自尊心は、どこまで自分でわかっているのか?

この記事の読みどころ
  • 自尊心は、頭の中の言葉だけで決まるわけではなく、無意識の感覚でも自分を評価している。
  • 意識できる自尊心と無意識の自尊心は別々につながり、独身かパートナーがいるかでその関係が変わる。
  • 心には言葉にする自分とそうでない自分の二つの評価が同時にあり、同じレベル同士が結びつくことが多い。

自尊心は、意識している自分だけのものではない

自分をどう評価しているか。
それは、ふだん頭の中で言葉にしている「私は大丈夫だ」「自信がある」といった感覚だけで決まっているわけではありません。

人は同時に、言葉になる前のレベルでも、自分を評価しています。
瞬間的な反応や、説明できない感情の揺れとして現れる、自分への評価です。

この研究は、自尊心とアタッチメント(対人関係における基本的な安心感や不安の型)との関係を、「意識できるレベル」と「意識できないレベル」の両方から調べています。
研究を行ったのは、オランダのオープン大学(Open Universiteit)を中心とした心理学研究チームです。

自尊心とアタッチメントは、長く研究されてきた関係

自尊心が低い人は、人から拒絶される兆しに敏感になりやすく、曖昧な反応も否定的に受け取りがちだと知られています。
一方、自尊心が比較的安定している人は、他者との距離感を柔軟に調整しやすい傾向があります。

アタッチメント理論では、大人の対人関係の傾向は主に二つの方向で説明されます。
ひとつは「不安型」で、見捨てられることへの強い心配や、相手からの確認を求めやすい傾向です。
もうひとつは「回避型」で、他人に頼ることや感情的な近さを避けようとする傾向です。

これまでの研究では、不安型アタッチメントは自尊心の低さと強く結びつくことが繰り返し示されてきました。
一方で、回避型アタッチメントと自尊心の関係は、はっきりしない場合も多くありました。

これまで見落とされてきた「無意識のレベル」

従来の研究の多くは、質問紙による自己報告に頼ってきました。
しかし、人は自分のすべてを正確に言葉にできるわけではありません。

この研究では、質問紙による「意識できる自尊心・アタッチメント」に加えて、反応時間を用いた課題を使い、「意識できない自尊心・アタッチメント」も測定しています。
ここで測られているのは、考える前に立ち上がる自分への評価や、対人関係への自動的な反応です。

重要なのは、意識できる評価と、意識できない評価は、必ずしも一致しないという点です。

独身者とパートナーがいる人を分けて調べた理由

この研究では、二つの集団が対象になっています。
ひとつは、パートナーを求めている独身者。
もうひとつは、すでにパートナー関係にある人たちです。

人の自尊心は、日常的な対人関係からのフィードバックによって支えられています。
そのため、現在パートナーがいるかどうかで、アタッチメントと自尊心の関係が変わる可能性があります。

意識できるレベルで起きていること

まず、独身者の結果です。
意識できるレベルでは、「不安型アタッチメント」が強い人ほど、自尊心が低い傾向がはっきりと見られました。

一方で、「回避型アタッチメント」は、意識できる自尊心とは明確な関係を示しませんでした。
人に頼らないことで自分を守る回避型の人は、少なくとも自覚的には、自尊心の低さを感じにくい可能性があります。

パートナーがいる人では、この関係はやや弱まりました。
不安型アタッチメントと自尊心の関連は、統計的に明確とは言えない水準にとどまりました。

意識できないレベルで起きていること

次に、意識できないレベルです。
ここでは、違う風景が見えてきます。

独身者では、不安型だけでなく、回避型アタッチメントも、意識できない自尊心の低さと結びついていました。
つまり、表面上は平静に見えても、無意識のレベルでは自分への否定的な評価が存在している可能性があります。

パートナーがいる人では、不安型アタッチメントと意識できない自尊心の低さの関係は引き続き見られましたが、回避型では明確ではありませんでした。

「同じレベル同士」で結びつくという結果

この研究で一貫して示されたのは、
意識できるもの同士は意識できるレベルで、
意識できないもの同士は意識できないレベルで、
主に結びついている、という点です。

意識できないアタッチメントが、意識できる自尊心を直接左右することはほとんどありませんでした。
逆も同様です。

これは、人の心の中に、少なくとも二つの評価システムが並行して存在していることを示唆しています。

なぜ回避型は見えにくいのか

回避型アタッチメントの人は、否定的な感情や不安を意識に上げないようにする傾向があります。
そのため、質問紙では問題が見えにくくなります。

しかし、無意識のレベルでは、その防衛が完全ではない場合があります。
特に、まだ安定した関係がない独身者では、その揺らぎが測定に現れやすいのかもしれません。

パートナーがいる場合、回避型の人は、一定の距離を保った関係の中で、防衛のやり方が固定化されている可能性があります。

自尊心は「ひとつの数字」ではない

この研究が示しているのは、自尊心を単純な高さ・低さで捉えることの限界です。
意識できる自尊心が保たれていても、無意識のレベルでは不安定な場合があります。

逆に、無意識の自己評価が低いからといって、必ずしも日常生活で問題が表に出るわけでもありません。

支援や理解の視点として

この研究は、治療や支援の方法を直接示すものではありません。
しかし、示唆はあります。

不安型アタッチメントの独身者にとっては、自尊心そのものを支える関わりが重要になるかもしれません。
一方、パートナーがいる人の場合は、関係そのものが緩衝材として働く可能性もあります。

また、自己報告だけでは見えない側面があることを前提にする姿勢も重要です。

心の中には、複数のレイヤーがある

人は、自分が思っているほど単純ではありません。
言葉にできる自分と、言葉になる前の自分が、同時に存在しています。

この研究は、その二つが別々に、しかし並行して、私たちの対人関係と自尊心を形づくっていることを、静かに示しています。

どちらが「本当の自分」なのか、という問いには、答えは用意されていません。
ただ、両方が存在していることを知ることが、理解の出発点になるのかもしれません。

(出典:Psychology International

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