人は“体験したこと”しか信じないのかもしれない

この記事の読みどころ
  • 幽霊の体験をした人は幽霊を信じやすく、幽霊を探す行動にもつながりやすい一方、宗教体験が宗教信念を強めるとは限らない。
  • 宗教体験は神を信じやすさや宗教的価値観の重視、礼拝や祈りとつながる傾向があるが、幽霊体験と宗教信念の結びつきはほとんどない。
  • 体験と信念の結びつきは体験の内容や性格特性で異なり、体験→解釈→信念という過程で育つ。

幽霊を見た人は幽霊を信じる。神を感じた人は神を信じる

──「体験」と「信念」は、思っている以上に分かれている

人はなぜ、何かを「信じる」ようになるのでしょうか。
幽霊を信じる人。神を信じる人。どちらも「非日常的な存在」を信じている点では似ているように見えます。しかし、その信念が生まれる背景は、本当に同じなのでしょうか。

この疑問に対して、アメリカの心理学研究チームは、「体験」と「信念」の関係を丁寧に調べました。焦点となったのは、幽霊に関する体験と信念、そして宗教的な体験と信念です。

研究の結論は、非常に明確でした。
幽霊体験は幽霊信念と結びつき、宗教体験は宗教信念と結びつく。
その逆は、ほとんど起こらなかったのです。


「信じているから体験する」のか、「体験したから信じる」のか

私たちは日常の中で、「体験が考え方を変えた」と感じることがあります。
怖い体験、感動的な体験、不思議な体験。そうした出来事が、その後の世界の見え方を変えることは珍しくありません。

この研究では、幽霊や宗教に関する信念についても、同じ問いが立てられました。

  • 幽霊を見た(あるいは感じた)経験がある人は、幽霊を信じやすいのか

  • 神や「何か大きな存在」を感じた経験がある人は、宗教的信念を持ちやすいのか

そしてもう一つ重要なのは、
幽霊体験をした人が、宗教も信じやすくなるわけではないのか
という点でした。


幽霊体験と宗教体験は、同じ「不思議」ではなかった

研究では、約600人近い参加者が調査に協力しました。
参加者には、幽霊ツアーに参加した一般の人と、大学生が含まれています。

調査では、次のようなことが詳しく尋ねられました。

  • 幽霊を見た、気配を感じた、音や温度の変化を感じた経験はあるか

  • 神や超越的な存在を感じた、世界との一体感を覚えた経験はあるか

  • 幽霊や宗教をどの程度信じているか

  • 幽霊探しや宗教的行動をどれくらい行っているか

分析の結果、はっきりとした違いが浮かび上がりました。

幽霊体験をした人は、

  • 幽霊を信じやすく

  • 幽霊探しや幽霊ツアーに参加しやすく

  • 他の超常現象(予知、スピリチュアルな存在など)も信じやすい

一方で、宗教体験をした人は、

  • 神の存在を信じやすく

  • 宗教的価値観を重視し

  • 礼拝や祈りなどの行動と結びついていました

幽霊体験が宗教信念を強めることは、ほとんどなかった
宗教体験が幽霊信念を強めることも、ほとんどなかった

この点が、この研究の最も重要な発見です。


両方を信じている人でも、体験の「対応関係」は崩れない

興味深いことに、参加者の中には、
幽霊も宗教も信じている人が少なからず存在しました。

しかし、その人たちのデータを詳しく見ると、次のことがわかりました。

  • 幽霊体験が多い人ほど、幽霊信念が強い

  • 宗教体験が多い人ほど、宗教信念が強い

  • 幽霊体験と宗教信念の間には、ほぼ関係がない

  • 宗教体験と幽霊信念の間にも、ほぼ関係がない

つまり、
「両方を信じている人」であっても、体験と信念の結びつきは内容ごとに分かれている
ということが示されました。


性格は「直接」信念を作るのではなく、「体験」を通して影響する

研究では、性格特性についても詳しく調べられました。
ここで重要なのは、性格が信念に直接影響するのではなく、体験を通して間接的に影響している点です。

幽霊体験と結びついていたのは、次のような特性でした。

  • 感覚や知覚が独特である傾向

  • 刺激を求めやすい傾向

  • 想像や没入が起きやすい傾向

  • 自分の身体感覚に注意を向けやすい傾向

これらの性格特性を持つ人は、幽霊体験をしやすく、
その結果として幽霊信念が強くなっていました。

一方、宗教体験と結びついていたのは、

  • 科学に対して距離を置く傾向

  • 「考えただけで意味がある」と感じやすい傾向

  • 神や道徳に対する強い意識

これらは、幽霊体験とはほとんど重なっていません。


「信念」はひとつの心の働きではなかった

この研究が示しているのは、
幽霊信念と宗教信念は、心理的に別の仕組みで成り立っている
という事実です。

どちらも「非日常」や「超常」を含む信念ですが、

  • 体験の内容

  • 結びつく行動

  • 関連する性格特性

これらは驚くほど異なっていました。

「不思議な体験をした人は、何でも信じやすくなる」という単純な話ではありません。
人は、自分が何を体験したかに応じて、対応する信念だけを育てていくようです。


信じることには、理由がある

この研究は、信念を「非合理なもの」として切り捨てるものではありません。
むしろ、信念がどのように形づくられているのかを、丁寧に解きほぐしています。

人は、意味のないところに信念を作っているわけではありません。
体験があり、その体験が解釈され、世界観として定着していく。

幽霊を信じる人にも、
宗教を信じる人にも、
それぞれの経験に根ざした理由がある。

信じることは、偶然でも、気まぐれでもなく、
人間の心の中で、筋道をもって生まれている現象なのかもしれません。

(出典:RsearchGate


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