なぜ私たちは食べすぎるのか

この記事の読みどころ
  • 幼少期の思い込み(スキーマ)は、現在の感情のうまく付き合い方や食べ方に複数の道筋で影響を与える。
  • 食事の質や運動は心理的要因とは独立して体重と関係しており、こころと生活習慣は同時に影響している。
  • 高リスク群と低リスク群の2つのタイプに分かれ、こころの特徴と生活習慣が一つのまとまりとして現れる。

ポーランドのワルミア・マズーリ大学(University of Warmia and Mazury in Olsztyn)社会科学部臨床・発達・教育心理学科で行われた研究が、食行動と肥満をめぐる「こころ」と「生活習慣」のつながりを、ひとつの統合モデルとして示しました。

対象は18歳から65歳までの成人1,500人。
研究者は、体重や腹囲だけでなく、幼少期に形成された思考パターン、感情の扱い方、ストレスや社会的支え、食べ方の傾向、食事の質、運動量、座っている時間までを同時に測定しました。

そして、それらがどのように結びついているのかを、構造方程式モデリングという統計手法で分析しました。さらに、似た特徴をもつ人のグループ分けも行いました。

結果は単純ではありません。
しかし、だからこそ興味深いのです。


幼少期に形づくられる「スキーマ」とは何か

研究の出発点は「早期不適応的スキーマ」という概念です。

スキーマとは、幼少期の体験から形成される、
「自分はこういう人間だ」
「他人はこういうものだ」
という深い思い込みのような認知・感情パターンです。

たとえば、
・見捨てられるのではないかという感覚
・自分は十分ではないという思い
・自制がきかないという感覚

こうしたパターンは、大人になっても残り続けることがあります。

この研究では、スキーマが強い人ほど「感情調整の困難(DERS)」が大きいことが示されました。
その関連は非常に強いものでした。

つまり、幼少期に形成された深い思考パターンは、
いま現在の感情の扱い方と結びついている可能性があるということです。


感情をうまく扱えないとき、食べることはどう変わるのか

感情調整の困難が強い人ほど、

・感情的過食(つらい気持ちを紛らわせるために食べる)
・習慣的過食(無意識に繰り返す食べすぎ)

が増える傾向がありました。

一方で、「食事制限(ダイエタリー・レストレイント)」とはわずかな逆方向の関連が見られました。

ここで重要なのは、
感情調整は「すべてを仲介する決定的な要因」ではなかったという点です。

スキーマは、感情調整を通さなくても、
直接、食行動と結びついていました。

つまり、

スキーマ → 感情調整 → 食行動

という単純な一本の道ではなく、

スキーマ → 食行動
スキーマ → 感情調整 → 一部の食行動

という、複数の経路が存在していました。

しかも、間接効果の大きさは非常に小さいものでした。

ここには大切な示唆があります。

私たちの食行動は、
「感情コントロールの問題だけ」で説明できるほど単純ではない、ということです。


食べ方は、本当に体重とつながっているのか

感情的過食や習慣的過食が強い人ほど、
「不健康な食事指数(UDI)」が高い傾向がありました。

これは、実際にエネルギー密度が高く栄養価の低い食品を多く摂取していることを意味します。

そして、

・不健康な食事指数が高い
・身体活動が少ない
・座っている時間が長い

これらはそれぞれ独立して、BMI(体格指数)や腹囲と関連していました。

特に興味深いのは、

心理的要因と生活習慣は、互いに独立した経路として、
並行して体重と関連していた

という点です。

つまり、

こころの問題がすべて
生活習慣がすべて

というどちらか一方ではありません。

両方が、同時に存在しています。


ストレスは悪化要因になるのか

研究では、

「ストレスが強いほど、スキーマと感情調整の関連が強くなる」

という仮説も検証されました。

しかし、この交互作用は支持されませんでした。

ストレスは感情調整と関連していましたが、
スキーマと感情調整の関係を強めるわけではありませんでした。

一方で、

社会的支援(サポート)は違いました。

社会的支援が高い人ほど、
スキーマと感情調整の関連は弱まっていました。

その効果は小さいものでしたが、
一貫して見られました。

つまり、

支えてくれる人がいることは、
深い思考パターンが感情調整に与える影響を、
わずかに和らげる可能性があるということです。


男女差はあったのか

構造モデルを男女で比較すると、

感情調整の困難が
感情的過食や習慣的過食につながる強さは、
女性のほうが強いことが示されました。

年齢による構造差は見られませんでした。

これは、

年齢によって関連の「形」が変わるのではなく、
全体的なレベルの違いがある可能性を示しています。


人は二つのタイプに分かれた

研究では、統計的に似た特徴をもつ人々を分類しました。

その結果、最も適切だったのは「二つのクラス」でした。

1. 高リスク群

・スキーマが高い
・感情調整困難が高い
・ストレスが高い
・社会的支援が低い
・過食が多い
・食事の質が低い
・運動が少なく座位時間が長い
・BMIと腹囲が高い

2. 低リスク群

上記とは逆の特徴をもつ群。

高リスク群の平均BMIは約29.8、
低リスク群は約21.8でした。

ここで示されたのは、

こころのパターン
感情の扱い方
生活習慣

これらが、別々ではなく、
ひとつのまとまりとして現れるということです。


この研究が示したもの

この研究は、
「肥満の原因はこれだ」と断定していません。

縦断研究ではないため、因果関係も示していません。

しかし、次のことは明らかになりました。

  1. 幼少期に形成された思考パターンは、いまの感情調整と強く結びついている

  2. その一部は食行動と関連している

  3. しかし感情調整は万能な説明因子ではない

  4. 食事の質や身体活動は、心理的経路とは独立して体重と関連している

  5. 社会的支援は小さいながらも保護的に働く

つまり、

肥満は単一の心理メカニズムでは説明できない。
それは、こころと生活の交差点にある。


私たちはどこを見るべきなのか

この研究が静かに問いかけているのは、

「こころを変えれば解決する」
「運動すれば解決する」

という単純な図式ではないということです。

深い認知パターン
感情の扱い方
社会的つながり
食習慣
身体活動

それぞれが、小さく、しかし確実に重なり合っています。

そして、それらは二つの大きなまとまりとして現れました。

リスクの集積。

あるいは、保護の集積。

私たちは、自分の体重をどこまで「意志」の問題だと考えてきたでしょうか。

この研究は、
それがより複雑で、より多層的な現象であることを示しています。

原因は一つではない。
そして、解決も一つではない。

それが、この研究の静かな結論です。

(出典:PLOS One DOI: 10.1371/journal.pone.0343336

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