- 体育を専攻する大学生の進路の迷いは、能力だけでなくコア自己評価や周囲のサポート、将来への適応力にも影響されると分かった。
- コア自己評価が高い人は迷いが少なく、周囲の支援を受けやすく、自分の判断基準を持ちやすい。
- コア自己評価→社会的サポート→キャリア適応力の連鎖で、進路決定の難しさが和らぐ仕組みが示された。
進路に迷う理由は、能力不足だけではありません
大学生の進路選択は、能力や成績だけで決まるものではありません。とくに体育を専門とする学生の場合、競技力や指導力といった専門性がはっきりしている一方で、「自分は何に向いているのか」「どこまで通用するのか」といった判断に迷いやすい現実があります。本研究は、そうした迷いがどのような心理的要因から生まれ、どのように軽減されうるのかを、実証的に明らかにしようとしたものです。
対象となったのは、中国の複数地域にある大学で体育を専攻する学部生です。研究者たちは、「コア自己評価」という個人の内面的な自己認識に注目し、それが進路決定の困難さにどのような影響を及ぼすのか、さらにその過程で「社会的サポート」と「キャリア適応力」がどのように関わるのかを詳細に検討しました。
コア自己評価とは何か
コア自己評価とは、自分自身をどのような存在だと捉えているかという、根本的な自己評価の枠組みを指します。そこには、自尊感情や自己効力感、自分で物事をコントロールできるという感覚、情緒的な安定性などが含まれます。
この評価が高い人は、自分の能力や価値を比較的肯定的に捉え、困難な状況でも「何とかなる」「工夫すれば進める」と考えやすい傾向があります。反対に、コア自己評価が低い場合、自分に対する不信感や無力感が強まり、選択を迫られる場面で強い不安や迷いを抱きやすくなります。
体育専攻学生が直面する進路決定の難しさ
体育専攻の学生は、一般的な学部とは異なる特有の課題を抱えています。たとえば、自身の競技レベルがプロや指導者として十分なのか、教育現場に適応できるのか、スポーツ関連産業の中でどのような道があるのかといった情報が十分に見えにくい状況があります。
その結果、自己理解が曖昧になり、将来像を描ききれないまま意思決定を先延ばしにしてしまうことがあります。本研究では、こうした「進路決定の困難さ」を、自己探索、情報収集、計画立案、目標設定といった側面から測定しています。
コア自己評価は進路の迷いを直接減らす
分析の結果、コア自己評価が高い学生ほど、進路決定における困難さが低いことが確認されました。つまり、自分自身を肯定的に捉えられる学生ほど、進路について迷いにくいという関係が明確に示されたのです。
これは、コア自己評価が高いことで、不確実な状況に対しても過度に不安を抱かず、自分なりの判断基準を持ちやすくなるためだと考えられます。進路選択に正解が見えなくても、「考えながら修正すればよい」と捉えられることが、迷いの軽減につながります。
社会的サポートという媒介
本研究がさらに明らかにしたのは、コア自己評価が進路決定に影響する際、その効果の一部が「社会的サポート」を通じて生じているという点です。
社会的サポートとは、家族、友人、教員などから得られる情緒的・情報的・実践的な支えを指します。コア自己評価が高い学生は、周囲との関係を前向きに捉えやすく、同じ支援を受けても「支えてもらっている」と実感しやすい傾向があります。
その結果、進路に関する不安や迷いを一人で抱え込まず、他者の助言や経験を活用することができ、進路決定の困難さが和らぎます。社会的サポートは、単なる外的条件ではなく、個人の自己評価と結びついて機能する要因であることが示されました。
キャリア適応力が果たす役割
もう一つの重要な要素が、キャリア適応力です。これは、将来の変化や予測不能な課題に対して柔軟に対応し、自分の進路を調整していく力を意味します。関心、統制感、好奇心、自信といった側面から構成される、動的な心理的資源です。
研究の結果、コア自己評価が高い学生ほどキャリア適応力も高く、キャリア適応力が高いほど進路決定の困難さが低いことが確認されました。自分を信頼できる学生は、進路上の変化を脅威としてではなく課題として捉え、試行錯誤しながら前進しやすくなります。
社会的サポートとキャリア適応力の連鎖
本研究の特徴的な発見は、社会的サポートとキャリア適応力が連鎖的に働く点です。コア自己評価が高い学生は、まず社会的サポートをより強く感じ取り、その支えを土台としてキャリア適応力を高めていきます。そして、その結果として進路決定の困難さがさらに低下します。
この連鎖的なメカニズムは、進路の迷いが単一の要因から生まれるのではなく、内面の自己評価と周囲との関係性、将来への適応力が相互に影響し合って形成されることを示しています。
教育・支援への示唆
本研究は、体育専攻学生の進路支援において、単に情報提供や就職先の紹介を行うだけでは不十分であることを示唆しています。学生自身のコア自己評価を高める取り組み、家族や教員、仲間とのつながりを意識的に支える環境づくり、そしてキャリア適応力を育む実践的な学習機会が、相互に補完し合うことが重要です。
進路の迷いは、能力の欠如ではなく、自己評価や支援の受け取り方、変化への備えの問題として現れる場合があります。その理解が、より現実的で人間的なキャリア支援につながる可能性があります。
研究の限界と今後の課題
本研究は横断的調査に基づいており、時間の経過による変化までは捉えられていません。また、対象地域や学部が限定されているため、結果の一般化には注意が必要です。今後は、縦断的な研究や異なる分野への適用を通じて、この連鎖メカニズムがどの程度普遍的なのかを検討していくことが求められます。
それでも本研究は、進路に迷う学生の内面と環境の関係を丁寧に描き出し、「迷いには理由がある」という視点を、実証的に裏づけた点に大きな意義があります。
(出典:Frontiers in Psychology DOI: 10.3389/fpsyg.2025.1650716)

