました。

その後、98人が質問紙に回答し、10人が詳しいインタビューに参加しました。
分析では、楽しさの全体像とともに、次の三つの要因が検討されました。

  • 性別

  • 英語力

  • 生成AIの使用期間


生成AIを使った英語学習は「楽しかった」のか

まず明らかになったのは、全体として中程度以上の楽しさが報告されたという点です。

特に高かったのは、「教師に関わる楽しさ」でした。
生成AIそのものだけでなく、

  • 教師が課題をどう設計したか

  • どのように使い方を説明したか

といった点が、学習の楽しさに大きく関わっていたことが示唆されます。

インタビューでも、学生たちは「生成AIがあることで、学習が前向きになった」「支えられている感じがした」と語っていました。


性別による違いはあったのか

統計的には、性別による有意な差は見られませんでした
男性も女性も、ほぼ同じ程度の楽しさを感じていたのです。

ただし、インタビューでは、楽しさの「質」に違いがあることが語られました。

  • 女性は、表現の正確さや説明の丁寧さを重視しやすい

  • 男性は、課題を効率よく終えられることや論理性を重視しやすい

そのため、どんな使い方をしたときに楽しいと感じるかは異なるものの、楽しさの強さそのものは大きく変わらないという結果になりました。


英語力の違いは影響したのか

英語力についても、意外な結果が得られました。
英語力が高い学生と低い学生の間で、楽しさの平均値に有意な差はありませんでした

むしろ、数値上は英語力がやや低い学生の方が、少し高い楽しさを示していました。

インタビューでは、多くの学生が「英語力が足りないと楽しめない」と感じていると答えていましたが、生成AIを使うことで、

  • わからない部分を補ってもらえる

  • 会話の失敗を気にせず試せる

といった経験が、英語力の低さを補い、結果的に楽しさにつながっていたことがうかがえます。


もっとも大きな影響を与えたのは「使用期間」だった

三つの要因の中で、はっきりと影響が確認されたのは、生成AIの使用期間でした。

特に、

  • 6か月未満

  • 6か月以上

で、楽しさに明確な差が見られました。

6か月以上使っていた学生は、楽しさが質的に変化していました。
インタビューからは、次のような段階が語られています。

  1. 最初の新鮮さの段階
    目新しさそのものが楽しい

  2. 慣れと調整の段階
    新鮮さは薄れるが、使い方を工夫し始める

  3. 停滞か突破かの段階
    使いこなすことで、楽しさが再び高まる

6か月という期間は、単なる慣れではなく、自分なりの使い方を獲得する転換点だったと考えられます。


学生たちが「特に楽しい」と感じた場面

インタビューでは、楽しさを強く感じた具体的な場面も語られました。

  • 英語の歌詞を作り、音楽を生成したとき

  • グループで協力して、動画や発表資料を作ったとき

  • 会話練習で、間違いを気にせず話せたとき

共通していたのは、対話性・創造性・協働性のある活動でした。


懸念として語られたこと

一方で、学生たちは生成AIへの懸念も口にしています。

  • 使いすぎると考えなくなるのではないか

  • AIの答えをそのまま信じてしまう不安

  • 自分の力が伸びているのか分からなくなる感覚

楽しさと同時に、慎重さも必要だという認識が示されていました。


この研究が示していること

本研究から見えてくるのは、次の点です。

  • 生成AIは、多くの学生にとって英語学習を「楽しいもの」にしうる

  • 性別や英語力に関係なく、楽しさを感じられる可能性がある

  • ただし、継続的な使用適切な指導設計が重要である

生成AIは魔法の道具ではありませんが、学習の感情的な側面を支える、新しい環境を作り出していることが示されています。

英語学習が「つらいもの」から「試してみたくなるもの」へ変わるとき、その背景には、こうした静かな感情の変化があるのかもしれません。

(出典:BMC Psychology DOI: 10.1186/s40359-025-03870-y


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