- キャリアは自分だけのものではなく、家族や職場、友人、社会の関係の中で作られる。
- 親やパートナー、子ども、上司、社会の価値観や期待が、支えにも束縛にもなる。
- キャリアは状況で変わり続け、関係の中で主体的な選択にもなり得る。
― 人間関係がキャリアを「支えも縛りもする」という研究
私たちは、自分の人生やキャリアを「自分で決めている」と感じることがあります。
努力して勉強し、仕事を選び、転職するかどうかを考えるのは、確かに個人の意思によるものです。
しかし、少し振り返ってみると、そこには常に誰かの影響が存在していることに気づきます。
親の期待、パートナーの意向、友人の助言、上司の評価、あるいは社会が考える「成功」のイメージ。
こうした人間関係は、私たちのキャリアを後押しすることもあれば、逆に制約として働くこともあります。
今回紹介する研究は、キャリアというものが実は「人間関係の中で作られている」という視点から、その影響を詳しく調べたものです。
この研究は、カナダの Lakehead University(レイクヘッド大学)、Niagara University(ナイアガラ大学)、Liverpool John Moores University(リバプール・ジョン・ムーアズ大学)、University of Regina(レジャイナ大学) の研究者たちによって行われました。
研究者たちは、「キャリア・エンパワメント」という考え方に注目しました。
これは、自分のキャリアをどれだけコントロールできていると感じているか、という感覚を指します。
そして重要な問いを立てました。
人間関係は、このキャリアの力を強めるのか、それとも弱めるのか。
キャリアは「一人の物語」ではない
近年のキャリア研究では、「自分のキャリアは自分で切り開くもの」という考え方が強調されてきました。
しかし実際の生活では、人は孤立して働いているわけではありません。
職場には上司や同僚がいます。
家庭にはパートナーや子どもがいます。
さらに、親や友人、社会全体の価値観も存在します。
研究者たちは、こうした関係の集まりを「関係の星座(コンステレーション)」と呼びます。
つまり、キャリアは単独の意思決定ではなく、
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家族
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職場
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友人
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社会
といった多くの関係が重なり合う中で形成されるものだと考えられています。
しかし、これまでの研究では、こうした関係は主に「支援」として語られることが多く、制約として働く側面はあまり研究されてきませんでした。
今回の研究は、そこに注目しました。
31人のキャリアの語りを分析
研究では、21歳から71歳までの31人に対してインタビューが行われました。
参加者はさまざまな職業に就いており、警察官、医師、銀行員、起業家、ITマネージャー、学生など、多様な背景を持っていました。
インタビューでは、次のような質問が行われました。
-
あなたのキャリアを支えている人は誰ですか
-
逆に、キャリアを難しくしている要因は何ですか
研究者たちは、その回答をテーマごとに分析し、人間関係がどのようにキャリアに影響しているのかを整理しました。
そして浮かび上がったのは、人間関係の驚くほど複雑な役割でした。
親はキャリアの「最初の力」
多くの参加者にとって、キャリアに最初に影響を与えたのは親でした。
たとえば、ある参加者は、医師を目指したときに両親が大きく支えてくれたと語っています。
家族が誇りに思い、励ましてくれることは、
「自分にはできる」という自信につながりました。
また、親の経済的支援があったために、転職や進路変更といったリスクを取ることができたという人もいました。
しかし、親の影響は常に肯定的とは限りません。
親が
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安定した仕事を望む
-
社会的に評価される職業を期待する
といった価値観を持っている場合、それが子どもの選択肢を狭めることもあります。
ある参加者は、自分の本当の興味とは違うキャリアを続けた理由についてこう語りました。
父親への愛情があったために、その期待に応え続けてしまった。
つまり、親は
励ましによってキャリアを広げることもあれば、期待によってキャリアを縛ることもある
存在なのです。
パートナーはキャリアの共同決定者
パートナーの影響も非常に大きいものでした。
結婚や恋愛関係では、キャリアはしばしば共同の決定になります。
たとえば、
-
転勤するか
-
海外で働くか
-
起業するか
といった重要な選択は、二人の人生に影響します。
ある参加者は、妻が起業に反対したため、安定した仕事に戻る決断をしました。
別の参加者は、パートナーの仕事の事情に合わせて、キャリアの方向を変えています。
一方で、パートナーが支えになることもありました。
ある人はこう語っています。
互いに支え合うことで、リスクを取る勇気を持つことができた。
つまり、パートナーは
キャリアを可能にする存在にも、制限する存在にもなり得る
のです。
子どもはキャリアの優先順位を変える
子どもの存在も、キャリアの選択を大きく変えます。
研究では、多くの参加者が、キャリアの決断をするときに
「子どもにとって何が最善か」
を考えていることが明らかになりました。
たとえば、
-
家族と過ごす時間を優先して昇進を断る
-
子どもの教育環境のために仕事を選ぶ
といった決断です。
一見すると、これはキャリアの制限のように見えます。
しかし研究者たちは別の視点を提示しています。
それは、
家族を優先する選択もまた主体的な決断である
ということです。
キャリアの主体性とは、必ずしも昇進や成功だけを意味するわけではありません。
価値観に沿って人生を選ぶことも、主体的なキャリアの形なのです。
上司はキャリアの「ゲートキーパー」
職場では、上司の影響が特に大きいことが明らかになりました。
上司は
-
評価
-
昇進
-
機会
を左右する立場にあるためです。
良い上司は、部下に責任ある仕事を任せたり、能力を認めたりすることで、自信を高めます。
しかし逆に、批判的で支援のない上司は、キャリアの自信を大きく損ないます。
また、差別的な態度を取る上司との出会いが、キャリアの道を完全に変えてしまった例もありました。
つまり上司は、
キャリアの扉を開く存在にも、閉ざす存在にもなる
のです。
社会の「成功の物語」
研究では、社会そのものもキャリアに影響していることが示されました。
社会には、
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安定した仕事が良い
-
有名な職業が成功
-
特定の年齢で成功すべき
といった暗黙の価値観があります。
こうした価値観は、人がキャリアを考えるときの前提になります。
その結果、人は
本当の興味ではなく、社会的に認められる道を選ぶ
ことがあります。
キャリアとは「関係の中の選択」
この研究が示した最も重要なことは、
キャリアは個人だけで作られるものではない
という点です。
人は
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家族
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職場
-
友人
-
社会
といった関係の中で生きています。
そしてその関係は、
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支え
-
制約
-
励まし
-
期待
といった形でキャリアに影響します。
さらに興味深いのは、同じ関係でも、状況によって
支えにも、束縛にもなる
ことです。
つまりキャリアとは、
人との関係の中で、絶えず形を変えながら作られていくもの
なのです。
(出典:Behavioral Sciences)

