太っている人への見方は、どこで決まるのか

この記事の読みどころ
  • 見慣れた体のサイズが普通の基準を作り、少し太いだけで「太っている」と感じる境界線が変わることがある。
  • 肥満率が高い地域では自覚的な反ファット態度は低めで、無意識の反ファット態度は必ずしも同じ方向には動かない。
  • 2週間痩せた画像や太った画像を見せると判断の境界が動き、メディアの体型の幅を広げると偏見が和らぐ可能性がある。

見えている体のサイズは、私たちの「当たり前」をどう変えているのか

カナダのトロント大学心理学部、マギル大学心理学部、そしてアメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の心理学部・コミュニケーション学部の研究チームは、「人が日常的に目にしている体のサイズ」が、体型に対する感じ方や評価にどのような影響を与えているのかを調べました。

この研究が注目したのは、太っている人に向けられやすい否定的な態度、いわゆる反ファット態度です。

反ファット態度は、単なる好みや価値観の違いではなく、医療、雇用、教育、家族関係など、さまざまな場面で不利益を生み出すことが知られています。研究者たちは、この態度がどのように形づくられ、どうすれば和らげられるのかを理解するため、「視覚的な経験」に着目しました。


私たちは「見慣れたもの」を普通だと感じる

人は、周囲の世界を理解するために、心の中にさまざまな「イメージの型」をつくっています。
たとえば「教師らしい顔」「高齢者らしい見た目」「子どもらしい体格」など、無意識のうちに共有されているイメージです。

体型についても同じことが起こります。

日常的に目にする体のサイズが偏っていると、
「これくらいが普通」
「ここから先は太っている」
という境界線が、知らないうちに決まっていきます。

研究者たちは、この境界線をカテゴリー化のしきい値と呼んでいます。

しきい値が低い人ほど、少し体が大きいだけで「太っている」と判断しやすくなります。
逆に、しきい値が高い人は、より大きな体になってから初めて「太っている」と感じます。


地域によって、反ファット態度は違っていた

研究の1つ目では、アメリカ全土の郡(カウンティ)ごとに、

・その地域の成人肥満率
・住民の反ファット態度(質問紙による自己申告)
・無意識の反ファット態度(反応時間を用いた心理テスト)

を関連づけて分析しました。

その結果、

肥満率が高い地域ほど、表面的(自覚的)な反ファット態度は弱い

ことがわかりました。

つまり、日常的に体の大きな人を多く目にする環境では、
「太っている人に対して否定的である」と自分で認識している人が少ない傾向があったのです。

一方で、無意識レベルの反ファット態度については、必ずしも同じ方向の結果にはなりませんでした。
この点は、態度には「意識できる部分」と「気づきにくい部分」があることを示しています。


メディアに出る体型が変わると、態度も変わるのか

研究の2つ目では、フランスで行われた極端に痩せたファッションモデルを禁止する法律に注目しました。

この法律の施行後、広告やファッション業界では、以前よりも体の大きなモデルが使われるようになりました。

研究者たちは、法律の前後でフランス在住者の反ファット態度がどう変化したかを調べました。

結果は明確でした。

法律施行後、表面的な反ファット態度は時間とともに低下していました。

つまり、メディアに登場する体型の幅が広がることで、
太っている人に対する否定的な評価が、少しずつ弱まっていたのです。


2週間「見るだけ」で、判断の境界が動く

研究の3つ目では、実験参加者に2週間にわたって、

・痩せた体の画像
または
・太った体の画像

を毎日3分間ずつ見てもらいました。

その前後で、「どのあたりから太っていると判断するか」を測定しました。

すると、

・痩せた体ばかり見た人は、より小さな体でも「太っている」と判断しやすくなる
・太った体ばかり見た人は、「太っている」と判断する基準が高くなる

ことが示されました。

これは、見る経験そのものが、判断の基準をずらすことを意味します。

ただし、2週間という短期間では、態度そのもの(好き・嫌いの評価)が大きく変わるところまでは確認されませんでした。


この研究が示していること

この研究全体から見えてくるのは、次のような考え方です。

反ファット態度は、
「性格が悪いから」
「意識が低いから」
生まれるものではありません。

どんな体を、どれくらい目にしているか
という、日常の視覚環境が、少しずつ私たちの「当たり前」をつくっている可能性があります。

体の多様性が自然に目に入る社会では、
「どこからが太っているか」という線引きそのものが変わり、
結果として否定的な評価が生じにくくなるかもしれません。


偏見を減らすための、静かなアプローチ

研究者たちは、視覚的な露出だけですべての偏見が消えるとは考えていません。

しかし、

・多様な体型が当たり前に見える環境をつくること
・メディアで特定の体型だけを理想化しないこと

は、長い時間をかけて態度を変えていく一つの土台になる可能性があると述べています。

誰かを説得するよりも前に、
誰かを責めるよりも前に、
**「何を目にする社会か」**を見直すこと。

この研究は、その重要性を静かに示しています。

(出典:communications psychology DOI: 10.1038/s44271-025-00369-5

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