- 研究は200人を対象にオンライン調査を行い、2010年頃と2024年頃のSNS画面を比べる質問をしました。
- SNSの劣化感や不信感、収益化のやり方の強さ、テクノストレス、依存傾向、昔のUI好みが喪失感と関係していました。
- 喪失感の原因は「使っている期間が長いこと」ではなく「どう変わったと感じるか」であり、因果関係はまだ分かっていないとしています。
この研究は、ノルウェーのベルゲン大学に所属する研究チームによって行われ、SNSが人の心にとってどのような「場所」として経験されているのかを心理学的に検討したものです。
SNSを使っていて、「前はもっと居心地がよかった気がする」「昔のほうが好きだった」と感じたことはないでしょうか。
機能が増えた。広告が増えた。デザインが変わった。アルゴリズムが変わった。
それ自体は珍しいことではありません。
それでも、なぜか心のほうが追いつかない。
少し疲れる。少しさびしい。少し距離を置きたくなる。
この研究は、そうした感覚を単なる「好み」や「懐古趣味」として片づけるのではなく、ひとつの心理的な喪失体験として捉え直そうとします。
鍵になる概念は、**ソラスタルジア(solastalgia)**です。
ソラスタルジアとは何か
ソラスタルジアとは、もともと「自分が暮らしている環境が変質してしまったときに生じる苦しさ」を指す言葉です。
引っ越して故郷を離れる悲しみではありません。
自分は同じ場所にいるのに、その場所のほうが変わってしまうときに起きる感情です。
この研究は、この考え方をデジタル空間へ広げます。
SNSは単なるツールではなく、日常的に出入りする「場所」として経験されている可能性がある。
もしそうなら、その場所が、
・荒れた
・わかりにくくなった
・落ち着かなくなった
・お金の匂いが強くなった
と感じられるとき、人は現実世界と似たかたちの喪失感を覚えるかもしれない。
研究者たちは、これをデジタル・ソラスタルジアと呼びます。
研究はどのように行われたのか
研究では、200人の参加者を対象にオンライン調査が行われました。
参加者は、
・SNSの利用状況
・もっともよく使うプラットフォーム
・そのSNSが「劣化した」と感じる度合い
・ソラスタルジアの強さ
・テクノストレス(技術がストレスになる感覚)
・SNS依存傾向
・テクノロジーに対する抵抗感や不安
などについて回答しました。
さらに、2010年頃のSNS画面と、2024年頃のSNS画面のスクリーンショットを提示し、
・安全そうか
・快適そうか
・見た目が魅力的か
といった評価も求めています。
単に「SNSが好きか嫌いか」を聞くのではなく、どの要因が喪失感と結びつくのかを細かく分けて調べる設計になっています。
何がデジタル・ソラスタルジアと関係していたのか
分析の結果、SNSに対してもソラスタルジアに似た感情が生じうることが示されました。
特に強く関連していたのは、次のような要因です。
・プラットフォームが劣化しているという認識
・運営への不信感
・マネタイズ(収益化)のやり方が強引だという感覚
・テクノストレスの高さ(とくにプライバシーへの不安や複雑さ)
・SNS依存傾向の高さ
・過去のUI(画面デザイン)を好む傾向
一方で、「どれだけ長くそのSNSを使ってきたか」という年数は、ソラスタルジアとはあまり関係していませんでした。
つまり、
長く使ったから悲しくなるのではなく、
“どう変わったと感じているか”が重要
だと考えられます。
UIの好みは、ただの懐かしさではない
興味深いのは、昔のUIを好む人ほど、デジタル・ソラスタルジアが強い傾向にあった点です。
これは単なる「懐かしいから好き」という話ではありません。
昔のUIのほうが、
・安心できる
・落ち着く
・わかりやすい
・安全そう
と評価されていたのです。
もしSNSが「場所」として経験されているなら、UIはその場所の照明や地形、空気感のようなものになります。
デザインが変わることは、単なる見た目の変更ではなく、
その場所にいる感じそのものを変えてしまう可能性があります。
因果関係はまだわからない
研究者たちは、この研究が横断調査であることを明確に述べています。
つまり、
・ソラスタルジアがストレスを生んでいるのか
・ストレスが強い人が劣化を感じやすいのか
その順番は断定できません。
今後は、時間を追った調査や実験的研究が必要だとされています。
「SNSがつらい」は、性格の問題ではない
この研究が静かに伝えているのは、次のような視点です。
SNSがつらくなるのは、
意志が弱いからでも、我慢が足りないからでもなく、
デジタル環境の変化と、人間の心の特性がかみ合っていないだけかもしれない。
プラットフォームの設計、収益モデル、複雑化、プライバシー不安。
そうした要因が積み重なって、居場所だった空間が居場所でなくなる。
それは個人の失敗ではありません。
私たちはどう向き合えばいいのか
この研究は、具体的な解決策を提示するものではありません。
ただ、ひとつの重要な見取り図を与えてくれます。
SNSは、便利な道具であると同時に、
知らないうちに居場所になっています。
居場所が変質すれば、
人は自然に、喪失を感じます。
もしあなたが、
「前よりSNSがしんどい」
「昔のほうが好きだった」
と感じているなら、それは甘えでも後ろ向きでもありません。
あなたが、その場所を本気で生きていた、というだけかもしれません。
変わってしまった場所とどう距離を取るか。
別の居場所をどう作るか。
その答えは、急がなくていい。
デジタルな居場所が当たり前になった時代に、
私たちはこれからも、試行錯誤しながら、
心が休める場所を探し続けていくのだと思われます。
(出典:humanities and social sciences communications DOI: 10.1057/s41599-026-06608-2)

