- 最も結婚に否定的だったのは、離婚していないがけんかが多い家庭で育った人たちだった。
- 離婚そのものより、家庭内で安心できない経験のほうが長期的な影響を与えることが分かった。
- 愛着回避が高いと結婚への態度が否定的になり、人生の意味を感じてもそれを緩衝しない。
「両親が離婚すると、子どもは結婚に否定的になる」
このようなイメージは、私たちの中にどこか根強くあります。
家族が壊れた経験が、将来の結婚観に影を落とす。そう考えるのは自然かもしれません。
しかし、最新の心理学研究は、少し違う視点を提示しています。
問題なのは「離婚そのもの」ではなく、「離婚せずに続いた激しい対立かもしれない」というのです。
この研究は、中国の北京大学医学部(Peking University, School of Health Humanities)および牡丹江医科大学(Mudanjiang Medical University)の研究チームによって実施されました。
対象は、中国の大学生398人。
平均年齢は20.8歳。まさに「これから恋愛や結婚を考え始める世代」です。
彼らは、自分の子ども時代の家庭環境、現在の愛着傾向、人生の意味の感じ方、そして結婚に対する態度について回答しました。
そして明らかになったのは、私たちの直感とは少し違う構図でした。
離婚家庭と、けんかの多い家庭は違う
参加者は、子ども時代(12歳以前)の家庭状況について、次の4つから選びました。
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両親が円満だった家庭
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離婚はしていないが、けんかが多かった家庭
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離婚した家庭
-
親が亡くなった家庭
統計的分析の結果、もっとも結婚に否定的だったのは、
「離婚していないが、けんかが多かった家庭」で育った人たち
でした。
一方で、
離婚家庭と円満家庭のあいだには、有意な差は見られませんでした。
これは非常に重要な発見です。
「家族が壊れた」という出来事そのものよりも、
「家族の中で安心できなかった経験」のほうが、長期的な影響を与えていたのです。
感情的安全(Emotional Security)という視点
なぜ、こうした結果になるのでしょうか。
心理学には「感情的安全仮説(Emotional Security Hypothesis)」という考え方があります。
これは、子どもは親同士の関係を通して、
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人は信頼できるか
-
親密さは安全か
-
対立は解決可能か
といった「心の設計図」をつくっていく、という理論です。
もし家庭内に慢性的な対立が続くと、子どもは無意識に
「親密な関係は危険かもしれない」
「近づくと傷つく」
という内的モデルを形成します。
そしてそのモデルは、大人になってからの結婚観に反映されます。
愛着回避(Attachment Avoidance)がカギだった
研究では、「愛着(Attachment)」という概念も測定されました。
愛着とは、他人とどのように親密さを築くかという傾向です。
特に重要だったのが、
愛着回避(Attachment Avoidance)
です。
これは、
-
他人に頼るのが苦手
-
親密さを避ける
-
感情的距離を保とうとする
といった傾向を指します。
分析の結果、愛着回避が高い人ほど、結婚に対する態度は否定的でした。
しかもこの関連は、家庭環境や性別を統制してもなお、強く残っていました。
つまり、
「けんかの多い家庭」→「回避的な愛着」→「結婚への慎重さ」
という流れが見えてきます。
人生の意味(Meaning in Life)は救いになるか?
研究チームはさらに、
「人生に意味を感じている人は、悪影響を打ち消せるのではないか?」
という問いも検証しました。
人生の意味(Meaning in Life)とは、
-
自分の人生には価値がある
-
目的を持って生きている
と感じる感覚です。
結果はどうだったのでしょうか。
人生の意味を強く感じている人は、たしかに結婚に対して前向きでした。
しかし、
それは独立した関連であり、
愛着回避と結婚態度のあいだを「媒介(説明)」することも、
悪影響を「緩衝(バッファー)」することもありませんでした。
つまり、
人生に意味を感じていても、愛着回避の影響は消えなかった
のです。
これは理論的にも重要です。
愛着は比較的自動的で深いレベルの心のパターンです。
一方、人生の意味はより意識的で抽象的な信念です。
抽象的な意味づけだけでは、根深い対人スキーマは簡単には変わらない。
この「限界条件」が示されたことも、本研究の意義です。
中国という文化的文脈
この研究が中国で行われたことも重要です。
中国では、家族の継続や体面が重視されます。
そのため、離婚を避ける文化的圧力が存在します。
その結果、
対立を抱えたまま婚姻関係が続く
という状況が生まれることがあります。
研究結果は、こうした文化的背景と整合的です。
形式的な家族の維持よりも、
家庭内の情緒的雰囲気のほうが、長期的影響を持つ。
これは「家族の形」より「家族の質」が重要であることを示しています。
男女差というもう一つの発見
本研究では、男性のほうが女性よりも結婚に前向きでした。
研究者たちはこれを、中国社会の急速な変化と関連づけています。
女性にとっては、
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キャリアとの両立負担
-
育児責任の偏り
-
社会的期待
といった構造的要因が、結婚への慎重さを生みやすい可能性があります。
ここにも、個人心理だけでは説明できない社会的文脈が見えます。
何が示唆されるのか
この研究は、単に「離婚は悪くない」と言っているわけではありません。
示しているのは、もっと根本的なことです。
-
子どもにとって重要なのは、家庭が存続しているかどうかではない
-
安全に感じられるかどうかである
-
親密さは信頼できるものだと学べるかどうかである
そして、
愛着回避という深い心のパターンは、
抽象的な意味づけだけでは簡単には変わらない。
家族政策やカウンセリングが目指すべきは、
「離婚を防ぐこと」そのものではなく、
子どもを慢性的な敵対的雰囲気から守ること
なのかもしれません。
最後に
私たちはよく、「家族が壊れたかどうか」に注目します。
しかし本研究が示すのは、
壊れているように見えない家庭の中でも、心は傷つくことがある
という事実です。
そして逆に、
形式が変わっても、安全が保たれることもある。
家族の本質とは何か。
結婚とは何を意味するのか。
この研究は、その問いを私たちに静かに投げかけています。
(出典:BMC Psychology DOI: 10.1186/s40359-026-04232-y)

