眠りすぎても、眠らなさすぎても。ちょうどよく眠る、という難しさ

この記事の読みどころ
  • 2016年から2023年の調査で、睡眠時間は5時間以下・6〜8時間・9時間以上の三つに分けられた。
  • 睡眠が短すぎても長すぎても、うつ病の診断や心身の不調が増える傾向がある。
  • 睡眠時間と健康の関係はU字型で、6〜8時間が最も安定して良いと見られている。

眠る時間は、どれくらいが「ちょうどいい」のか

私たちは毎日眠っています。けれども、その「何時間眠るか」が、ここまで広く、深く、心と体の状態に関係しているとは、ふだん意識されていないかもしれません。短すぎる睡眠がよくないことは多くの人が知っていますが、では長く眠ることは本当に安心なのでしょうか。この研究は、その素朴な疑問に、膨大な実際のデータから静かに答えようとしています。

全米30万人以上を対象にした大規模調査

本研究を行ったのは、アメリカの大学・医療機関に所属する研究チームです。研究者たちは、アメリカ疾病予防管理センターが実施している「行動リスク要因サーベイランス・システム(BRFSS)」という全国規模の健康調査データを用いました。

分析対象となったのは、2016年から2023年までに調査に回答したアメリカ成人およそ31万8千人です。年齢、性別、人種、学歴、収入、体格指数、婚姻状況など、生活や健康に関わるさまざまな要因を同時に考慮しながら、睡眠時間と健康状態の関係が分析されました。

睡眠時間は三つのグループに分けられた

この研究では、回答者が申告した平均睡眠時間を次の三つに分類しています。

・5時間以下の短い睡眠 ・6〜8時間の推奨される睡眠 ・9時間以上の長い睡眠

一般に健康的とされるのは6〜8時間の睡眠です。研究では、このグループを基準として、短い睡眠や長い睡眠がどのように健康と結びついているかが比較されました。

調べられた四つの健康指標

研究者たちは、睡眠時間と次の四つの指標との関係を調べました。

一つ目は、医師からうつ病と診断された経験があるかどうかです。 二つ目は、過去30日間のうち、心の調子が良くなかった日数です。 三つ目は、同じく過去30日間で、体の調子が良くなかった日数です。 四つ目は、「自分の健康状態をどう感じているか」という主観的な健康評価です。

短い睡眠とうつの強い結びつき

分析の結果、まず明確に示されたのは、睡眠時間とうつ病との関係でした。6〜8時間眠っている人を基準にすると、5時間以下しか眠らない人では、うつ病と診断されている割合が14ポイント以上高くなっていました。

注目すべきなのは、9時間以上眠っている人でも、うつ病の割合が約13ポイント高かったことです。睡眠が短い場合だけでなく、長すぎる場合にも、うつとの関連が見られたのです。

心のつらさが続く日数はどう変わるのか

心の調子が良くなかった日数を見ると、ここでもはっきりした違いが現れました。6〜8時間眠っている人では、1か月あたり平均して12日ほどでした。

それに対して、5時間以下の睡眠の人では、心の調子が悪い日がさらに5日以上多く報告されていました。9時間以上眠る人でも、心の不調の日数は増えており、短い睡眠ほどではないものの、確かな差が確認されました。

体の調子にも同じ傾向が見られた

体の健康についても、同様の結果が得られています。6〜8時間睡眠の人に比べ、短い睡眠の人では、体調が良くなかった日が月に4日以上多くなっていました。

長い睡眠の人でも、体の不調の日数は増えており、「よく眠っているから体は元気」という単純な考え方が成り立たないことが示されています。

自分の健康をどう感じているか

主観的な健康評価でも、睡眠時間による違いは明確でした。6〜8時間眠る人は、「とても良い」「良い」と感じている割合が最も高く、「あまり良くない」「良くない」と感じる割合が最も低くなっていました。

一方、短い睡眠や長い睡眠の人では、「健康状態が良くない」と感じる割合が高く、とくに9時間以上眠る人では、その傾向が強く表れていました。

なぜ長く眠ることも問題になるのか

この研究は、長い睡眠そのものが直接健康を悪化させると断定しているわけではありません。研究者たちは、長時間眠る背景に、すでに存在する体調不良や心の問題、社会的な要因が隠れている可能性を指摘しています。

つまり、長く眠っていることは、何らかの不調の結果として現れているサインかもしれない、という見方です。

睡眠と健康のU字型の関係

全体として、この研究が示したのは、睡眠時間と健康状態の関係がU字型になっているということです。睡眠が短すぎても、長すぎても、心身の健康は損なわれやすくなります。

ちょうど真ん中に位置する6〜8時間の睡眠が、もっとも安定した状態と結びついていました。

この研究から見えてくること

この研究は、睡眠を「たくさん取ればよいもの」「足りなければ問題」という単純な量の問題としてではなく、「適切な範囲を保つこと」が重要であることを示しています。

眠れないことに悩む人だけでなく、長時間眠ってしまう自分を「よく眠れているから大丈夫」と思っている人にとっても、一度立ち止まって考える材料を与えてくれる研究だと言えるでしょう。

睡眠は、毎日の生活の中で最も身近な行動の一つです。その時間のとり方が、静かに、しかし確実に、心と体の調子を形づくっていることが、この研究から浮かび上がってきます。

(出典:PLOS One DOI: 10.1371/journal.pone.0321347

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