人生が速いと感じるとき、心の中で起きていること

この記事の読みどころ
  • 人生の速さは時計の問題ではなく、過去をどう解釈するかで決まる「ライフ・テンポ・ジャッジメント」という考え方がある。
  • 充実していた時期ほど「一瞬だった」と感じやすく、希少性や今の自分につながる感覚が速さを生み出す理由として挙げられる。
  • 速さは必ずしも悪いことではなく、なぜ速かったのかを理解することが大切だという結論の方向性が示されている。

なぜ、充実していた時期ほど「一瞬だった」と感じるのか

――人生の速さを決める心の仕組み

私たちは、ときどきこんな言葉を口にします。

「もう一年経ったの?」
「子どもが生まれたの、つい最近の気がする」
「大学生活、あっという間だった」

時計を見れば、確かに一年は一年です。
それなのに、ある時期は「長かった」と感じ、別の時期は「一瞬で過ぎた」と感じる。

この人生の体感スピードはいったい何によって決まっているのでしょうか。

カンザス大学の心理学研究チームは、この疑問を「ライフ・テンポ・ジャッジメント(life-tempo judgments)」という概念から整理しました。
これは、過去のある期間を思い返したときに、「速かった」「遅かった」と評価する判断のことです。

本記事では、この論文が示す主要な考え方を、日本語でわかりやすく紹介します。


「人生が速い」と感じるのは、時計の問題ではない

まず重要な前提があります。

人は、過去の時間を実際の秒数や日数で測っているわけではありません

「速かった」という感覚は、

・どれくらい濃かったか
・どんな意味があったか
・どう評価しているか

といった主観的な基準と比較して生まれます。

つまり、

人生の速さとは、知覚ではなく「解釈」

なのです。


研究者たちが整理した2つの大きな考え方

論文では、人生の速さを説明する理論を大きく2種類に分類しています。

  1. 認知的(コールド)な仕組み

  2. 感情・動機づけ(ホット)な仕組み

順に見ていきます。


1.認知的な説明(コールド・メカニズム)

年齢比率説

年を取るほど、1年が人生全体に占める割合が小さくなるため、短く感じるという考え方です。

10歳の子にとっての1年=人生の10分の1
70歳の人にとっての1年=人生の70分の1

直感的にはわかりやすいですが、
「先月が一瞬だった」などの短期間の説明はできません。


内部時計の変化

加齢とともに、

・生理的なリズム
・脳の処理速度

が変化し、内側の時計が遅くなるという説です。

その結果、外の時間が速く感じられる可能性があります。

ただし、これも主に「長い年月」の説明向きです。


注意没入(フロー)説

何かに夢中になっていると、時間を意識しなくなります。

ゲーム
読書
創作
運動

こうした没頭状態では、

時間を監視する心のリソースが減る

ため、あとから振り返ると「速かった」と感じます。

ただし、5年・10年レベルの人生全体を説明するには不十分とされています。


ルーティン圧縮説

ウィリアム・ジェームズが示した古典的考えです。

・新しい体験が多い → 記憶が細かく残る → 長く感じる
・毎日同じ → 記憶がまとめられる → 短く感じる

つまり、

記憶の「イベント数」が少ないと、期間が圧縮される

という考え方です。

ところが近年の研究では、

・ルーティンが多いほど速く感じるとは限らない
・むしろ「イベントが多いほど速い」と出る場合もある

など、結果は一貫していません。

単純な「出来事の数」だけでは説明できないことがわかってきました。


2.感情・動機づけによる説明(ホット・メカニズム)

ここからが、この論文の最も重要なポイントです。


「充実していた時期ほど、速く感じる」という逆説

研究では繰り返し、次の傾向が示されました。

成長を感じた時期
満足度の高かった時期
意味があったと感じる時期

ほど、

「あっという間だった」

と評価されやすいのです。

直感とは逆かもしれません。


なぜ、満たされていたのに「短い」と感じるのか

研究者たちは、ここに2つの可能性を提示します。


① 希少性としての価値

大切なものほど、

・戻らない
・代わりがきかない

と感じます。

楽しかった学生時代
子どもが小さかった頃
深く打ち込めた時期

これらは、

失ったからこそ、価値が強調される

その結果、

「もう終わってしまった」
「一瞬だった」

という表現になります。

これは、時間の速さというより、喪失の表現だと考えられます。


② 自分らしさへの近さ

人は、過去の中でも

「今の自分につながっている」
「誇れる」
「自分らしい」

と感じる時期を、心理的に近く感じます。

近く感じると、間にある時間は圧縮されます。

すると、

つい最近のようだ → だから短く感じる

という構造が生まれます。


ここから見えてくる重要な転換

従来の考え方
「人生が速い=悪いこと」

この論文が示す可能性
「人生が速い=意味があった可能性」

つまり、

速さは、失敗のサインとは限らない

のです。


「ゆっくり生きればいい」という単純な話ではない

よく言われます。

・もっと新しいことをしよう
・ルーティンを壊そう
・マインドフルに生きよう

しかし研究結果は、これらが必ずしも

「時間を遅く感じさせる」

とは示していません。

むしろ、

・夢中になった
・成長した
・大切だった

時期ほど、速く感じる傾向があります。


大切なのは問いの向き

この論文は、こう締めくくります。

人生を遅くする方法を探すより、
なぜ速く感じるのかを理解することが重要

そして、問いはこう変わります。

「なぜ速かったのか?」

「その速さは、何を意味しているのか?」


速かった人生は、空っぽだったのか

それとも、満ちていたのか

同じ「あっという間」でも、

・虚無の速さ
・充実の速さ

は、まったく別物です。

この研究は、

人生の速さは、評価である

という視点を与えてくれます。

あなたが振り返って「一瞬だった」と感じる時期は、
もしかすると、あなたにとって大切な何かが確かに存在していた証拠なのかもしれません。

(出典:Frontiers in Psychology DOI: 10.3389/fpsyg.2025.1747171

テキストのコピーはできません。