- 同乗者の人数と態度が、若年ドライバーの危険運転に影響するかを仮想現実で調べた。
- 危険を容認する態度の同乗者がいれば追い越しが増え、慎重な態度なら追い越しが減って待つ車が多くなる。
- 同乗者の人数が増えると信号で停止しきれず進んでしまうことがあり、注意が分散する場合もあるとされた。
同乗者は、運転をどう変えてしまうのか
車を運転しているとき、同乗者の存在が自分の判断や行動に影響していると感じたことはないでしょうか。
誰と、何人で乗っているかによって、スピードの出し方や交差点での判断が微妙に変わる。そうした感覚は、多くの人にとって身に覚えのあるものかもしれません。
この研究は、そうした日常的な感覚を、「同乗者の人数」と「同乗者が示す態度」という二つの要素に分け、若年成人ドライバーの危険運転行動との関係を実験的に検討したものです。舞台となったのは、仮想現実を用いた運転環境でした。
若年成人ドライバーに注目した理由
中国では、運転免許を取得できるのは18歳以上に限られています。そのため、欧米で多く研究されてきた「10代ドライバー」の知見を、そのまま中国の状況に当てはめることはできません。
本研究では、20歳から29歳の中国人若年成人を対象とし、運転経験が極端に多すぎたり少なすぎたりしないよう、参加条件を厳密に設定しました。こうして、経験のばらつきによる影響をできる限り抑えたうえで、同乗者効果そのものを検討しています。
「人数」だけでは説明できない問題
これまでの研究では、同乗者の人数が多いほど危険運転が増えるという結果もあれば、逆に慎重になるという結果も報告されてきました。
特に若年層では、同乗者がいることでリスクが高まる一方、高齢ドライバーでは保護的に働く場合もあります。
こうした食い違いの背景には、「同乗者がどんな態度を示しているか」という点が関係している可能性が指摘されてきました。人数そのものよりも、同乗者が暗黙に伝える価値観や期待が、運転行動を方向づけているかもしれないのです。
注目された「指令的規範」という考え方
この研究で中心となるのが、「指令的規範(injunctive norms)」という概念です。
これは、「周囲の重要な他者が、その行動を良いと思っているか、好ましくないと思っているか」という認知を指します。
同乗者が危険を容認する態度を示していれば、ドライバーは「多少無理をしても問題ない」と感じやすくなります。反対に、慎重な態度が示されれば、「ここは待ったほうがいい」と判断しやすくなる可能性があります。
仮想空間で再現された運転場面
実験は、仮想現実ヘッドセットとハンドルを用いた運転シミュレーションで行われました。
参加者は、同乗者がいない状態、1人いる状態、2人いる状態の3条件を体験します。
同乗者は、若年成人女性の仮想キャラクターとして設定され、出発前や走行中に音声でコメントを行います。その内容は、危険を受け入れる態度か、慎重な態度かのいずれかに統一されていました。命令や指示ではなく、交通状況に対する評価や感想という形で態度が示されます。
測定された三つの危険運転行動
研究では、以下の三つの行動が危険運転の指標として記録されました。
一つ目は、信号が黄色に変わった際に、停止線で止まらず進行してしまうかどうか。
二つ目は、直線道路で遅い車を追い越す回数。
三つ目は、右折時に直進車をどれだけ待つかという判断です。
いずれも、ドライバー自身の判断に委ねられる場面であり、日常の運転でも頻繁に遭遇する状況です。
同乗者の態度は、確かに伝わっていた
操作が意図した通りに機能していたかを確認するため、実験後には同乗者の印象に関する質問が行われました。
その結果、危険を容認する態度を示した同乗者は、参加者からも「リスクを受け入れる人」として明確に認識されていました。
また、2人同乗の条件でも、二人の声を区別でき、存在をきちんと意識していたことが確認されています。
人数が増えると起きた変化
同乗者の人数そのものが影響した行動もありました。
特に、信号での停止行動では、2人同乗しているときのほうが、同乗者がいないときよりも止まりきれない割合が高くなりました。
この行動は、素早い判断と注意の集中が必要な場面です。研究者は、同乗者が増えることで注意資源が分散し、判断が遅れる可能性を示唆しています。
態度と人数が組み合わさったときの効果
より特徴的だったのは、追い越しや右折判断といった行動でした。
危険を容認する同乗者がいる場合、ドライバーは遅い車を多く追い越し、直進車をあまり待たずに右折する傾向を示しました。
この傾向は、同乗者が1人よりも2人いるときに、より強く表れていました。
一方で、慎重な態度を示す同乗者が増えるほど、追い越しは減り、右折前に多くの車を待つようになりました。
なぜ行動によって違いが出たのか
研究では、すべての危険運転行動で同じパターンが見られたわけではありません。
特に、信号での停止行動では、態度と人数の相互作用は明確ではありませんでした。
研究者は、反応時間が非常に短い行動では、同乗者の態度よりも注意分散や身体感覚の影響が大きくなる可能性を指摘しています。一方、追い越しや右折のように、距離や速度を判断する行動では、同乗者の期待や雰囲気が反映されやすいと考えられます。
この研究が示す示唆
この研究は、危険運転を「ドライバー個人の性格や能力」の問題としてだけでなく、「同じ車内にいる人との関係性」の中で捉える必要があることを示しています。
誰が、何人で、どんな態度で同乗しているのか。
その組み合わせによって、運転行動は静かに、しかし確実に変わっていく可能性があります。
研究は結論を急ぎませんが、交通安全を考えるうえで、「運転席の外側」にも目を向ける必要があることを、丁寧に示しているように見えます。
(出典:Discover Psychology DOI: 10.1007/s44202-025-00575-6)

