- 学業失敗への恐れと創造的問題解決には、弱いが正の関連があることが示された。
- 恐れが強い人ほど好奇心が高く、好奇心が高いほど創造的問題解決も高くなる傾向がある。
- 失敗の恐れが強い人ほどグリットが高く、恐れ→グリット→創造的問題解決の経路が有意だった。
失敗への恐れは、創造性を奪うだけなのか
大学での学びは、正解を覚えることだけでは終わりません。
予測できない課題に向き合い、試行錯誤しながら答えを探す力が、次第に求められていきます。こうした場面で重要になるのが、**創造的問題解決(クリエイティブ・プロブレム・ソルビング)**と呼ばれる能力です。
一方で、多くの学生が抱えている感情があります。
それが「学業で失敗することへの恐れ」です。成績を落とすかもしれない、期待に応えられないかもしれない、周囲に遅れをとるかもしれない。そうした不安や恐れは、学習の妨げになるものとして語られることが多くありました。
しかし、本当にそうなのでしょうか。
失敗への恐れは、常に創造性や思考力を弱めてしまうのでしょうか。
中国の大学生を対象に行われたこの研究は、その問いに対して、少し意外な光を当てています。
研究を行ったのはどのようなチームか
この研究は、中国福建省にある複数の高等教育機関に所属する研究者によって行われました。
具体的には、莆田学院、福建省内の党学校・行政学院、閩南師範大学の教育・心理学系組織が研究に関わっています。
教育と心理の両面から、大学生の学習体験を捉えようとする研究体制です。
注目された三つの心理的要素
この研究で中心的に扱われたのは、次の三つです。
-
学業失敗への恐れ
学習や成績において失敗することへの不安や緊張、自己能力への不安感を含む感情状態です。 -
好奇心
わからないことを知りたい、新しい視点を試してみたいという内的な動機づけを指します。 -
グリット(やり抜く力)
長期的な目標に向かって、困難があっても努力を続ける粘り強さを意味します。
研究者たちは、学業での失敗を恐れる気持ちが、これら二つの特性──好奇心とグリット──を通して、創造的問題解決とどのようにつながっているのかを検討しました。
調査の方法と対象
調査は、中国の都市部にある三つの大学に在籍する学部生を対象に行われました。
最終的に分析に用いられたのは、1,129人分の有効回答です。
参加者は18歳から24歳までの学生で、専攻分野も社会科学、工学、経済、教育、心理、芸術など多岐にわたっています。
質問紙調査を用い、学業失敗への恐れ、好奇心、グリット、そして創造的問題解決の自己評価を測定しました。統計的には、これらの関係を同時に検討できる構造方程式モデリングという手法が使われています。
失敗への恐れと、創造的問題解決の意外な関係
分析の結果、まず確認されたのは、学業失敗への恐れと創造的問題解決との間に、弱いながらも正の関連があったという点です。
つまり、失敗を恐れている学生ほど、わずかではありますが、創造的に問題に取り組んでいる傾向が見られました。
これは、「恐れがあるほど創造性が高まる」と単純に言えるものではありません。関連は小さく、あくまで同時に見られた傾向にすぎません。ただし、恐れが必ずしも思考を止めてしまうわけではない可能性を示しています。
好奇心がつなぐ、恐れと創造性
次に注目されたのが、好奇心の役割です。
学業失敗への恐れが強い学生ほど、好奇心の得点も高い傾向がありました。そして、好奇心が高い学生ほど、創造的問題解決の得点も高くなっていました。
この結果は、恐れを感じたときに、
「どうすればうまくいくのか」
「別のやり方はないのか」
と考え、情報を探したり視点を変えたりする動きが生まれる可能性を示しています。
不安や恐れが、単なる萎縮ではなく、「知ろうとする動き」と結びつく場合がある、ということです。
より強く働いていたのは「やり抜く力」
しかし、この研究でより大きな役割を果たしていたのは、**グリット(やり抜く力)**でした。
学業失敗への恐れが強い学生ほど、グリットも高い傾向があり、そしてグリットが高い学生ほど、創造的問題解決能力も高くなっていました。
統計的に見ると、
「恐れ → グリット → 創造的問題解決」
という経路は、
「恐れ → 好奇心 → 創造的問題解決」
よりも、やや強い関連を示していました。
これは、好奇心が問題への入り口を開く一方で、実際に試行錯誤を続け、答えにたどり着くためには、粘り強さがより重要である可能性を示しています。
恐れは、必ずしも敵ではない
この研究は、「失敗への恐れは良い」「不安を持てばいい」と主張しているわけではありません。
また、恐れが創造性を高める原因だと結論づけてもいません。
示されたのは、次のような姿です。
学業で失敗するかもしれないという恐れを抱えながらも、
-
もっと理解しようとする好奇心
-
あきらめずに取り組み続けるグリット
といった特性を併せ持つ学生は、創造的に問題に向き合っている傾向がある。
恐れそのものではなく、恐れと同時にどのような心理的姿勢があるかが、学びの質を左右しているように見えます。
教育や支援への示唆
この研究結果は、教育現場や学習支援に対して、いくつかの示唆を与えます。
失敗への恐れを完全になくそうとするのではなく、
-
探究を後押しする環境
-
途中で投げ出さずに続けられる仕組み
を整えることが、創造的な学びにつながる可能性があります。
特に、粘り強さを育てる支援や、過程を評価する姿勢は、恐れを抱える学生にとって重要な意味を持つかもしれません。
ただし、見えていない点もある
この研究は一時点での質問紙調査に基づいており、因果関係を明らかにするものではありません。
恐れがグリットを生むのか、グリットのある学生が恐れを感じやすいのか、その方向性は確定していません。
また、中国の特定地域の大学生を対象としているため、文化や教育制度の違いによって結果が変わる可能性もあります。
それでもなお、この研究は、
「恐れ=悪」
という単純な見方に揺さぶりをかけています。
失敗を恐れる心の、その先へ
学びの中で恐れを感じることは、珍しいことではありません。
むしろ、それは多くの人が共有している感情です。
この研究が示しているのは、その恐れが、
好奇心や粘り強さと結びついたとき、
思考を止めるだけのものではなくなる可能性です。
恐れのある場所から、問いが生まれ、試行錯誤が始まる。
そのプロセスの中に、創造性の芽が含まれているのかもしれません。
(出典:Frontiers in Psychology DOI: 10.3389/fpsyg.2025.1625134)

