- 社会信用スコアが見えると、協力したり信頼したりする人が減ってしまうことが多い。
- 特に高いとされる人ほど影響が大きく、低い相手にはさらに厳しくなる。
- スコアは人を評価する目を壊し、低いスコアの人ほど評価が上がりにくくなることが分かった。
信用スコアは、人を信じさせるのか
「信用スコアがあれば、人は安心して協力できるようになる」。
こうした直感的な期待は、多くの社会制度やテクノロジー設計の前提になっています。誰が信頼でき、誰がそうでないかが数値で示されれば、迷わず判断できる。そう考えるのは自然です。
しかし、この研究が示したのは、まったく逆の現象でした。
社会的信用スコアが可視化されると、人は協力しなくなり、信頼しなくなり、しかもその傾向は「信用が高い側の人」ほど強くなるのです。
この研究は、社会信用スコア(Social Credit Score)が人と人との関係にどのような影響を及ぼすのかを、実験的に検証したものです。対象となったのは、協力、信頼、そして「一緒に組みたい相手をどう選ぶか」という、ごく基本的な社会行動でした。
社会信用スコアとは何か
研究で扱われた社会信用スコアとは、個人の社会的行動や経済的履歴、道徳性、社会的地位などをもとに数値やランクとして付与される評価のことです。
それは、国家による制度に限らず、企業や組織、プラットフォームが用いる評価システムも含みます。
この研究では、参加者に対して質問票を用い、あたかも実際の社会信用制度のように見せかけたうえで、A・B・Cの三段階のスコアが割り当てられました。重要なのは、このスコアが実際の人格や行動に基づいていたわけではなく、実験上はランダムに割り当てられていたという点です。
つまり、スコアそのものが「正しいかどうか」ではなく、スコアが存在し、見えていること自体が、人の判断にどう影響するかを調べるための設計でした。
協力は、スコアがあると減っていく
最初の実験では、公共財ゲームと呼ばれる課題が用いられました。
複数人がそれぞれ持っている資源を、どれだけ「みんなのため」に差し出すかを選ぶゲームです。ここでは、他者のために資源を出す行為が「協力」を意味します。
結果は明確でした。
社会信用スコアが表示される条件では、表示されない条件よりも、全体として協力の量が減少しました。
しかも興味深いことに、協力が最も減ったのは、信用スコアが高いとされる参加者でした。
自分のスコアが高い人ほど、他者への貢献を控える傾向が強くなったのです。
さらに、相手の信用スコアが低い場合には、協力は一層抑制されました。この影響は、信用スコアが高い人ほど顕著でした。
つまり、「信用が高い人」が、「信用が低いと表示された相手」を避けるように行動したのです。
信頼は、数値によって壊れていく
次の実験では、信頼ゲームが用いられました。
ここでは、「相手をどれだけ信じて資源を預けるか」と、「預けられた側がどれだけ返すか」が分けて測定されます。
まず明らかになったのは、信用スコアが表示されると、人は相手を信じなくなるという点でした。
信用スコアがある条件では、相手に預ける金額が全体として減少しました。
ここでも、信用スコアが高い参加者ほど、相手に預ける金額が少なくなる傾向が見られました。
さらに、相手の信用スコアが低いと、その影響はより強く現れました。
しかし、より深刻なのは「返す側」の行動です。
同じだけ信頼され、同じだけ資源を受け取っていたとしても、信用スコアが低い相手には、返される量が少なくなるという結果が示されました。
つまり、信用スコアが低い人は、
信頼しにくい相手だと見なされ、
信頼したとしても、見返りが少なくなる。
二重に不利な立場に置かれていたのです。
行動しても、評価は変わらない
三つ目の実験では、「人は誰と組みたいと思うのか」「相手をどう評価するのか」が調べられました。
参加者は、過去の協力行動が明らかな複数の人物を見て、その人物の信用スコアと行動結果を同時に提示されます。
ここで問われたのは、「行動が良ければ、評価は回復するのか」という点でした。
結果は否定的でした。
信用スコアが低いと、実際に協力的な行動をしていても、その評価は十分に上がらなかったのです。
誠実さ、信頼性、温かさ、能力、チームに向いているかどうか。
ほぼすべての評価項目において、信用スコアが低い人物は不利な評価を受け続けました。
しかもこれは、過去の行動という客観的な情報を見たあとでも変わりませんでした。
信用スコアというラベルが、行動の意味づけそのものを歪めていたのです。
数値がつくと、人は「人」を見なくなる
この研究全体を通して浮かび上がるのは、社会信用スコアが判断を助ける情報としてではなく、判断を固定化するラベルとして機能してしまうという現実です。
スコアは、複雑な人間を一瞬で分類する便利な手段です。
しかしその便利さは、同時に、人を「見る」ことをやめさせます。
しかも、いったん低いスコアが付与されると、
努力や協力、誠実な行動によって評価を覆すことが難しくなる。
研究は、そのような「変わりにくい偏り」が生まれることを示しています。
公平のための制度が、不公平を強めるとき
社会信用スコアは、秩序や効率、公平性のために導入されることが多い制度です。
しかし、この研究が示すのは、その導入自体が、協力と信頼を損ない、格差を固定化する可能性です。
特に影響を受けるのは、スコアが低いとされる人たちです。
彼らは、信頼されにくく、協力されにくく、努力が評価に反映されにくい状況に置かれます。
数値は中立に見えます。
しかし、その数値をどう使うかによって、人間関係のあり方は大きく変わります。
この研究は、「見える信用」が、本当に社会を良くするのかという問いを、静かに、しかしはっきりと突きつけています。
信頼とは、数値で管理できるものなのか。
あるいは、数値にした瞬間に失われてしまうものなのか。
その答えは、まだ簡単には出せません。
ただ、この研究は、考え続ける理由を、確かに示しています。
(出典:PLOS One DOI: 10.1371/journal.pone.0335810)

