強い人ほど相談しない、ではなかった

この記事の読みどころ
  • ストレスが高い学生ほど宗教的コーピングを使いやすくなり、前向きな支え方が増える
  • ストレスはレジリエンスを下げ、心の回復力が弱くなる
  • ストレスが高いほど専門家に相談する前向きさが高まる一方、ポジティブな宗教的コーピングは相談意欲を高める経路になるが、レジリエンスが高い人は相談意欲が低くなることがある

ストレスを感じたとき、人はなぜ「誰かに頼る人」と「ひとりで抱える人」に分かれるのか

大学生活は、多くの若者にとって希望と可能性に満ちた時間である一方、強いストレスにさらされやすい時期でもあります。試験、課題、人間関係、将来への不安などが重なり、気分の落ち込みや不眠、不安感を経験する学生は少なくありません。

それにもかかわらず、心理カウンセラーや臨床心理士などの専門的な心理支援を利用する学生は、必ずしも多くありません。
「つらいなら相談すればいい」と外からは見える状況でも、実際には多くの学生が友人や家族に頼るか、あるいは誰にも言わずに耐えています。

では、同じようにストレスを感じていても、

・専門家に相談しようと考える人
・宗教や信仰にすがる人
・ひとりで踏ん張ろうとする人

に分かれるのはなぜなのでしょうか。

この問いに答えようとしたのが、ホーチミン市教育大学 心理学部を中心とする研究チームによる今回の研究です。


研究の目的

この研究の目的は、次の4つの要素がどのように関係しているのかを明らかにすることでした。

・自分がどれくらいストレスを感じているか(知覚ストレス)
・宗教や信仰を使った対処のしかた(宗教的コーピング)
・困難から立ち直る力(レジリエンス)
・専門的な心理支援を求めることへの態度

とくに、「宗教的コーピング」と「レジリエンス」が、ストレスと相談意欲のあいだを仲介する役割をもつのかが検討されました。


調査方法

ベトナム各地の大学に在籍する学部生416名(18〜25歳)が、オンライン調査に参加しました。

使用された主な質問紙は次のとおりです。

・知覚ストレス尺度
・宗教的コーピング尺度
・簡易レジリエンス尺度
・専門的心理支援を求める態度尺度(短縮版)

統計解析には、変数同士の関係を同時に検討できる構造方程式モデリングという手法が用いられました。


ストレスが高いほど、宗教的な対処を使いやすい

まず明らかになったのは、

ストレスが高い学生ほど、宗教的コーピングを使いやすい

という結果です。

ここでいう宗教的コーピングには、二つのタイプがあります。

・ポジティブな宗教的コーピング
 (祈る、神や超越的存在に支えを求める、意味を見出そうとする など)

・ネガティブな宗教的コーピング
 (罰を受けていると感じる、見捨てられたと思う、怒りや不信を抱く など)

ストレスが高まると、良い形でも悪い形でも宗教的な枠組みを使って状況を理解しようとする傾向が強まることが示されました。


ストレスはレジリエンスを下げる

ストレスが高い学生ほど、レジリエンス(立ち直る力)は低い傾向がありました。

つまり、

強いストレス
→ 心の余力が減る
→ 回復しにくくなる

という流れが確認されました。


意外な結果:ストレスが高いほど「相談に前向き」

直感に反するかもしれませんが、

ストレスが高いほど、専門的な心理支援に対して前向きな態度を示す

という結果が得られました。

追い込まれるほど、

「さすがにひとりでは無理かもしれない」
「専門家に頼る必要があるかもしれない」

と感じやすくなる可能性があります。


ポジティブな宗教的コーピングは、相談意欲を高める

ポジティブな宗教的コーピングを多く用いる学生ほど、専門家に相談することに前向きでした。

つまり、

ストレス
→ ポジティブな宗教的コーピング
→ 相談への前向きさ

という間接的な経路が確認されました。

信仰やスピリチュアルな実践が、

「助けを求めてもよい」
「支えを受け取ってよい」

という考えを後押ししている可能性があります。


ネガティブな宗教的コーピングと相談意欲の関係は弱い

一方で、

ネガティブな宗教的コーピング
→ 相談意欲が下がる

という関係は、統計的に十分な強さではありませんでした。

ネガティブな宗教的体験が、必ずしも相談を妨げるとは言えない結果です。


レジリエンスは「相談したくなる力」ではなかった

レジリエンスが高い学生ほど相談に前向き、という関係は見られませんでした。

むしろ、わずかに

レジリエンスが高いほど、相談意欲が低い傾向

がありました。

これは、

「自分で何とかできる」
「耐えられる」

と感じている人ほど、外部の支援を必要と感じにくい可能性を示しています。

レジリエンスは、内側で踏ん張る力として働くが、外に助けを求める動機にはなりにくいのかもしれません。


LGBTQ+の学生と自傷経験のある学生の特徴

追加分析から、次のような傾向も示されました。

LGBTQ+の学生
・ストレスが高い
・ポジティブ・ネガティブ両方の宗教的コーピングが高い

自傷経験のある学生
・ストレスが高い
・ポジティブな宗教的コーピングが高い
・レジリエンスが低い
・相談への前向きさが低い

苦しさが強いほど、内面的・宗教的な対処に頼る一方で、専門家にはつながりにくい状況がうかがえます。


文化の中で形づくられる「助けを求めるかどうか」

研究チームは、ベトナムの文化的背景にも注目しています。

・家族の結束を重んじる
・感情を表に出しすぎない
・個人の問題は内側で処理する

こうした価値観の中では、

「自分で耐える」
「家族や信仰に頼る」

ことが自然な選択になりやすく、専門家に相談することは後回しになりがちです。


この研究が示していること

この研究は、次の点を静かに示しています。

・ストレスは、助けを求めるきっかけにもなる
・ポジティブな宗教的コーピングは、相談への扉を少し開く
・レジリエンスは、内側で踏ん張る力であり、相談意欲とは別物

つまり、

強さ=ひとりで抱えること

ではありません。

同時に、

強くなるほど相談する

とも限らないのです。


余白として残る問い

もし、宗教的な支えが「内側の安心」を生み、専門的支援への抵抗を和らげるのだとしたら。

大学という場は、

・心理支援の窓口
・静かに祈れる場所
・安心して気持ちを話せる空間

そのすべてを併せ持つ必要があるのかもしれません。

人が「誰かに頼る」かどうかは、意志の強さではなく、文化と環境の中で形づくられている

この研究は、そうした静かな前提を、そっと浮かび上がらせています。

(出典:scientific reports DOI: 10.1038/s41598-026-36332-5

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