なぜ夢は、朝になると消えてしまうのか

この記事の読みどころ
  • 夢には内容がある夢・白い夢・夢を見たはずなのに覚えていない状態の三つがある。
  • 夢を思い出しやすい人は夢への関心・日中の内省のしやすさ(マインド・ワンダリング)・浅くて長い睡眠の夜が多いことと関係している。
  • 白い夢は記憶だけ抜けた可能性があり、年齢や外部の干

夢を思い出せる人と、思い出せない人のあいだにあるもの

朝、目が覚めたとき、「確かに何かを見ていた気がするのに、内容はまったく思い出せない」という経験をしたことがある人は多いと思います。一方で、細かな情景や会話まで、はっきりと覚えている人もいます。
この違いは、単なる偶然なのでしょうか。それとも、私たちの心や睡眠のあり方に、何らかの規則性があるのでしょうか。

イタリアの研究チームが行った今回の研究は、この素朴で身近な疑問に、長期間・多角的なデータを使って迫ったものです。対象となったのは、18歳から70歳までの健康な成人200人以上。参加者たちは15日間にわたって、毎朝目覚めた直後に「最後に経験していたこと」を音声で記録しました。同時に、睡眠の状態は活動量計で、さらに一部の参加者では簡易脳波計によっても測定されました。

この研究が目指したのは、「人はなぜ夢を思い出せるのか」「なぜ思い出せないのか」を、性格・認知特性・睡眠の質という複数の側面から整理することでした。

夢には三つの状態がある

研究では、朝の報告は次の三つに分類されました。
一つ目は、内容のある夢を思い出している状態です。場面や出来事、感情など、何らかの意味的な内容が語られたものです。
二つ目は、「夢を見ていた感覚はあるが、内容がまったく思い出せない」状態です。研究ではこれを「ホワイト・ドリーム(白い夢)」と呼んでいます。
三つ目は、夢を見た感覚自体がなかった状態です。

15日間の記録を集計すると、参加者は平均して週に約5回、「夢を見た」という感覚を報告していました。そのうち、およそ4回は内容を伴う夢で、1回ほどがホワイト・ドリームでした。この頻度は、事後的なアンケートで自己申告される「夢を思い出す頻度」よりも明らかに高く、日々の記録を取ることで、夢の想起が過小評価されがちであることも示されました。

夢を「思い出しやすい人」に共通していたこと

では、どんな人が朝に夢を思い出しやすかったのでしょうか。

分析の結果、特に安定して関連していたのは三つの要因でした。

一つ目は、「夢に対する態度」です。夢に意味があると思っているか、夢に関心を向けているかどうか。こうした姿勢を持つ人ほど、「夢を見た」という感覚を報告しやすいことがわかりました。ただし重要なのは、これは夢の「内容」を覚えているかどうかとは、必ずしも結びついていなかった点です。夢に関心があることは、「夢を見たと感じること」には影響しますが、「内容を保持する力」とは別の側面だと示唆されます。

二つ目は、「マインド・ワンダリング」の傾向です。ぼんやりと考えごとをしたり、意識が内側にさまよいやすい人ほど、夢を思い出しやすい傾向がありました。研究者たちは、夢とマインド・ワンダリングが、外界から離れた内的な思考状態という点で連続している可能性を指摘しています。日中に内面へ注意が向きやすい人は、睡眠中の体験にも気づきやすいのかもしれません。

三つ目は、睡眠のパターンです。特に重要だったのは、「長く、浅めの睡眠」が多い人ほど、夢を思い出しやすいという点でした。深いノンレム睡眠(いわゆる熟睡)が多い夜よりも、深さが抑えられた睡眠が続いた夜のほうが、朝に夢を報告する確率が高かったのです。

「白い夢」は、夢を見ていないわけではなかった

この研究の中で、とても重要な意味を持つのが「ホワイト・ドリーム」の扱いです。
夢の内容を思い出せない朝は、「夢を見ていなかった」と解釈されがちです。しかし、データを詳しく見ると、ホワイト・ドリームと内容のある夢は、ほぼ同じ睡眠パターンと結びついていました。

つまり、白い夢は「夢が生成されなかった状態」ではなく、「生成された夢の記憶が失われた状態」である可能性が高い、ということです。

では、何がその違いを生むのでしょうか。

夢の内容が消えてしまう理由

内容のある夢とホワイト・ドリームを分けていた要因として浮かび上がったのは、「干渉への弱さ」と年齢でした。

ここでいう干渉への弱さとは、何かを思い出そうとしているときに、別の刺激や考えに注意を奪われやすい傾向を指します。朝、目覚ましを止める、今日の予定を考える、誰かと話す。そうした小さな出来事が、夢の記憶に割り込むと、内容は急速に失われてしまう可能性があります。

研究結果は、夢の内容を保持する力が、一般的な記憶力(言語記憶や視覚記憶)とは必ずしも一致しないことも示しました。夢の記憶は、「どれだけ覚えられるか」よりも、「どれだけ邪魔されずに注意を保てるか」に左右される側面が大きいのかもしれません。

また、年齢が上がるにつれて、内容のない夢の報告が増える傾向も見られました。これは、夢を見なくなるというよりも、内容が保持されにくくなる可能性を示しています。

季節によって夢は変わるのか

この研究が珍しいのは、データ収集が4年にわたって行われた点です。そのため、季節による違いも検討されました。

結果として、冬は春や秋に比べて、夢を思い出す確率が低い傾向がありました。ただし、睡眠の構造だけでは、この季節差を十分に説明できませんでした。光環境や生活リズム、心理的要因など、今回の測定では捉えきれない変化が関与している可能性が残されています。

夢を思い出すことは、能力ではなく状態かもしれない

この研究全体を通して見えてくるのは、夢を思い出すかどうかが、固定された能力ではなく、「その人の傾向」と「その夜の状態」の重なりで決まっている、という姿です。

夢に関心を向け、内面に注意を向けやすく、浅めの睡眠が続いた夜。
そうした条件が重なると、夢は浮かび上がりやすくなります。一方で、夢の内容を保てるかどうかは、目覚めの瞬間にどれだけ静かに注意を向けられるかに左右されるのかもしれません。

白い夢は、失敗でも欠如でもありません。そこには確かに、何かがあった。ただ、それが朝の世界に持ち越されなかっただけなのです。

夢を思い出せない朝にも、「何も起きていなかった」と急いで結論づける必要はないのかもしれません。
私たちの意識は、眠っているあいだも、思っている以上に静かに動き続けているのです。

(出典:Communications Psychology DOI: 10.1038/s44271-025-00191-z

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