- ゴーストは、短時間のやり取りの後に説明なしに連絡を断つ行為で、若い人に多いとされる。
- 研究では客観的・主観的な睡眠を測定したが、ゴーストが睡眠の質に有意な影響を与えなかった。
- その理由として、関係が浅いことやゴーストが日常化していること、他のストレス要因が大きいことが挙げられた。
ゴーストされた夜、人は眠れなくなるのか
――恋愛の沈黙と睡眠のあいだにあるもの
この研究は、アメリカ・テキサス州にあるベイラー大学(Baylor University)人間科学・デザイン学部および健康・ヒューマンパフォーマンス・レクリエーション学部の研究チームによって行われました。
若い成人を対象に、「ゴースト」と呼ばれる突然の音信不通体験が、睡眠の質にどのような影響を及ぼすのかを、実験的に検証しています。
私たちは誰しも、誰かとつながりたいという気持ちを持っています。
とくに、好意を抱き始めた相手とのやり取りは、日常に小さな期待や高揚をもたらします。
しかし現代の恋愛文化には、ある独特の終わり方があります。
何の説明もなく、突然すべての連絡が途絶える――いわゆる「ゴースト」です。
メッセージを送っても返事がこない。
既読にならないまま、時間だけが過ぎていく。
こうした経験は、心にどのような影響を与えるのでしょうか。
さらに言えば、私たちの身体、とくに睡眠にも影響するのでしょうか。
ゴーストとはどのような行為か
ゴーストとは、恋愛関係や親密なやり取りの途中で、片方が説明なしにすべてのコミュニケーションを断つ行為を指します。
電話に出ない。
メッセージを無視する。
SNS上でブロックする。
研究では、若い成人の多くが「ゴーストしたことがある」または「ゴーストされたことがある」と報告しています。
つまり、ゴーストは特別な出来事ではなく、比較的よく見られる現象です。
これまでの研究では、ゴーストが
・自己評価の低下
・不安や抑うつの増加
・ストレス反応
と関連する可能性が示されてきました。
では、こうした心理的な影響は、夜の睡眠にも現れるのでしょうか。
睡眠は心と体のバロメーター
睡眠は単なる休息ではありません。
感情の調整、記憶の整理、身体の回復など、さまざまな働きを担っています。
日中に受けたストレスは、夜の睡眠の質に反映されやすいことも知られています。
・寝つくまでに時間がかかる
・夜中に何度も目が覚める
・眠っても疲れが取れない
こうした変化は、ストレスが高まったときに起こりやすくなります。
そこで研究チームは、
ゴーストも対人ストレスの一種であるなら、睡眠の質を下げるのではないか
と考えました。
研究の目的
この研究の目的は、
恋愛関係が成立する前の、短時間のやり取りにおけるゴースト体験が、客観的・主観的な睡眠の質に影響するかどうか
を調べることでした。
長く付き合った恋人ではなく、
「マッチング後に数時間やり取りした相手」という、低い関係投資レベルの状況を対象にしています。
実験の方法
恋人がいない大学生112名が参加しました。
参加者は無作為に、次の3つの条件に割り当てられました。
ゴースト条件
研究スタッフが「マッチした相手」を装い、約2時間メッセージをやり取りした後、突然返信をやめる。
丁寧な終了条件
約2時間のやり取りの後で、
「今日は課題があるのでここまでにします。また話しましょう」
と礼儀正しく終了する。
コントロール条件
そもそもメッセージのやり取りを行わない。
睡眠の測定
研究では2種類の方法を用いました。
客観的指標
指輪型のウェアラブルデバイスを装着し、
・総睡眠時間
・睡眠効率
・寝つくまでの時間
・途中覚醒時間
・夜間心拍数
・心拍変動
などを記録しました。
主観的指標
毎朝、睡眠日誌に
・眠ったと思う時間
・寝つきの良さ
・夜中に起きた回数
・睡眠の満足度
を記入しました。
研究者の予想
研究チームは、
ゴーストを経験した人は、
睡眠の質が低下するだろう
と予測していました。
結果
しかし結果は、予想とは異なりました。
ゴーストは、客観的にも主観的にも、睡眠の質に有意な影響を与えませんでした。
どの条件でも、
・睡眠時間
・寝つくまでの時間
・夜中の覚醒
・睡眠の満足度
にほとんど差は見られませんでした。
どうして影響が出なかったのか
研究者たちは、いくつかの理由を考えています。
関係がまだ浅い
数時間のやり取りしかしていない相手の場合、
感情的な結びつきが弱く、
「失われた関係」として認識されにくい可能性があります。
ゴーストが日常化している
若い世代では、ゴーストが珍しい出来事ではなく、
ある程度「想定内」の出来事になっている可能性があります。
他のストレス要因の方が大きい
学業、アルバイト、人間関係など、
大学生には多くのストレス源があります。
それらの方が睡眠に強く影響しているかもしれません。
重要なポイント
この結果は、
ゴーストが無害である
という意味ではありません。
今回調べたのは、
「短時間・低い関係投資」のゴーストです。
長期の恋愛関係や、強い感情的つながりがある場合には、
まったく違う影響が出る可能性があります。
この研究が示すメッセージ
この研究は、静かにこう伝えています。
ゴーストの影響は一様ではない。
関係の深さによって、その重さは変わる。
すべての沈黙が、同じ痛みを生むわけではありません。
おわりに
恋愛の終わり方が多様化した現代。
ゴーストは、不快である一方で、
必ずしも私たちの身体の基本的なリズムまで壊すとは限らない。
けれど、
より深い関係で起こるゴーストが、
心や身体にどのような影響をもたらすのかは、
まだ十分にわかっていません。
沈黙が持つ重さは、
関係の深さとともに変わる。
そのことを示した一歩となる研究です。
(出典:Frontiers in Psychology DOI: 10.3389/fpsyg.2025.1742356)

