- 研究はデジャヴ・思い出・予期しない考えを人がどう言葉にするかを調べた
- 三つの体験は使う言葉と感情の傾向が違い、デジャヴは場所を感じさせる抽象的な語が多く、思い出は具体的な人物や場面を表す語が多い、予期しない考えは急な出現と強い感情を示す語が多い
- 言葉を手がかりに心の動きを区別できる可能性がある一方、内面を読み取る使用には倫理的な注意が必要だ
はじめに
私たちは、何も考えていないつもりのときでも、実はずっと考え続けています。
歩いている途中、シャワーを浴びているとき、何気ない日常の中で、突然ある考えが浮かぶことがあります。
「この場所、初めてなのに来たことがある気がする」
「昔の出来事が、急に頭に浮かんだ」
「なぜか、まったく予期していなかった考えが割り込んできた」
こうした体験は、多くの人にとって身近ですが、長いあいだ科学的には捉えにくい現象でした。
なぜなら、それらは意図して起こるものではなく、本人の内側で静かに生じるからです。
今回紹介する研究は、こうした自発的に浮かぶ思考を、「人がどう語るか」という視点から捉え直しました。
心の中の出来事を、言葉を通して分析することで、見えてきたものがあります。
研究の舞台
この研究は、アメリカの複数の大学に所属する研究者たちによって行われました。
認知科学、心理学、教育心理学、計算機科学といった分野が横断的に関わっています。
研究対象となったのは、314人の参加者です。
参加者は、次の3種類の体験について、それぞれ自分の言葉で文章を書きました。
・デジャヴ体験
・意図せずよみがえった個人的な思い出
・突然頭に浮かんだ予期しない考え
研究者たちは、「何を感じたか」だけでなく、「どんな言葉で表現したか」に注目しました。
三つの「自発的な思考」
デジャヴという感覚
デジャヴは、「以前に経験したことがある気がするのに、理由がわからない」という感覚です。
内容のある記憶ではなく、「知っている気がする」という感覚そのものが特徴です。
意図せずよみがえる思い出
こちらは、特定の出来事や人、場面が、本人の意思とは関係なく思い出される体験です。
感情や人間関係と強く結びついていることが多く、内容は具体的です。
突然浮かぶ予期しない考え
これは、タイミングも内容も予測できない形で割り込んでくる考えです。
驚きや違和感、不安を伴うこともあります。
一見似ているこれらの体験が、言葉の使われ方によってどう違うのかが、この研究の焦点でした。
言葉を「心の窓」として使う
研究者たちは、人が経験を語るときの言葉には、無意識の特徴が表れると考えました。
意識していなくても、選ばれる言葉や表現の傾向には、思考の性質がにじみ出ます。
そこで、自然言語処理という技術を使い、文章を分析しました。
単語の頻度だけでなく、文脈や意味のつながり、感情のニュアンスまでを調べています。
言葉の違いが示したもの
分析の結果、三つの思考体験は、はっきりと異なる言語的特徴を持っていることがわかりました。
デジャヴの言葉
デジャヴを語る文章には、
「場所」「歩いていた」「〜のように感じた」
といった、抽象的で空間的な言葉が多く使われていました。
一方で、
「母」「父」「恋人」
といった、具体的な人物を指す言葉はあまり出てきません。
これは、デジャヴが「内容のある記憶」ではなく、
記憶についての感覚そのものであることを示しています。
思い出の言葉
意図せずよみがえる思い出では、
「家族」「食事」「パーティー」
など、具体的で個人的な言葉が多く使われました。
誰と、どこで、何があったのか。
その輪郭がはっきりした語りが特徴です。
予期しない考えの言葉
突然浮かぶ考えでは、
「急に」「ランダムに」「侵入してきた」
といった、予測不能さや強さを表す言葉が目立ちました。
感情的に強く、注意を乱す性質が、言葉にも現れていました。
感情の色合いの違い
研究者たちは、文章に含まれる感情の傾向も分析しました。
その結果、
デジャヴは比較的中立的、あるいはわずかに前向きな感情が多いことが示されました。
一方、
思い出や予期しない考えには、
不安、悲しみ、恐れといった感情がより多く含まれていました。
つまり、
デジャヴは感情よりも「不思議さ」が中心であり、
他の二つは感情と深く結びついていることが示されたのです。
なぜこの違いが大切なのか
この研究の重要な点は、
「人は、自分の内面を語るとき、すでに違う思考を違う言葉で表現している」
という事実を示したことです。
私たちは、
ぼんやりしているときの思考を、ひとまとめに「雑念」と呼びがちです。
しかし実際には、その中には異なる種類の心の動きがあります。
言葉を丁寧に見ることで、
それらを区別できる可能性があることが、この研究から示されました。
応用の可能性と慎重さ
研究者たちは、この知見が教育や学習支援に役立つ可能性にも言及しています。
たとえば、
デジャヴのような状態は、好奇心が高まっているサインかもしれません。
一方で、
突然の侵入的な考えは、注意の回復を必要とする状態かもしれません。
ただし同時に、
言葉を通して心の状態を推測することには、倫理的な注意が必要だとも述べています。
内面を読み取る技術は、使い方を誤れば、人を縛る道具にもなり得るからです。
おわりに
この研究は、
「心の中で起きていることは、完全に見えないものではない」
という静かな示唆を与えてくれます。
言葉は、思考の影に過ぎないかもしれません。
しかし、その影を丁寧に見つめることで、
私たち自身の心の動きに、少し近づくことができる。
ふと浮かんだ考えは、偶然ではなく、
それぞれ異なる意味を持って、私たちの中に現れているのかもしれません。
(出典:Proceedings of the 47th Annual Conference of the Cognitive Science Society)

