親が別れた家庭で育つということ、その後の恋愛に

この記事の読みどころ
  • 親の離婚や不在は大人の恋愛に影響を与えるが、影響の形は人それぞれで一様ではない。
  • レバノンの社会や家族の背景の中で、別れの前後の関係や子どもが背負う役割が違うため、受け止め方も異なる。
  • 研究は、当事者の声から支援のヒントをまとめており、相談できる場の整備や正直な説明、学びとしての捉え方を提案している。

親の別れは、その後の恋愛にどう影響するのか

親の別れは、子ども時代の出来事として語られることが多いかもしれません。
しかし、大人になってからの恋愛や結婚のあり方にまで、その影響が静かに続いているとしたらどうでしょうか。

レバノンの大学で行われたこの研究は、「親の別れ」や「親の不在」を経験した人たちが、大人になってからどのように恋愛関係を築いているのかを、丁寧な聞き取りを通して描き出しています。
数字や尺度ではなく、一人ひとりの語りから浮かび上がってくるのは、単純に「良い」「悪い」では片づけられない、複雑で個別的な影響でした。

レバノンという文脈で考える親の別れ

この研究が扱っているのは、レバノンという社会的・文化的背景をもつ人々です。
この地域では、恋愛や結婚は個人の感情だけでなく、家族、宗教、経済、社会的評価と強く結びついています。離婚や別居は今もなおタブー視されやすく、精神的な問題について語ること自体が難しい空気があります。

また、親の「不在」は必ずしも離婚だけを意味しません。
国外での就労、移住、長期の別居、あるいは同じ家に住んでいても感情的には断絶している状態など、さまざまな形で生じます。

研究者たちは、こうした複雑な背景を前提にしながら、親の関係、親子関係、別れ直後の反応、そして長期的な影響という四つの層から、体験を整理しています。

親同士の関係は、子どもにどう映っていたか

参加者たちは、親同士の関係を「良好だった」「対立していた」という単純な二分では語っていません。
協力的で穏やかだった面と、暴力や支配、不在や冷淡さが混在していた面が、同じ家庭の中に同時に存在していたケースも多くありました。

別れたあとも、子どものために協力関係を保っていた親もいれば、対立が長く続いた親もいました。
同じ「別れ」という出来事でも、その前後の関係のあり方によって、子どもの受け止め方は大きく異なっていたことが語られています。

親との関係は、強くも弱くもなりうる

親子関係についても、一様な結果は見られませんでした。
親が不在でも強い情緒的なつながりを感じている人がいれば、物理的には近くにいても、愛情や理解を感じられなかった人もいます。

ある人は、長く会っていない父親に対して強い親近感や尊敬を語ります。
別の人は、同居していた母親との関係に息苦しさや怒りを抱え続けていました。

親の別れそのものよりも、「どのような関係が続いていたか」「子どもがどのような役割を背負わされていたか」が、強く影響している様子が浮かび上がります。

別れ直後に起こった心と行動の変化

親の別れを知った直後、多くの参加者がショックや混乱、恐れを経験していました。
なぜ起きたのか、自分のせいではないのか、他の家庭と比べてしまう気持ち。そうした思考が繰り返し頭の中を巡ります。

感情だけでなく、行動にも変化が表れました。
勉強に没頭することで現実から距離を取った人もいれば、怒りや攻撃性、飲酒や喫煙といった行動に向かった人もいます。

また、人間関係の中で早くから「自立しなければならない」「自分が支えなければならない」と感じ、親の役割を一部引き受けていた人もいました。

大人になってからの恋愛に現れた影響

長期的な影響として、恋愛関係への影響はとても多様でした。

ある人たちは、親の失敗から学び、自分が望む関係像をはっきりさせていました。
誠実さ、安定、信頼を強く重視し、「同じことは繰り返さない」と意識的に選択している様子が語られます。

一方で、不安や恐れが強く残っている人もいました。
見捨てられる不安、相手を強くコントロールしようとする傾向、感情的に距離のある相手ばかりを選んでしまうパターン。
自分でも理由がわからないまま、同じ関係を繰り返してしまう苦しさが語られています。

興味深いのは、同じ人の中に「成長」と「傷」が同時に存在している点です。
前向きな気づきを得ながらも、不安や迷いが完全に消えるわけではない。その両立が、ごく自然なものとして描かれています。

四つの事例が示す、影響の個別性

研究では、男女や親の不在の形が異なる四人の事例が詳しく紹介されています。
幼少期に両親が離婚し、不在が重なった男性。
成人後に親の別れを経験した男性。
母親の長期不在を経験した女性。
父親の不在と母親のうつ状態の中で育った女性。

それぞれが語る恋愛観や不安、価値観は大きく異なり、「親の別れ=こうなる」という単純な図式が成り立たないことを、強く示しています。

当事者の声から生まれた支援の提案

この研究の特徴は、支援の提案が研究者の理論ではなく、参加者自身の言葉からまとめられている点です。

精神的な問題について語れる環境をつくること。
学校や地域で、早い段階から相談できる場を用意すること。
親が別れる際に、子どもに正直で開かれた説明をすること。
愛情を無条件に伝え続けること。

また、「別れ」を単なる失敗として扱うのではなく、学びや成長の経験として捉え直す視点も示されています。

親の別れは、人生を決めてしまうのか

この研究が一貫して伝えているのは、親の別れがその人の恋愛を一方向に決定づけるわけではない、ということです。

影響は確かに残ります。
けれどそれは固定された運命ではなく、理解され、言葉にされ、支えられることで、形を変えていくものでもあります。

親の関係をどう見ていたのか。
自分はどんな役割を引き受けてきたのか。
恋愛で感じる不安は、どこから来ているのか。

その問いに静かに向き合うこと自体が、すでに一つの変化なのかもしれません。

(出典:Discover Psychology DOI: 10.1007/s44202-025-00518-1

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