- ビンジウォッチングは「長く見ること」だけでなく「感情の扱い方」に関係する行動として見るべきだと説明しています。
- 孤独を感じる人は、逃避と心地よさを求める二つの動機で依存的な視聴になりやすいことがわかりました。
- 孤独は直接依存を生むわけではなく、感情をどう扱うかという流れを作り、その結果、依存的な視聴につながると説明されています。
孤独な夜と「次のエピソード」
夜が長く感じられるとき、人はなぜ「次のエピソード」を再生してしまうのでしょうか。
ただの娯楽だったはずの連続視聴が、いつの間にかやめにくい行動へと変わっていくとき、そこにはどのような心理の流れがあるのでしょうか。
中国・安徽省にある黄山学院の研究者によって行われたこの研究は、ドラマやシリーズ作品の一気見、いわゆるビンジウォッチングを、「長く見る行動」としてではなく、「感情を扱う行動」として捉え直しています。特に焦点となっているのは、孤独という感情が、どのような形でビンジウォッチングと結びつくのかという点です。
ビンジウォッチングは一つの行動ではない
この研究の出発点には、これまでの研究への問題意識があります。
従来の研究では、ビンジウォッチングが一つのまとまった行動として扱われることが多く、「長時間視聴=問題行動」とみなされがちでした。しかし研究者たちは、その捉え方自体が、結果の混乱を生んでいる可能性に注目しました。
そこで本研究では、ビンジウォッチングを二つに分けて考えています。
一つは、長時間視聴はしているものの、生活や人間関係に大きな支障がなく、自分でコントロールできている状態です。
もう一つは、視聴への強い欲求やコントロールの困難さ、他の活動の犠牲などが見られる、依存的な状態です。
この区別は、「どれくらい見たか」ではなく、「どのような影響が生じているか」に基づいて行われました。
孤独は「依存的な一気見」とだけ結びついていた
分析の結果、まず明らかになったのは、孤独とビンジウォッチングの関係は一様ではない、という点でした。
孤独感は、依存的なビンジウォッチングとは有意に関連していました。
孤独が強い人ほど、ビンジウォッチング依存の程度も高くなる傾向が示されたのです。
一方で、依存のないビンジウォッチングについては、孤独との有意な関連は見られませんでした。
長時間視聴をしていても、それが必ずしも孤独への対処として行われているわけではないことが示されたのです。
「なぜ見るのか」という動機に目を向ける
研究者たちは次に、孤独がどのような経路を通って依存的なビンジウォッチングにつながるのかを検討しました。
ここで鍵となったのが、「感情調整」という視点です。
感情調整とは、不快な感情をやわらげたり、心地よい感情を得ようとしたりするプロセスを指します。
この研究では、ビンジウォッチングが感情調整の行動として使われている可能性が検討されました。
具体的には、二つの動機が分析対象となりました。
逃避としてのビンジウォッチング
一つ目は、エスケーピズム、つまり現実や不快な感情からの逃避です。
孤独を感じたとき、その感覚を考えないようにするために、物語の世界に没入するという使い方です。
分析の結果、孤独はエスケーピズム動機と強く関連していました。
孤独が強い人ほど、「現実から離れるために見る」という理由でビンジウォッチングを行いやすいことが示されました。
そしてこの逃避的な動機は、依存的なビンジウォッチングと強く結びついていました。
心地よさを得るためのビンジウォッチング
もう一つは、感情的高揚、つまりポジティブな感情を得るための動機です。
孤独を忘れるだけでなく、楽しい、安心する、満たされるといった感覚を得るために視聴する、という側面です。
この動機についても、孤独との有意な関連が確認されました。
孤独が強いほど、ビンジウォッチングを通じて良い感情を得ようとする傾向が高くなっていました。
二つの感情経路が重なったとき
研究者たちはさらに、逃避と感情的高揚の二つの動機を同時に扱った分析を行いました。
その結果、重要なことが示されます。
孤独がビンジウォッチング依存に与える影響は、この二つの動機を通してほぼすべて説明できることが明らかになったのです。
孤独そのものが直接依存を生むというよりも、孤独が「感情をどう扱うか」というかたちに変換され、その結果として依存的な視聴が生じている可能性が示されました。
この研究が示している静かなメッセージ
この研究は、ビンジウォッチングを一方的に問題行動として断じるものではありません。
長時間視聴そのものではなく、「その行動がどのような感情の役割を担っているか」が重要であることを示しています。
孤独を感じていても、依存的にならない一気見は存在します。
一方で、孤独が逃避や感情調整の中心的な手段になったとき、ビンジウォッチングはコントロールしにくい行動へと変わることがあります。
孤独は、画面の中に直接人を引きずり込むわけではありません。
孤独が、逃避や心地よさへの希求という感情の流れに変わり、
その積み重なりが、依存という状態を形づくっていく。
この研究は、その過程を、静かに、しかし具体的なデータによって描き出しています。
(出典:PLOS One DOI: 10.1371/journal.pone.0329853)

