- 心が揺らぐと独り言が増えることがあり、それは自分を取り戻す手がかりかもしれないと示されています。
- 自分という感覚が弱い人ほど独り言が多く、今この瞬間に注意を向ける力がある人は少ない傾向がありました。
- 解離や自己コントロールが弱い人ほど独り言を多く感じ、反社会的傾向のある人では思考の内容に特徴があることがわかりました。
頭の中で自分に話しかけるとき
私たちは、考え事をしているときや迷っているとき、頭の中で自分に語りかけています。
「大丈夫」「落ち着いて」「次はどうする?」
こうした内的な独り言は、単なる癖や性格の問題なのでしょうか。それとも、もっと根本的な心の動きと関係しているのでしょうか。
今回紹介する研究は、セルフトークと呼ばれるこの内的な独り言が、「心の混乱」や「認知の不安定さ」とどのように結びついているのかを、複数の角度から検討したものです。研究は、アメリカの大学を拠点とする心理学研究チームによって行われ、大学生を対象にした3つの調査が報告されています。
独り言が増える理由としての「認知的ゆらぎ」
セルフトークが多くなる理由について、これまでにはいくつかの説明が提案されてきました。
そのひとつが、「社会的に孤立しやすい人ほど、頭の中で自分と会話するようになる」という考え方です。
しかし、この研究が注目したのは、もうひとつの可能性でした。
それは、驚きや混乱、圧倒される感じ、自分についての不確かさといった、心の足場が揺らぐ体験が増えるとき、セルフトークも増えるのではないか、という考え方です。研究者たちはこれを「認知的ゆらぎ」と呼んでいます。
ここで重要なのは、この研究が「独り言=問題行動」とは考えていない点です。
むしろ、独り言は、心が揺らいだときに自分を立て直そうとする、調整の試みとして捉えられています。
研究はどのように行われたのか
論文では、大学生を対象にした3つの研究が報告されています。
いずれも質問紙調査を用い、セルフトークの頻度や内容と、さまざまな心理的特性との関係を調べています。
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研究1では、「自分という感覚の弱さ」と「注意や気づきの安定さ」が、セルフトークとどう関係するかが調べられました。
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研究2では、セルフトークが多い人と少ない人を比べ、解離的な体験や自己コントロールとの関連が検討されました。
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研究3では、反社会的傾向やサイコパシー傾向をもつ人たちのセルフトークの特徴、とくに思考の中身に焦点が当てられました。
研究全体を通しての問いは一貫しています。
心が不安定になりやすい条件では、セルフトークは本当に増えるのか。逆に、心を安定させる要因があると、セルフトークは減るのか。
研究1 「自己が弱い」と独り言が増える
最初の研究では、「弱い自己感」と呼ばれる特性が注目されました。
これは単なる自信のなさではありません。
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自分の考えや気持ちがつかみにくい
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感情が急に変わる
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自分と他人の境界が曖昧に感じられる
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自分の存在が頼りなく感じられる
こうした、「自分という足場の不安定さ」に近い感覚です。
調査の結果、弱い自己感が強い人ほど、セルフトークの頻度が高いことが示されました。
一方で、今この瞬間に注意を向け、落ち着いて気づきを保つ力が高い人ほど、セルフトークは少ない傾向にありました。
この結果は、独り言が「余計なノイズ」だから増えるのではなく、心が揺れているときに、自分をつなぎとめるために使われている可能性を示しています。
研究2 解離と自己コントロールの視点
2つ目の研究では、セルフトークが多い人と少ない人を比べる形で分析が行われました。
ここで注目されたのは、「解離的な体験」と「自己コントロール」です。
解離的な体験とは、
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自分が自分でないように感じる
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現実感が薄れる
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記憶や感覚が途切れる感じがする
といった、意識のつながりが弱くなる体験を指します。
分析の結果、セルフトークが多い人ほど、こうした解離的な体験を報告する傾向がありました。
また、自己コントロールの感覚が弱い人ほど、セルフトークが多いことも示されました。
ここでも、セルフトークは混乱の「原因」ではなく、混乱が生じたあとに現れる反応として位置づけられています。
研究3 人格傾向と独り言の「中身」
3つ目の研究では、反社会的傾向やサイコパシー傾向をもつ人たちのセルフトークが調べられました。
この研究の特徴は、単に独り言の「多さ」ではなく、「どんな内容を考えているか」に注目した点です。
結果として、これらの傾向が強い人たちは、セルフトークの頻度自体は必ずしも高くありませんでした。
しかし、思考の内容には、自己正当化や他者への敵意など、特定のパターンが多く含まれていました。
この結果は、セルフトークが一様な現象ではなく、その人の心理的特徴によって、役割や質が変わることを示しています。
独り言は「問題」なのか
この研究が伝えている重要な点は、セルフトークを単純に良い・悪いで判断していないことです。
独り言は、心が安定しているときには必要ありません。
しかし、注意が散り、自分がわからなくなり、感情が揺れ動くときには、自分を保つための仮の支えとして現れます。
独り言が多いことは、混乱しているサインかもしれません。
同時に、それは「混乱を何とかしようとしているサイン」でもあります。
心が静まると、独り言は減る
研究全体を通して一貫していたのは、心の安定とセルフトークの関係です。
注意が今ここに向き、自己感覚が安定しているとき、セルフトークは自然と少なくなります。
つまり、独り言を無理に止める必要はありません。
独り言が増えているとき、それは「もっと落ち着きたい」「自分を取り戻したい」という、心からの合図なのかもしれません。
この研究は、頭の中の声を黙らせることよりも、なぜ声が必要になっているのかに耳を澄ますことの大切さを、静かに示しています。
(出典:Frontiers in Psychology DOI: 10.3389/fpsyg.2026.1716835)

