- 孤独を感じる人は他人の意図を疑いやすく、信頼を急に引き下げがちだった。
- 投資ゲームでは、孤独な人は最初は信じるが、返しが少しでも期待外れだと信頼を一気にゼロ近くまで崩す。
- 信頼の揺れが相手の評価にも影響し、孤独と疑いは信頼の使い方を大きく動かす戦略になる。
信じたい気持ちと、疑ってしまう心は、どこですれ違うのか
人と関わりたい。
けれど、どこかで信じきれない。
孤独を感じているとき、多くの人がこの二つの気持ちのあいだで揺れ動きます。
今回紹介する研究は、その揺れが「性格」や「考え方」ではなく、人とのやりとりの中でどのように信頼を使っているかという、より具体的な行動のかたちとして現れることを示しました。
この研究を行ったのは、ロイヤル・ホロウェイ・ロンドン大学、シティ・セントジョージズ大学ロンドン、アムステルダムの精神医療研究機関などの研究チームです。
孤独感(ロンリネス)と疑念的な考え(パラノイア)が、人をどのように「信じる/信じない」行動へ導くのかを、実験と数理モデルの両面から調べました。
孤独と疑いは、同じ方向に動いていた
研究では、精神疾患のある人と、そうでない一般の人を含む54人が参加しました。
参加者は1週間にわたり、日常生活の中で「どれくらい孤独を感じたか」「どれくらい他人を疑ったか」を何度も記録します。
その結果、次のことが明らかになりました。
孤独を強く感じている人ほど、
他人の意図を疑いやすく、
「裏切られるかもしれない」という感覚を持ちやすい。
この関係は、精神疾患のある人だけでなく、一般の人にも同じように見られました。
つまり、孤独と疑いは「特別な状態」ではなく、誰の中にも連続的に存在しうる心の動きだと示されたのです。
「信頼」を試すゲームで、何が起きたのか
次に研究者たちは、参加者に「投資ゲーム」と呼ばれる実験を行いました。
参加者は毎回、手持ちのお金の一部を相手に預けます。
相手はそのお金を増やして返すことも、あまり返さないこともあります。
重要なのは、
相手は基本的に「善意的」に振る舞うようプログラムされていた、という点です。
つまり、このゲームでは
「本当は信頼しても大丈夫な相手」とやりとりをしていました。
孤独な人は、信じやすく、そして急に引く
結果は、一見すると意外なものでした。
孤独を強く感じている人は、
最初は相手をよく信じ、たくさんのお金を預ける傾向がありました。
しかし、相手が少しでも期待より返さなかったとき、
その信頼を急激に引き下げる傾向がありました。
特に、
・それまでよく返してくれていた相手
・「この人は信用できそうだ」と思っていた相手
に対してほど、
信頼を一気にゼロ近くまで下げる行動が見られました。
研究者は、この行動を「すべてか、何もか」という極端な戦略として捉えています。
学習が苦手なのではなかった
ここで重要なのは、
孤独な人が「相手の行動を正しく理解できていなかった」わけではない、という点です。
研究では、相手がどれくらい返してくるかについての予測自体は、
孤独でない人と同じくらい正確でした。
違っていたのは、
その予測を、どれくらい行動に反映させるかでした。
研究者はこれを「信頼する意欲」と呼び、数理モデルで表しました。
裏切られるかもしれない、という重さ
モデル分析から見えてきたのは、次の構図です。
孤独を感じやすい人は、
「信じたい気持ち」は持っている。
しかし同時に、
「裏切られたときのダメージ」を非常に重く見積もっている。
そのため、
・少しでも不安を感じると
・自分を守るために
・信頼を一気に引き下げる
という行動が起こりやすくなります。
疑念的な考え(パラノイア)が強い場合、この傾向はさらに強まりました。
信頼の揺れが、関係の印象を変えていく
ゲームの後、参加者は相手について
「公平だったか」「信頼できたか」「寛大だったか」を評価しました。
その結果、
信頼を安定して向けられなかった人ほど、
相手を「公平でない」「信頼しにくい」と感じやすいことが分かりました。
ここには、悪意のある相手はいません。
それでも、信頼の揺れそのものが、
相手への印象を否定的なものに変えてしまっていたのです。
孤独と疑いが作る、静かな悪循環
この研究が示したのは、
孤独な人が「人を信じられない人」なのではない、という点です。
むしろ、
・信じたい
・関わりたい
・でも傷つくのが怖い
その緊張が、
信頼を極端に使う行動として表れていました。
そしてその行動が、
結果的に関係をうまく育たないものにし、
さらに孤独を深めていく可能性が示されています。
結論を閉じないために
研究者たちは、この結果を
「孤独な人は信頼できない」と結論づけてはいません。
むしろ、
信頼をどう使うかという“戦略”が、
孤独と疑いによって大きく揺さぶられていることを示しました。
誰かを信じるとき、
私たちは常に少しの危険を引き受けています。
その重さを、どれくらいに感じるのか。
その感じ方の違いが、人との距離を静かに変えているのかもしれません。
(出典:communications psychology DOI: 10.1038/s44271-025-00384-6)

