- 隠しアイテムは別作品のキャラや道具が現れるなど、物語世界に現れ楽しさを増す体験である。
- 約1000人の調査で、過去1年に隠しアイテムに気づいた人は約41%で、身近な現象だと分かった。
- 見つけた感覚自体が楽しいとされ、内的報酬が満足感を大きく促すと結論づけられた。
隠しアイテムに気づいたとき、私たちの心の中では何が起きているのか
映画やドラマを見ているとき、背景にちらっと映った小物や、どこか見覚えのあるキャラクターの姿に気づくことがあります。
それは物語の流れとは直接関係ないように見えるのに、不思議と目が留まります。
「今のって、もしかして……?」
そんな小さな気づきが生まれた瞬間、胸の奥でわずかな高揚感が広がることがあります。
本研究は、このような作品の中に仕込まれた“隠しアイテム”――別の作品や物語世界を思い起こさせるキャラクター、物、場面、行動、引用など――を見つける体験が、どのように楽しさや満足感につながるのかを調べたものです。
研究を行ったのは、アメリカのカンザス大学 ウィリアム・アレン・ホワイト・ジャーナリズム・マスコミュニケーション・スクールと、ウィチタ州立大学 エリオット・コミュニケーション・スクールの研究チームです。
研究者たちは、「物語が複数の作品にまたがって断片的につながる時代」において、人はどのように物語を味わい、どのようなときに強い楽しさを感じるのかを探ろうとしました。
物語は、ひとつの作品の中だけで完結しなくなっている
近年のエンタメ作品では、ひとつの映画やドラマだけで物語が完結するのではなく、別の作品へと世界観が広がっていく形式が増えています。
研究では、このような構造をトランスナラティブ・メディアと呼んでいます。
つまり、物語が複数の作品に分かれて存在し、それぞれがゆるやかにつながっている状態です。
このような作品世界では、過去作を知っている人ほど「気づける要素」が増えます。
それが隠しアイテムです。
隠しアイテムは、必ずしも物語を理解するために必要なものではありません。
ひとつも見つけなくても、作品は十分に楽しめます。
それでも、多くの人は隠しアイテムに気づくと、特別な喜びを感じます。
研究者たちは、この「特別さ」がどこから生まれるのかに注目しました。
そもそも、どれくらいの人が隠しアイテムに気づいているのか
研究では、約1000人の参加者にオンライン調査を行いました。
その結果、**過去1年以内に隠しアイテムに気づいたと答えた人は約41%**でした。
一方で、約59%の人は「思い当たるものはない」と答えました。
この結果は、隠しアイテムに気づく体験が「一部の熱心なファンだけのもの」ではなく、
かなり多くの人にとって身近な現象であることを示しています。
人々が思い出した隠しアイテムのタイプ
参加者は、自分が見つけた隠しアイテムについて自由記述で説明しました。
その内容を分析すると、大きく4つのタイプに分かれました。
キャラクター型
別作品のキャラクターや有名人物が、カメオ出演のような形で登場するものです。
ポスター、服の柄、背景の映像など、さりげない形で現れることもあります。
物(オブジェクト)型
特定の作品を象徴する小道具やアイテムが、別作品に登場するケースです。
武器、乗り物、装飾品などが含まれます。
場面・行動型
有名なキスシーン、ポーズ、アクションなど、過去作品の象徴的な場面が再現されるものです。
ポップカルチャー参照型
特定の作品に限らず、映画・ドラマ・音楽・有名人などへの引用が含まれるものです。
この結果は、隠しアイテムが単なる「小物」ではなく、物語世界の記憶を呼び起こす合図として機能していることを示しています。
隠しアイテムに気づく人ほど、作品世界と“つながっている”
研究では、次のような要素が測定されました。
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作品のキャラクターに親しみや近さを感じているか
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続編や関連作品を見たいと思うか
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隠しアイテムについて調べたり、人と話したりするか
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作品をどれくらい楽しいと感じたか
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どれくらい「報われた」「満足した」と感じたか
分析の結果、
キャラクターへの親近感が強い人ほど
ファンとしての行動が多い人ほど
隠しアイテム体験から強い満足感を得やすい
ことが示されました。
楽しさの正体は「見つけた」という感覚そのもの
特に重要だったのは、**内的報酬(ないてきほうしゅう)**と呼ばれる感覚です。
内的報酬とは、
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うまくできた
-
わかった
-
自分は気づけた
といった、外から与えられる報酬ではなく、自分の内側から生まれる満足感のことです。
研究では、この内的報酬が、
隠しアイテムの有無やファン行動とは別に、楽しさを強く予測する要因であることが示されました。
つまり、
「隠しアイテムを見つけたから楽しい」
ではなく、
「見つけたと感じられた体験そのもの」が楽しい
という構造が浮かび上がります。
人々は隠しアイテムに気づいたとき、どう感じているのか
自由記述の分析から、よく見られた反応は次のようなものでした。
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嬉しい
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ワクワクする
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驚いた
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誇らしい
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懐かしい
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面白い
-
かわいいと感じた
特に多かったのは、興奮・喜び・誇りでした。
「宝物を見つけた気分だった」
「自分だけが気づいた気がした」
といった表現も見られました。
ここで注目すべきなのは、「誇り」という感情です。
物語を見る行為は、通常は受動的な体験と考えられがちです。
しかし、隠しアイテムに気づく体験は、
見る → 気づく → つなげる
という能動的なプロセスを含んでいます。
この「自分で考えてつなげた」という感覚が、誇りにつながっている可能性があります。
物語を“集めていく”楽しみ
研究者たちは、この結果をもとに、次のような可能性を示唆しています。
人は物語をただ受け取るだけでなく、
頭の中で断片を集め、組み立て、世界を作り直しているのではないか。
隠しアイテムは、その作業を促す小さなきっかけです。
すべてを理解しなくてもよい。
すべてを集めなくてもよい。
それでも、気づいた瞬間だけ、
自分が物語世界の「内側」に少し入ったような感覚が生まれる。
本研究は、その感覚が偶然ではなく、
人の動機づけや満足感と結びついた現象であることを静かに示しています。
物語を楽しむ方法は、ひとつではない
この研究が伝えている大きなメッセージは、次の点です。
物語の楽しみ方には、正解がない。
ただ見るだけでもよい。
深く追いかけてもよい。
そして、
つなげたい人は、つなげることで報われる。
隠しアイテムは、物語の中に仕込まれた「もう一段階の入口」なのかもしれません。
気づいた人だけが、そっと開ける小さな扉として。
(出典:PLOS One DOI: 10.1371/journal.pone.0341588)

