- 視線が交わる「相互視線」という瞬間は、相手に注意を向けている合図になり、協力に影響する可能性がある。
- 対面では視線の交差が起きやすいが、ビデオ会議では目が合いにくい構造だった。
- ドイツのカールスルーエ工科大学の研究チームが、200人以上の3人組で対面とビデオ会議を比較し、相互視線と協力の関係を調べた。
私たちは会話をするとき、言葉だけを使っているわけではありません。
相手の表情、声の調子、うなずき、間の取り方。そしてもう一つ、ほとんど意識されないものがあります。
それが「視線」です。
誰かと話しているとき、私たちは自然に相手の顔を見ます。そして、相手もこちらを見ることがあります。ほんの一瞬、互いの視線が重なることがあります。
こうした瞬間は、とても短く、普段はほとんど気づきません。けれども実は、この視線のやり取りが、人の協力や信頼に影響している可能性があります。
近年、仕事の多くがオンライン会議で行われるようになりました。ZoomやTeamsなどを使った会議は、離れた場所でも話し合える便利な仕組みです。しかし、その便利さの裏で、対面とは少し違うコミュニケーションが起きているのではないか、という疑問も出てきています。
画面越しの会議では、顔は見えていても、本当に「目が合っている」のかはよくわかりません。相手がこちらを見ているのか、別の画面を見ているのか、資料を読んでいるのか。判断は難しいものです。
この小さな違いが、チームの協力の空気に影響するのでしょうか。
ある研究は、この問いを実験によって調べました。
視線がつくる「見られている感覚」
人は誰かに見られているとき、行動が少し変わります。
たとえば、他人の視線があるときには、人はより協力的に行動する傾向があることが、これまでの研究でも知られています。
しかし実際の会話では、単に「見られている」だけではなく、もっと複雑なことが起きています。
自分が相手を見る。
相手がそれに気づいて、こちらを見る。
このように、互いの視線が交差する瞬間があります。
研究では、この状態を「相互視線」と呼びます。
つまり、
-
自分が相手を見る
-
相手も自分を見る
という関係です。
このような視線のやり取りは、「あなたに注意を向けています」「話を聞いています」というサインになると考えられています。言葉を使わない、小さな合図のようなものです。
では、この合図は、チームの協力にどのような影響を持つのでしょうか。
チームの会話を実験で調べる
この研究では、3人1組のチームを作り、会話と共同作業を行ってもらう実験が行われました。参加したのは200人以上です。
実験は2つの段階で行われました。
最初の段階では、チームで簡単な課題に取り組みながら会話をします。この段階の結果は報酬に影響しません。参加者は自由に話し合うことができます。
その後、各参加者は個別に意思決定を行います。ここでは、自分がどれだけチームのために貢献するかを選ぶことになります。この選択は、実際の報酬に影響します。
つまり研究者たちは、
「最初の会話の中でどんな視線のやり取りがあったか」
そして
「その後の協力行動がどう変わるか」
という関係を調べたのです。
そのために、参加者の視線を測定する装置を使い、誰がいつ誰を見ていたのかを記録しました。
対面とビデオ会議を比べる
この研究のもう一つの重要なポイントは、会話の方法を2つに分けたことです。
一つは、同じ部屋で話す対面の会話です。
もう一つは、画面を通して話すビデオ会議です。
どちらの条件でも、参加者は互いの顔を見ることができます。つまり、表情や声の情報は伝わります。
しかし、視線の伝わり方には大きな違いがあります。
ビデオ会議では、相手の顔を見るとカメラを見ていないことになります。逆にカメラを見ると、相手の顔を見ることができません。つまり、画面越しの会議では「目が合う」という状態が起こりにくい構造になっています。
この違いが、視線のやり取りにどのような影響を与えるのかが調べられました。
対面では視線が交差しやすい
実験の結果、対面の会話では、互いの視線が交差する瞬間が多く見られました。
つまり、誰かが相手を見ると、相手もそれに応じて見返すことが起こりやすかったのです。
一方で、ビデオ会議では、このような視線の交差が少なくなっていました。
顔は見えていても、「いま相手が自分を見ている」という感覚が生まれにくい状況だったのです。
研究者たちは、このような視線のやり取りの程度を「注意の相互性」と呼びました。
簡単に言えば、
「相手を見る行動が、どれくらい見返されるか」
という関係です。
視線と協力の関係
次に研究者たちは、この注意の相互性が、チームの協力行動と関係しているのかを調べました。
分析の結果、注意の相互性が高いチームほど、協力的な選択をする傾向が見られました。ただし、この関係はすべての条件で同じように現れたわけではありません。
とくに強く見られたのは、対面の会話のときでした。
対面では、互いに視線を向け合う関係が多いほど、その後の協力行動が高まる傾向がありました。
一方で、ビデオ会議では、その関係は弱くなっていました。
つまり、単に顔が見えるだけでは十分ではなく、「相手に見られている」「自分も相手を見ている」という感覚が共有されることが、協力の空気をつくる可能性があるのです。
研究を行った組織
この研究は、ドイツの**カールスルーエ工科大学(Karlsruhe Institute of Technology)**の研究チームによって行われました。
研究では、視線測定装置を用いた実験によって、チーム内の視線の動きを詳細に記録し、その後の協力行動との関係を分析しています。
小さな信号がチームを変える
私たちは会話の中で、多くの情報を無意識に受け取っています。
その中には、言葉ではない小さな信号も含まれています。
視線はその代表的なものです。
相手が自分を見ている。
それに気づいて見返す。
その短い瞬間のやり取りが、相手への関心や注意を伝え、会話の空気を形づくります。
この研究は、そうした小さな信号が、チームの協力の雰囲気に関係している可能性を示しています。
オンライン会議は便利な道具です。
しかし、そこでは対面とは少し違うコミュニケーションが起きています。
顔は見えていても、視線のやり取りは完全には再現されません。
もしかすると、私たちが感じる「会議の空気」の違いは、こうした目に見えにくい部分から生まれているのかもしれません。
協力とは、言葉だけで作られるものではありません。
人が互いに注意を向け合っているという感覚。
その静かな信号が、チームの関係を少しずつ形づくっているのです。
(出典:PLOS One DOI: 10.1371/journal.pone.0329060)

