ミームは、文化ではなく神経に入り込む

この記事の読みどころ
  • ミームは模倣で広がり、子どもは大人の行動を真似て脳に回路を作る。
  • ミームと遺伝子は競合したり協力したりする共進化的な関係にあり、言語の発達や胎児期の遺伝子がミームの土台を作る可能性がある。
  • 記憶は感情で強化されたミームの影響を受けて再構成されることがあり、自分だけの考えとは言えない面があるかもしれない。

ミームは「模倣の脳」によって増殖する

では、ミームはどのように脳に入り込み、広がっていくのでしょうか。

論文では、その鍵として**模倣(イミテーション)**が挙げられています。

人間の脳には、他人の行動を見るだけで、自分がそれを実行しているかのように活動する神経回路があることが知られています。
この仕組みは、行動の学習だけでなく、価値観や意味の共有にも関わっています。

人間の子どもは、とくにこの模倣能力が非常に高く、

・目的に関係ない行動
・効率の悪い手順

であっても、「大人がやっているから」という理由で正確に再現する傾向があります。

論文では、この現象を、

「ミームの正確な複製を助ける仕組み」

として解釈しています。


遺伝子とミームは、対立しているのか

この研究が興味深いのは、ミームを「遺伝子の敵」として描いていない点です。

論文では、ミームと遺伝子は、

・ときに競合し
・ときに協力する

共進化的な関係にあるとされています。

たとえば、

・共感や信頼に関わる遺伝子
・報酬や新奇性への反応に関わる遺伝子

の違いによって、どのミームに影響されやすいかには個人差が生じます。

一方で、社会に広まったミームが、

・行動規範
・価値観
・生き方のモデル

を形づくることで、結果的に遺伝的な選択環境そのものを変えていく可能性もあると論じられています。


言語は「ミームの実験場」だった

論文では、言語の発達がミームの性質を最もよく示す例として取り上げられています。

とくに注目されているのが、

・双子が独自の言語を作る現象
・手話が世代を超えて自然発生的に洗練されていく事例

です。

これらは、

「誰かが設計したわけではないのに、社会的なやりとりの中で、構造をもった言語が生まれる」

ことを示しています。

論文では、この過程を、

ミームが選択・変異・定着を繰り返す過程

として捉えています。


ミームは生まれる前から準備されているのか

さらに踏み込んで、論文は胎児期にまで視野を広げます。

ここでは、

・言語や模倣に関わる遺伝子
・大脳皮質の拡張に関わる遺伝子

が、出生前から脳の土台を形づくっている点が論じられています。

著者は、ここで慎重に、

「文化そのものが胎児に伝わるわけではないが、
文化を受け取りやすい『型』が先に用意されている可能性がある」

と述べています。

この考え方は、ミームを単なる外部情報ではなく、
脳に根を下ろす存在として理解する視点につながっています。


なぜ人は「古い考え」に引き寄せられるのか

成長とともに、ミームの扱われ方も変化します。

論文によれば、

・子ども時代はミームの可塑性が高い
・思春期以降、前頭前野の成熟とともに選別が起こる
・加齢とともに、既存のミームが優位になる

という傾向が示されています。

高齢になるほど、

・感情的に馴染みのあるミーム
・繰り返し強化されたミーム

が残りやすく、新しい情報は入りにくくなる。

これは、単なる「保守的になる」という話ではなく、
脳の構造変化と密接に結びついた現象として説明されています。


記憶は、ミームによって書き換えられることがある

論文では、いわゆる「マンデラ効果」のような現象にも触れています。

多くの人が、

「確かにそうだったはずだ」

と信じている記憶が、実際には事実と異なる。

著者はこれを、

・感情的に強化されたミーム
・社会的に共有された語り

が、記憶の再構成に影響を与える結果として説明しています。

ここでもミームは、
意識の外側から働く存在として描かれています。


この研究が示していること、示していないこと

この論文は、非常に広範な分野を統合していますが、同時に限界も明示しています。

・多くは間接的な証拠にもとづく議論であること
・胎児期のミーム形成は仮説段階であること
・文化差や社会環境の影響は十分に検討されていないこと

などが、正直に述べられています。

それでも、

「ミームを、脳・遺伝子・社会のあいだに位置づける」

という枠組みは、今後の研究や議論の土台になりうるものです。


ミームは、私たちの外側にあるのではない

この研究が静かに問いかけているのは、

「私たちは、本当に自分の考えを“自分だけ”で持っているのか」

という問題です。

ミームは、

・学習
・記憶
・感情
・社会的つながり

の中に溶け込みながら、
気づかないうちに思考や判断を形づくっています。

文化は、外から与えられるものではなく、
脳と社会のあいだで育ち続ける現象なのかもしれません。

その見方自体が、すでに一つのミームなのだとしたら──
私たちは、どこまでを「自分」と呼べるのでしょうか。

(出典:Preprints.org

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