- 気分が悪いと人はネガティブな情報を見やすくなる。
- ネガティブな情報を多く読む人は心の状態が悪くなる傾向がある。
- 気分と閲覧する内容は互いに影響し合い、ネガティブな情報がさらに気分を悪くして、またネガティブを選ぶ循環が生まれる。
インターネット閲覧がつくる「気分のループ」
私たちは日々、かなり長い時間をインターネットの中で過ごしています。
ニュースを読み、検索をし、記事や動画を眺める。そうした行動は、ほとんど無意識の習慣になっています。
では、そのとき私たちは、どんな情報を選んでいるのでしょうか。
そして、その情報は私たちの気分や心の状態にどのような影響を与えているのでしょうか。
ある研究は、ここに興味深い現象があることを示しました。
それは、
人が選ぶ情報の性質と、その人の心の状態は、互いに影響し合う
というものです。
気分が落ち込んでいるとき、人はネガティブな情報を見やすくなります。
そしてネガティブな情報を多く見れば、さらに気分が悪くなります。
つまり、
気分 → 情報の選択 → 気分
という循環が生まれる可能性があるのです。
今回の研究は、この「情報と気分の循環」を、実際のウェブ閲覧データを使って詳しく調べたものです。
人は一日に6.5時間オンラインにいる
現在、人は平均して1日に約6.5時間をオンラインで過ごしているとされています。
その時間の多くは、SNSの投稿よりも
「情報を探す行動」
に使われています。
たとえば、
-
検索結果をクリックする
-
ニュース記事を読む
-
解説記事やブログを見る
-
調べ物をする
といった行動です。
研究者たちはここに注目しました。
人がどんな情報を選ぶかは、単なる偶然ではありません。
そこには、その人の
-
思考の傾向
-
感情の状態
-
心理的な関心
などが反映されている可能性があります。
もしそうなら、
ウェブ閲覧の内容は、その人の心の状態を映し出しているかもしれない
ということになります。
閲覧履歴と心の状態を同時に調べる
研究では、1000人以上の参加者を対象に、複数の実験が行われました。
参加者には、
-
インターネットを自由に閲覧する
-
その閲覧履歴を提出する
-
心理状態に関する質問に答える
という課題が与えられました。
研究者たちは、参加者が訪れたウェブページの文章を取り出し、その内容を分析しました。
文章の中に含まれる言葉を調べることで、
-
ポジティブな表現
-
ネガティブな表現
-
怒り
-
恐れ
-
喜び
-
悲しみ
などの感情的な性質を数値として計算しました。
こうして、
その人がどれくらいネガティブな内容の情報を読んでいるか
を測定したのです。
この研究は、イギリスの**ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(University College London)**を中心とする研究チームによって行われました。研究には、マックス・プランクUCL計算精神医学・老化研究センター(Max Planck UCL Centre for Computational Psychiatry and Ageing Research)や、アメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)、スタンフォード大学の研究者も参加しています。
ネガティブな情報を多く見る人ほど心の状態が悪い
分析の結果、はっきりとした傾向が見つかりました。
ネガティブな内容のウェブページを多く見ている人ほど、心理的な問題のスコアが高かったのです。
研究では、心の状態を次の三つの側面で測定していました。
-
不安や抑うつ
-
社会的な引きこもり
-
強迫的な思考や行動
その結果、ネガティブな情報の閲覧量は、これらすべてと関連していました。
つまり、
特定の症状だけではなく、全体的なメンタルヘルスと関係していた
ということです。
気分は閲覧内容に影響する
研究者たちはさらに、もう一つの可能性を調べました。
それは、
気分が閲覧内容を変えるのではないか
というものです。
参加者には、インターネットを使う前と後に、
「今どれくらい幸せですか」
という質問に答えてもらいました。
その結果、気分が悪い状態でインターネットを始めた人は、
よりネガティブな内容のページを選びやすい
傾向がありました。
つまり、
気分が情報選択に影響している
可能性があるのです。
ネガティブな情報は気分をさらに悪くする
しかし、それだけではありません。
研究者たちはさらに、
情報が気分を変えるのか
という点も調べました。
別の実験では、参加者に
-
ネガティブな内容のページ
-
中立的な内容のページ
のどちらかを読んでもらいました。
その結果、
ネガティブなページを読んだ人のほうが、その後の気分が悪くなりました。
さらにその後、自由にインターネットを使ってもらうと、
ネガティブな情報をより多く見る
傾向が現れました。
つまり、
-
ネガティブな情報を見る
-
気分が悪くなる
-
さらにネガティブな情報を見る
という循環が生まれていたのです。
インターネットは気分の「ループ」を作る
ここまでの結果をまとめると、次のような構造が見えてきます。
まず、
気分が悪いとき、人はネガティブな情報を選びやすくなります。
そして、
ネガティブな情報を見ると、気分はさらに悪くなります。
この二つが組み合わさると、
自己強化的なループ
が生まれます。
研究者たちはこれを、
情報と感情のフィードバックループ
として説明しています。
つまり、
人が見る情報は、その人の心の状態を映すだけではありません。
その心の状態をさらに作り出している可能性がある
ということです。
情報は私たちの心を映し、そして作る
私たちは普段、インターネットを使うとき、
「ただ情報を見ているだけ」
だと思いがちです。
しかし、この研究が示しているのは、
情報は私たちの心を映す鏡であり、同時に心を形づくる要素でもある
ということです。
ネガティブな情報に触れることが必ず悪いわけではありません。
ときには重要で必要な情報もあります。
しかし、
どんな情報を選び続けるか
という小さな習慣が、私たちの気分や心の状態に影響している可能性があります。
インターネットは単なる情報の場所ではありません。
そこは、
私たちの感情と相互作用する環境
なのかもしれません。
(出典:nature human behaviour DOI: 10.1038/s41562-024-02065-6)

