- 数の見え方は順応で変わり、少ない数へ順応すると多く見え、多い数へ順応すると少なく見える。
- 自信と反応時間も順応によって変化し、判断前の見え方が動いたことを示している。
- この研究は、数は単なる判断ではなく、視覚の初期段階で感じられる可能性を支持している。
数の見え方は、本当に「感じ方」なのか
私たちは、点がいくつ並んでいるかを見たとき、意識せずとも「だいたいこのくらい」という数の感覚を得ています。
この感覚は、数を一つずつ数える以前に働く、視覚的な印象に近いものです。
これまでの研究では、人はたくさんの点を見続けたあと、同じ数の点を見ても「少なく」感じることが知られてきました。
いわゆる「数の順応」と呼ばれる現象です。
しかし近年、この数の順応は本当に知覚そのものの変化なのか、それとも判断や反応のクセによるものではないのか、という疑問が投げかけられてきました。
とくに議論の的になってきたのが、「少ない点に順応すると、その後の点が多く見える」という逆方向の順応です。
今回紹介する研究は、この逆方向の数の順応が本当に存在するのか、そしてそれが知覚レベルで起きているのかを、きわめて丁寧な方法で検証したものです。
研究は、イタリア・フィレンツェ大学の研究グループを中心に行われました。
「判断のクセ」では説明できないのか
数の順応を疑う立場の研究者は、次のように考えます。
たくさんの点を見たあとで「少なく見える」のは、同じ位置にある点が「見慣れた情報」として無意識に無視されるからではないか。
つまり、数そのものの知覚が変わったのではなく、反応の段階でのバイアスではないか、という考えです。
この説明が正しいとすれば、「少ない点に順応したあとで、多く見える」という逆方向の効果は起きないはずです。
なぜなら、見慣れた情報を無視するだけでは、「増えた」という感覚は説明できないからです。
そこで研究者たちは、単に「どちらが多いと答えたか」だけではなく、その判断がどれくらい難しかったのかを、別の指標で測ることにしました。
数の比較と同時に「自信」と「反応時間」を測る
この研究では、30人の参加者が実験に参加しました。
参加者は、上下に並んだ二つの点の集まりを見て、「どちらが多く見えるか」を答えます。
上側の点の数は常に12個で固定され、下側の点の数だけが少しずつ変化します。
実験は三つの条件で行われました。
一つ目は順応なしの基準条件。
二つ目は、6個の点を見続けたあとで比較を行う「少ない数への順応」。
三つ目は、24個の点を見続けたあとで比較を行う「多い数への順応」です。
重要なのは、参加者が「どちらが多いか」を答えたあと、
「その判断に自信があるかどうか」も必ず答えた点です。
さらに、どれくらいの時間で判断したか、反応時間も正確に記録されました。
見え方が変わると、迷う場所も変わる
結果は、非常にはっきりしていました。
まず、数の見え方そのものが変化しました。
多い数に順応すると、同じ12個の点が「少なく」見えるようになり、
少ない数に順応すると、同じ12個の点が「多く」見えるようになったのです。
これは、逆方向の数の順応が確かに存在することを示しています。
さらに重要なのは、自信と反応時間の変化です。
人は、二つの点の数が「ちょうど同じに見える」ときに、最も迷い、自信が下がり、反応時間が長くなります。
もし数の順応が単なる判断のクセであれば、
自信が最も下がる場所や、反応が最も遅くなる場所は、物理的に12個の点のまま変わらないはずです。
しかし実際には、自信が最も下がる点、反応時間が最も長くなる点は、
順応によってずれた「主観的に同じに見える数」に合わせて移動していました。
これは、迷いの中心そのものが動いたことを意味します。
つまり、判断以前の「見え方」そのものが変化していたのです。
「少ない数への順応」は弱いが、確かに存在する
ただし、逆方向の順応は、多い数への順応よりも効果が小さいことも確認されました。
統計的には明確であっても、一回のデモで誰もがすぐに気づくほど強い効果ではありません。
この点は、過去の研究とも一致しています。
逆方向の順応は「見えにくい」ために疑われてきましたが、
見えにくいからといって存在しないわけではないことが、今回の結果から示されました。
とくに、反応時間という、意図的に操作することがほぼ不可能な指標が、
順応によって一貫して変化していた点は重要です。
数は「考えるもの」ではなく「感じるもの」なのか
この研究は、数の感覚が単なる認知的判断ではなく、
視覚の初期段階に近いところで表現されている可能性を強く支持します。
光の明るさが、環境に応じて順応するように、
数の感覚もまた、周囲の数的環境に応じて調整されているのかもしれません。
少ない世界にいれば、少しの増加が大きく感じられ、
多い世界にいれば、同じ数が物足りなく感じられる。
数は、私たちが「数える前」に、すでに「感じているもの」なのかもしれません。
この研究は、その感覚が、思い込みや判断のクセではなく、
知覚の深いところで書き換えられていることを示しています。
(出典:scientific reports DOI: 10.1038/s41598-026-35068-6)

