- 性の満足度は三つの側面の組み合わせで成り立ち、興奮の強さ・感情の開き方・オーガズムの質が関係する。
- 性格だけで決まるわけではなく、「意味がある」「なんとか対処できる」と感じられる首尾一貫感が大きな影響を与える。
- その感覚は性格と関係して見えるが、人生を意味あるものとして捉えられるかどうかが鍵で、交際の有無も影響する可能性がある。
性の満足度を支えていた、もうひとつの要因
性の満足度について語るとき、よく持ち出されるのが「性格」です。
不安になりやすい人は満足しにくい。外向的な人は満足しやすい。
そんな説明は、どこかもっともらしく聞こえます。
ただ、今回紹介する研究は、その見方に少しブレーキをかけます。
性格が性の満足度に影響しているように見えても、その多くは「人生が理解できて、対処できて、意味があると感じられているか」という、もっと手前の感覚を通して説明できてしまう、というのです。
この研究は、ドイツのフライブルク教育大学(University of Education Freiburg)の公衆衛生・健康研究分野の研究チームによって行われました。
「性の満足度」は、単純な快・不快ではなかった
この研究で扱われている「性の満足度」は、トラブルがないかどうかではありません。
本人が、自分の性的な経験をどのように評価しているか、という主観的な満足感です。
研究では、性の満足度を一つの点数としてだけ扱うのではなく、その内側にある構造にも目を向けています。
分析の結果、性の満足度は次の三つの要素が重なり合ったものとして捉えられるとされました。
一つ目は、興奮や没入の強さに関わる要素です。
二つ目は、性の経験にともなう感情の開き方や、気分の質です。
三つ目は、オーガズムの質や体験の側面です。
「満足しているかどうか」は、単一の感覚ではなく、複数の体験的な側面の組み合わせとして成り立っている、という見方がここで提示されています。
性格だけで説明できるのか、という問い
研究チームがまず注目したのは、いわゆるビッグファイブと呼ばれる五つの性格特性です。
外向性、協調性、誠実性、神経症傾向、開放性という、心理学で広く使われてきた枠組みです。
ただし、この研究の中心的な問いは、
「どの性格が満足しやすいか」ではありません。
研究者がもう一つ重視したのが、「首尾一貫感(Sense of Coherence)」と呼ばれる感覚でした。
これは、人生や出来事について、
・だいたい理解できる
・なんとか対処できる
・取り組む意味があると感じられる
そうした感覚がどれくらい保たれているかを表す概念です。
直感的に言えば、「人生が完全にコントロールできている」感覚ではありません。
むしろ、「完璧ではないけれど、回ってはいる」という手応えに近いものです。
研究チームは、
性格 → 性の満足度
という一本道ではなく、
性格 → 首尾一貫感 → 性の満足度
という経路のほうが本質的ではないか、と考えました。
調査はどのように行われたのか
調査は、18歳から60歳までのドイツの成人を対象に、オンラインで行われました。
参加者は交際中の人も、交際していない人も含まれています。
質問では、
・性格特性
・首尾一貫感
・性の満足度
がそれぞれ短縮版の心理尺度で測定されました。
分析の前段階として、研究チームは「そもそも、この尺度がこのデータで適切に機能しているか」を慎重に確認しています。
その過程で、首尾一貫感は一つのまとまりとして扱うよりも、二つの側面に分けたほうが妥当だと判断されました。
一つは、「意味がある」「対処できる」という感覚に関わる側面。
もう一つは、「理解できる」という感覚に関わる側面です。
この分け方が、結果の解釈に大きく影響していきます。
性格の影響は、「意味と対処感」で説明しきれてしまった
分析の結果、まず確認されたのは、性格特性だけでも性の満足度の一部は説明できる、という点でした。
たとえば、不安や緊張を感じやすい傾向は、満足度とマイナスに結びついていました。
しかし、そこに首尾一貫感を加えると、状況が変わります。
「意味がある」「なんとかなる」という感覚を表す側面は、性の満足度と強く関連していました。
一方で、「理解できる」という側面は、それほど独立した役割を果たしていませんでした。
さらに重要なのは、
性格から性の満足度への直接的な影響をモデルから取り除いても、全体の説明力がほとんど下がらなかった、という点です。
つまり、性格が性の満足度に影響しているように見えても、その影響の多くは、
「人生や経験を、意味のあるものとして扱え、対処できているという感覚」
によって、すでに説明されてしまっていた可能性が高い、ということになります。
「理解できる感覚」は、別の特性と重なりすぎていた
研究者が注意点として挙げているのが、「理解できる」という側面の扱いです。
この側面は、不安や心配のしやすさと非常に強く結びついており、統計的にはほとんど同じもののように振る舞っていました。
そのため、首尾一貫感を一つの合計点で扱うと、性格特性との違いが見えにくくなる可能性があります。
研究者は、首尾一貫感を下位側面に分けて捉えることの重要性を示唆しています。
特に、「意味がある」「対処できる」という感覚のほうが、性格とは別の視点を提供してくれる可能性がある、と考えられています。
交際の有無より、「どう生きられているか」
調査では、交際関係にある人のほうが、平均的に性の満足度が高い傾向も見られました。
ただし、この差は単純に「パートナーがいるから満足」という話では終わりません。
交際中の人は、「意味がある」「なんとかなる」という感覚も高い傾向にありました。
人との関係性と、人生全体への手応えが、同時に動いている可能性が示されています。
この研究は横断的な調査であり、因果関係を断定することはできません。
それでも、「満足できないのは性格のせいだ」と個人に押し返してしまう説明から、一歩距離を取る視点を与えてくれます。
この研究が残している問い
この研究には限界もあります。
参加者の構成には偏りがあり、結果をそのまま一般化することはできません。
また、質問への答えやすさそのものが、参加・非参加に影響している可能性もあります。
それでも、この研究が提示した視点は静かですが重要です。
性の満足度を左右しているのは、
「どんな性格か」よりも、
「自分の人生を、意味のあるものとして扱えているか」。
満足できないとき、変えるべきものは、性格そのものではないのかもしれません。
むしろ、「なんとかやれている」という感覚を、どこで、どう取り戻せるのか。
この論文は、その問いをこちらに残していきます。
(出典:Frontiers in Psychology DOI: 10.3389/fpsyg.2026.1673425)

