- 感情をコントロールできる自信には高い・低いだけでなく、ネガティブ低・ポジティブ低・中間・高いの4タイプがある。
- 運動量が少ないほど感情コントロールの自信が低いタイプに入りやすく、特にネガティブ感情の自信低下と関係が強い。
- 運動は心理的資源を回復させる働きがあり、日常生活の習慣と感情の扱う自信にはつながりがあると考えられている。
感情をコントロールできるという「自信」
人は日常の中でさまざまな感情を経験します。
嬉しい、誇らしい、悲しい、怒り、落ち込み。
こうした感情そのものは自然なものですが、それをどのように扱えるかは人によって違います。
怒りを感じても落ち着いて対処できる人もいれば、落ち込みからなかなか立ち直れない人もいます。
心理学では、このような「自分は感情をうまくコントロールできる」という感覚を
感情調整の自己効力感と呼びます。
これは実際にどれだけうまくできるかという能力そのものではなく、
自分はそれをできると思っているかどうかという感覚です。
この感覚は、ストレスへの対処、心の健康、学業への適応などと関係していると考えられています。
高校生の時期は、
-
学業のプレッシャー
-
人間関係の変化
-
自分の将来への模索
などが重なる時期です。
そのため感情をどのように扱えるかは、生活の安定に大きく関わる可能性があります。
今回の研究は、この「感情をコントロールできるという自信」が高校生の中でどのようなタイプに分かれるのか、そして運動習慣と関係しているのかを調べました。
高校生の感情の自信は4つのタイプに分かれる
この研究は、中国の揚州大学(Yangzhou University)体育学院の研究チームを中心に行われました。
調査は中国・江蘇省の高校生を対象に実施されました。
質問紙調査は約2500人に配布され、最終的に2269人の回答が分析に使用されました。
研究者たちは、統計的手法を使って高校生の感情調整の自信の特徴を分類しました。
その結果、感情調整の自己効力感は単純に「高い」「低い」という一つの尺度ではなく、4つのタイプに分かれることが明らかになりました。
ネガティブ感情に自信が低いタイプ(約8.9%)
このグループは
-
失敗による落ち込み
-
悲しみ
-
怒り
といったネガティブな感情をコントロールできるという自信が低い特徴を示しました。
嫌な出来事が起きると、感情の回復に時間がかかりやすい可能性があります。
ポジティブ感情に自信が低いタイプ(約40.9%)
最も多かったのはこのグループでした。
このタイプは
-
喜び
-
誇り
-
楽しさ
といったポジティブな感情をうまく感じたり表現したりすることに自信が低い傾向がありました。
成功しても喜びを十分に感じられない
気持ちが長く続かない
といった状態が起こりやすいと考えられます。
研究では、学業のプレッシャーやポジティブな感情を強く表すことを控える文化的な傾向なども関係している可能性が指摘されています。
中間タイプ(約30%)
このグループは、ポジティブ感情、怒り、落ち込みのいずれについても平均的な水準でした。
感情コントロールに特別強い自信があるわけでも、強い苦手意識があるわけでもなく、比較的安定した状態と考えられます。
感情調整に自信が高いタイプ(約20.2%)
このグループはすべての感情の側面で自信が高い特徴を示しました。
ポジティブな感情もネガティブな感情も比較的うまく扱えると感じている高校生です。
ポジティブ感情とネガティブ感情は別の仕組みかもしれない
この研究の重要な点は、感情の扱い方が単純な「得意・苦手」ではなかったことです。
ポジティブな感情とネガティブな感情は、同じ仕組みで動いているわけではない可能性があります。
例えば、
-
ネガティブ感情は苦手だが、ポジティブ感情は問題ない人
-
逆にポジティブ感情をうまく扱えない人
といった違いが存在していました。
これは、感情調整の能力が一つの連続した尺度ではなく、複数の側面を持つ可能性を示しています。
女子はネガティブ感情に自信が低い傾向
研究では、性別、年齢、家庭構成などの要因も分析されました。
その結果、統計的に関係が見られたのは性別のみでした。
女子は男子よりも、ネガティブ感情をうまく扱えるという自信が低いタイプに入る可能性が高いことが示されました。
研究者たちは、その背景として社会的な役割期待の影響を指摘しています。
社会では、女性は
-
他人の感情に配慮する
-
人間関係を保つ
といった役割を求められることが多く、感情的な負担が大きくなりやすいと考えられています。
高校生の段階では
-
学業競争
-
人間関係
といったストレスも重なるため、感情のエネルギーが消耗しやすい可能性があります。
一方で、
-
年齢
-
家族構成
は今回の研究では大きな違いを生みませんでした。
運動量が少ないほど感情調整の自信が低い
研究ではさらに、身体活動の量との関係も調べられました。
身体活動は
-
高い
-
中程度
-
低い
の3段階に分類されました。
分析の結果、明確な傾向が見つかりました。
身体活動が少ないほど、感情調整の自信が低いタイプに入りやすいのです。
特に関係が強かったのは、ネガティブ感情を扱う自信が低いグループでした。
身体活動が少ない高校生は、身体活動が多い高校生と比べて、このグループに入る可能性が大きくなっていました。
運動は心理的な「資源」になる
研究では、この関係を説明するために資源保存理論という考え方が用いられています。
この理論では、人は
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エネルギー
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自信
-
社会的つながり
といった心理的な資源を持っていると考えます。
高校生の生活は
-
学業の競争
-
将来への不安
-
人間関係
など、多くのストレスを伴います。
このような状況では心理的資源が消耗しやすくなります。
身体活動は、その資源を補う役割を持つ可能性があります。
運動によって
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達成感
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気分の改善
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生活リズム
などが生まれ、心理的なエネルギーが回復すると考えられます。
逆に身体活動が少ない場合、
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気分を切り替える機会
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成功体験
などが減り、感情をコントロールする自信が低くなる可能性があります。
感情を扱う力は生活の中で育つのかもしれない
この研究は、高校生の感情調整の自信が単純な「強い」「弱い」というものではないことを示しています。
高校生の中には
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ネガティブ感情を扱うのが苦手な人
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ポジティブ感情を維持するのが苦手な人
-
バランスが取れている人
など、さまざまなタイプが存在していました。
そしてその違いには、日常生活の習慣の一つである身体活動も関係している可能性があります。
もちろん、この研究は一度の調査によるものであり、運動が直接の原因かどうかはまだ分かりません。
しかし少なくとも、身体の活動と心の状態のあいだには、何らかのつながりがあるようです。
高校生活という変化の多い時期において、感情をうまく扱えるという感覚は、日常生活のさまざまな場面に影響する可能性があります。
その感覚は、思っているよりも、日々の生活習慣と深く結びついているのかもしれません。
(出典:Frontiers in Psychology DOI: 10.3389/fpsyg.2026.1796256)

