- 22カ国・約20万人を対象に、子ども時代の経験と大人になってからの死後信念の関係を同時に分析した。
- 最も一貫して強かったのは12歳頃の宗教的集会への参加程度で、思春期の体験が長期的信念と結びつく可能性が示された。
- 虐待や自分をよそ者と感じた経験など否定的な体験も関係することがあるが、因果関係は断定せず、意味づけの観点で解釈されている。
「死後も何かが続く」と思う気持ちは、いつ生まれるのか
人はいつから、「死後も何かが続く」と考えるようになるのでしょうか。
それは人生の後半になってから芽生える考え方なのか、それとも、もっと早い段階で、静かに形づくられているものなのでしょうか。
死後の世界への信念は、世界中の文化や宗教に広く見られる、とても古い考え方です。
一方で、その信念がどのような経験によって育まれるのかについては、これまで十分に検証されてきませんでした。
今回紹介する研究は、「子ども時代の経験」が、大人になってからの死後信念とどのようにつながっているのかを、国際的な大規模データで検討したものです。
22カ国・20万人規模で行われた前例のない分析
この研究は、ハーバード大学のヒューマン・フローリッシング・プログラムを中心とする国際研究チームによって行われました。
用いられたのは、グローバル・フローリッシング・スタディと呼ばれる調査の第1波データです。
対象となったのは、アルゼンチン、日本、スウェーデン、インド、ナイジェリア、アメリカなど、宗教や文化背景の大きく異なる22カ国、約20万2千人の成人でした。
研究者たちは、参加者に対して
「私は死後の世界があると信じている」
という質問への回答を、大人になってからの死後信念の指標としました。
そして、その信念と結びつく可能性のある13の子ども時代の要因を同時に分析しています。
注目された「子ども時代の13の要因」
分析の対象となったのは、次のような子ども時代の経験や環境です。
・12歳頃の宗教的集会への参加頻度
・母親・父親との関係
・親の婚姻状況
・家庭の経済状況
・虐待経験の有無
・家庭内で「よそ者のように感じていたか」
・子ども時代の健康状態
・性別
・生年(年齢層) など
重要なのは、これらの要因を一つずつではなく、すべて同時に統計モデルへ入れている点です。
そのため、「ほかの要因を考慮したうえで、それでも関係が残るのか」が検討されています。
最も一貫して強かった要因は「宗教的集会への参加」
22カ国すべての結果を統合した分析で、最もはっきりした関連を示したのは、
12歳頃にどれくらい宗教的な集会に参加していたかという要因でした。
・まったく参加していなかった人
・月に1回未満の人
・月に1〜3回の人
・週に1回以上の人
この順に、大人になってから死後の世界を信じている割合が高くなる傾向が、複数の国で共通して見られました。
これは、大人になってからの宗教活動ではなく、思春期前後の体験が、長期的な信念と結びついている可能性を示しています。
「つらい経験」が信念と結びつく場合もあった
一見すると意外に思える結果もありました。
子ども時代に
・虐待を経験した
・家庭の中で「自分はよそ者だ」と感じていた
こうした否定的な体験を報告した人ほど、
大人になってから死後の世界を信じている可能性が、わずかに高いという結果が示されたのです。
ただし、その効果は大きなものではなく、国によって方向が異なる場合もありました。
それでも、研究者たちは、ここに「意味づけ」という視点を重ねて考察しています。
苦しい経験が「意味」を求めさせること
研究者たちは、虐待や疎外感といった体験が、
「なぜ自分はこんな経験をしたのか」
「この苦しさに意味はあるのか」
という問いを生みやすい可能性を指摘しています。
このような問いに対して、
「この世界だけですべてが終わるわけではない」
「死後に正義や回復があるかもしれない」
という考え方が、一つの支えとして受け入れられる場合がある、という解釈です。
この研究は、死後信念を「良い」「悪い」と評価するものではありません。
ただ、どのような人生経験が、その信念と結びつきやすいのかを、静かに示しています。
親との関係、とくに母親との関係
親子関係については、母親との関係が「良好だった」と答えた人のほうが、
死後の世界を信じる割合が、わずかに高い傾向が見られました。
一方で、父親との関係では、全体として明確な関連は確認されませんでした。
この結果について研究者たちは、
「信念の伝達は、単なる言葉よりも、日常の関わりや態度を通して行われる可能性がある」
と述べています。
年齢と性別による違いも見られた
性別については、女性のほうが男性よりも死後の世界を信じている割合が高いという結果が、多くの国で見られました。
また年齢については、単純に「年をとるほど強くなる」という直線的な関係ではなく、
中年期あたりで高まり、高齢期でやや弱まるような形が示唆されています。
ただし、これも国によって傾向は異なり、日本やスウェーデンでは、高齢層のほうが信念が弱いという結果も見られました。
この研究が示していること、示していないこと
この研究は、「死後の世界が本当にあるかどうか」を論じるものではありません。
また、「この経験をすれば信じるようになる」といった因果関係を断定するものでもありません。
示されているのは、
人がどのような人生の出発点をもち、どのような環境を通ってきたかが、
世界観の一部と静かにつながっている可能性です。
死後信念は、突然生まれる考えではなく、
幼少期から思春期にかけての体験の積み重ねの中で、
少しずつ形づくられていくものなのかもしれません。
結論を閉じないという選択
この研究は、
「人はこういう経験をすると、こう信じるようになる」
という単純な答えを提示していません。
むしろ、
「人が何を信じるかは、その人がどんな子ども時代を生きてきたかと、
切り離せない形で結びついている」
という、静かな事実を示しています。
死後の世界を信じるかどうか。
その背後には、宗教だけでなく、家庭、傷つき、安心、問い、そして意味を求める心が、
折り重なっているのかもしれません。
答えは一つではありません。
ただ、「信じる理由」が、確かにそこにあることだけは、データとして示されました。
(出典:scientific reports DOI: 10.1038/s41598-025-91615-7)

