心がつらい人ほど、不思議なものを信じるのか?

この記事の読みどころ
  • ネットワーク分析で、パラノーマル信念・陰謀論・自己肯定感・意味づくり・対処行動などの関係がまとめて見られた。
  • パラノーマル信念は「意味を探している状態」や回避的な対処と、知覚の特徴をつなぐ橋の役割を果たすことがある。
  • 自己肯定感は心の健康と強く結びつき、意味感・対処行動・満足度のハブのような役割を果たす。一方陰謀論は意味探しとは結びつきにくく、満足度には少し負の関係がある。

なぜ「不思議な信念」は、心の健康と結びつくことがあるのか

パラノーマル信念・陰謀論・自己肯定感のあいだにある、意外な構造

私たちはときどき、科学的には説明が難しいことを信じます。
幽霊、超能力、前世、あるいは世界を裏で操る巨大な力の存在。
こうした信念は、しばしば「非合理」「危険」「心の弱さの表れ」と見なされてきました。

しかし、本当にそうなのでしょうか。
もしそれらの信念が、人の心の中で、もっと複雑で微妙な役割を果たしているとしたら。

イギリスとスペインの研究機関による最新の研究は、「パラノーマルな信念」「陰謀論への賛同」「心の健康」が、単純な善悪では語れない関係にあることを示しています。

この研究が注目したのは、「何を信じているか」よりも、「それらが心の中でどうつながっているか」でした。


この研究が問い直したこと

従来の研究では、パラノーマル信念はしばしば精神的な問題と結びつけて語られてきました。
一方で、「信じること」が生きがいや希望、安心感につながる可能性を示す研究も存在します。

問題は、どちらが正しいかではありません。
同じ信念でも、人によって意味や影響が異なるという点です。

この研究は、次のような問いを立てました。

  • パラノーマル信念は、心の健康にとって本当に有害なのか

  • 陰謀論への賛同とは、同じものとして扱ってよいのか

  • 自己肯定感や人生の意味感、対処行動と、どう結びついているのか

これらを明らかにするため、研究者たちは「ネットワーク分析」という手法を用いました。


ネットワーク分析という視点

ネットワーク分析では、心理的な要素を「点(ノード)」として扱い、それらの関係性を「線(エッジ)」で結びます。

この研究で扱われた主な要素は次の通りです。

  • パラノーマル信念

  • 陰謀論への賛同

  • シゾタイプ特性(現実認知や知覚の独特さ)

  • 自己肯定感

  • 人生の意味(「意味を感じている状態」と「意味を探している状態」)

  • ストレスへの対処行動(積極的/回避的)

  • 人生満足度

重要なのは、どれか一つが原因で結果が生じると考えない点です。
全体がひとつの構造として、互いに影響し合っていると捉えます。


中心にあった二つの要素

分析の結果、特に重要な「中心」として浮かび上がったのは、次の二つでした。

  • パラノーマル信念

  • 自己肯定感

この二つは、直接強く結びついているわけではありません。
しかし、他の多くの要素を介して、ネットワーク全体に影響を与えていました。


パラノーマル信念は「橋」の役割をしていた

パラノーマル信念は、次のような要素と強く結びついていました。

  • 陰謀論への賛同

  • 知覚や思考の独特さ(シゾタイプ特性の一部)

  • 人生の意味を「探している」状態

  • 回避的な対処行動

これらの関係から、研究者たちは次のように解釈しています。

パラノーマル信念は、
「意味を探している状態」や「回避的な対処」と、知覚的な特性をつなぐ橋のような役割を果たしている

重要なのは、ここで「良い」「悪い」と断定されていない点です。
それは、心の状態によって、異なる方向に作用しうる中継点なのです。


自己肯定感がつないでいたもの

一方、自己肯定感は、より明確に「心の健康」と結びついていました。

自己肯定感が高いほど、

  • 人生に意味を感じている

  • 積極的な対処行動をとりやすい

  • 人生満足度が高い

という関係が示されました。

逆に、自己肯定感が低い場合、

  • 回避的な対処行動が増える

  • 人生の意味を探し続ける状態にとどまりやすい

という傾向が見られました。

自己肯定感は、
対処行動・意味感・満足度を結びつける「ハブ」のような存在だったのです。


「信念そのもの」ではなく、「結びつき方」が重要だった

この研究の重要な示唆は、ここにあります。

パラノーマル信念そのものが、
心の健康を良くも悪くもするわけではありません。

  • 自己肯定感が高く

  • 積極的に対処でき

  • 人生に意味を感じている状態

と結びついている場合、
パラノーマル信念は、心理的な安定や肯定的な側面と共存していました。

一方で、

  • 自己肯定感が低く

  • 回避的な対処に偏り

  • 意味を探し続けて満たされない状態

と結びつくと、
パラノーマル信念は、心理的なつらさと関係していました。

同じ「信じる」という行為が、
まったく異なる意味をもつ可能性が示されたのです。


陰謀論との違い

研究では、パラノーマル信念と陰謀論への賛同の違いも明確に示されました。

両者は関連していますが、完全に同じものではありません。

特に重要だったのは、

  • 陰謀論は「人生の意味を感じている状態」と結びつかなかった

  • 陰謀論は、人生満足度とわずかに負の関係を示した

という点です。

つまり、

  • パラノーマル信念は、条件次第で肯定的な意味を持ちうる

  • 陰謀論は、そうした肯定的な側面と結びつきにくい

という構造的な違いが示されました。


この研究が示した静かな結論

この研究は、「信じること」を単純に評価しません。

代わりに、次のような視点を提示しています。

人の心の健康を左右するのは、
何を信じているかではなく、それが自己肯定感や対処行動、人生の意味とどう結びついているか

パラノーマル信念は、
支えにもなり、重荷にもなりうる。

その分かれ道にあるのが、
自己肯定感という、非常に現実的で日常的な心理要素でした。


余白として残された問い

この研究は横断的調査であり、因果関係を断定するものではありません。
また、扱った心理要素も限定されています。

それでも、ひとつの重要な問いを残します。

「信じること」を問題にする前に、
その人が自分自身をどう感じ、どう生きようとしているのかを、
私たちはどれだけ見ているだろうか。

信念は、心の奥にある構造を映す、一つの窓なのかもしれません。

(出典:Frontiers in Psychology DOI: 10.3389/fpsyg.2025.1448067

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