「かわいさ」は、触れたところから始まる

この記事の読みどころ
  • ベビースキーマの特徴が高い物は、見た目だけでかわいく感じられる。
  • 物に誰かが触れていると、その物はよりかわいいと評価される。
  • 触れている場面は物のかわいさだけでなく、人物の印象や関係性の読み取りにも影響する。

触れられるだけで「かわいく」見えるのか

人はなぜ「かわいい」と感じるのでしょうか。

大きな目、丸い顔、小さな鼻。いわゆる「ベビースキーマ」と呼ばれる特徴は、これまで多くの研究で、かわいさの中心的な要素だと考えられてきました。赤ちゃんの顔に見られるような身体的特徴が、私たちの中にある養育や保護の気持ちを引き出すという考え方です。

しかし、本当に「かわいさ」は見た目だけで決まるのでしょうか。

この問いに対して、大阪大学大学院人間科学研究科の研究者たちが行った研究が、学術誌『PLOS ONE』に掲載されました。研究では、物そのものの特徴だけでなく、「誰かに触れられているかどうか」という状況が、かわいさの印象に影響するのかを検討しています。

ベビースキーマを超えて

従来の研究では、かわいさは主に身体的な特徴から説明されてきました。頭が大きい、目が大きい、顔の下側に目がある、額が広い、手足が短い。こうした特徴が「ベビースキーマ」と呼ばれます。

これらの特徴を強めると、顔はよりかわいく評価されることが、多くの実験で確認されてきました。

一方で近年、研究者たちは別の可能性にも注目しています。かわいさは「対象そのもの」だけでなく、「関係性」や「相互作用」からも生まれるのではないか、という視点です。

たとえば、誰かが誰かに触れている場面、親密そうに見える場面、あるいは物を大切に扱っている様子。それらもまた、私たちに特別な感情を引き起こします。

今回の研究は、その中でも特に「触れる」という行為に焦点を当てています。

実験の方法

研究は、日本とアメリカでオンライン調査として実施されました。日本では198人、アメリカでは199人が参加しています。

参加者には、次のような写真が提示されました。

・ベビースキーマ特徴が高い物体
・ベビースキーマ特徴が低い物体

それぞれについて、

・人物がその物体を手に持っている写真
・人物がその物体に触れていない写真

合計4種類の写真が用意されました。

参加者は、物体に対してどの程度「かわいい」と感じるかを評価しました。また、その写真に写っている人物についての印象や、その人物が物体をどう感じているかの推測も答えてもらいました。

つまり、「物そのものの見た目」と「触れられているという状況」の両方を操作し、それぞれの影響を調べたのです。

結果:触れているだけでかわいくなる

結果は明確でした。

まず予想どおり、ベビースキーマ特徴が高い物体は、よりかわいく評価されました。

しかしそれとは別に、もう一つの効果が確認されました。

人物が物体に触れていると、その物体はよりかわいく評価されたのです。

しかも、この2つの効果は互いに打ち消し合うことはありませんでした。ベビースキーマの高さと、触れられているかどうかは、それぞれ独立してかわいさを高めていました。

つまり、

・見た目が赤ちゃん的であること
・誰かに触れられていること

この2つは、別々の道筋で「かわいさ」を増やしていたのです。

この傾向は、日本とアメリカの両方で確認されました。文化を超えて、同じようなパターンが見られたのです。

人物の印象にも影響する

さらに興味深いことに、触れている場面は、物体だけでなく人物の印象にも影響を与えていました。

物体に触れている人物は、よりかわいらしく評価されました。

また、「その人物はその物体をどれくらい好きそうか」という推測も、触れている場合のほうが高くなりました。

つまり、触れているという行為は、物体のかわいさだけでなく、人物の印象や感情の推測にも影響していたのです。

なぜ触れるとかわいく感じるのか

研究では、触れるという行為が「関係性」や「親密さ」を示す手がかりになる可能性が示唆されています。

私たちは、誰かが何かを大切に抱えている姿を見ると、その対象を単なる物体以上のものとして感じるのかもしれません。

触れられているというだけで、その物体は「関係の中にある存在」として認識されます。

それは単なる視覚情報ではなく、「その人とのつながり」を含んだ存在になります。

そして、かわいさとは、単なる形の問題ではなく、こうした関係性の知覚と深く結びついている可能性があります。

かわいさは「対象」だけの性質ではない

この研究は、かわいさが物体そのものの性質だけで決まるわけではないことを示しています。

私たちは、対象の見た目だけを見ているのではありません。

誰が触れているのか。
どんな関係に見えるのか。
その場面にどんな感情が含まれていそうか。

そうした文脈全体が、かわいさの判断に影響しているのです。

かわいさは「形」ではなく、「関係」からも生まれる。

それは、かわいさが単なる審美的な評価ではなく、人とのつながりや養育的な感情と結びついていることを改めて示しています。

かわいいという感情の広がり

これまでの研究では、かわいさは赤ちゃん的な特徴に結びつけて説明されることが多くありました。しかし今回の結果は、その枠組みを広げています。

物が誰かに触れられているだけで、私たちはそこに特別な意味を読み取る。

それは、かわいさが「対象の属性」ではなく、「出来事の中の感情」でもあることを示しているのかもしれません。

かわいいと感じる瞬間には、目に見える形だけでなく、見えない関係性が含まれている。

私たちは、形だけを見ているのではなく、「つながり」を見ているのかもしれません。

そしてそのとき、かわいさは単なる外見の評価を超えて、人と人、人と物との間に生まれるやわらかな感情として立ち現れます。

ベビースキーマを超えて。

かわいさは、触れられることで、さらに広がっていくのかもしれません。

(出典:PLOS One DOI: 10.1371/journal.pone.0340903

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