- 拒絶感受性が高い人は、上司のフィードバックを低く感じたり、助言を自分から求めにくくなることがある。
- トラウマインフォームドケアの考え方を学ぶと、その影響を和らげ、フィードバックを支えとして受け取りやすくなることがある。
- 職場の関係性を安全にする工夫が、フィードバックの活用や支援の質を高める鍵になるかもしれない。
期待しないことで守られる関係――拒絶感受性が職場のフィードバックを変える
私たちは仕事の中で、上司からの助言や評価を当然のように受け取っているつもりでいます。しかし実際には、その言葉をどう受け止めるかは、人それぞれ大きく異なります。同じ内容のフィードバックであっても、「助けられた」と感じる人もいれば、「否定された」「突き放された」と感じる人もいます。この違いは、能力や経験だけでは説明できません。
今回紹介する研究は、その背景にある心理的な特性として「拒絶感受性」という概念に光を当てています。この研究は、メンタルヘルス分野で働く現場スタッフを対象に、拒絶感受性が上司との関係、フィードバックの受け取り方、さらには自ら助言を求める行動にどのように関わっているのかを丁寧に調べたものです。
拒絶感受性とは何か
拒絶感受性とは、人が対人関係の中で「拒絶されるかもしれない」という予期を強くもち、その可能性に対して過敏に反応してしまう傾向のことです。この特性をもつ人は、相手の言動が曖昧であったり中立的であったとしても、それを否定や拒否として受け取りやすくなります。
研究では、拒絶感受性を単なる性格傾向ではなく、「認知と感情が結びついたプロセス」として捉えています。拒絶されることへの強い警戒は、自分を守るための仕組みでもありますが、その一方で、人との関係を避けたり、防衛的な態度をとったりする行動につながることがあります。
この傾向は、幼少期の対人経験、とくに養育者との関係や喪失、トラウマ体験と関連することが指摘されています。過去の経験から「人は自分を受け入れてくれないかもしれない」という前提が形成されると、その前提が大人になってからの人間関係にも影響を及ぼすのです。
職場という対人関係の場
職場は、単なる作業の場ではありません。上司、同僚、利用者や顧客など、多くの人間関係が交差する環境です。とくにメンタルヘルス分野では、感情的な負荷が高い仕事を行うため、支援者同士の関係性やスーパービジョンの質が重要になります。
研究者たちは、拒絶感受性がこの職場の人間関係、とくに「スーパーバイザーとの関係」と「フィードバック」に影響しているのではないかと考えました。フィードバックは本来、仕事の質を高め、支援者自身を支えるためのものです。しかし、そのやり取り自体が心理的に脅威として感じられてしまうと、逆効果になる可能性があります。
研究の方法と対象
この研究では、地域のメンタルヘルス機関で働く現場スタッフを対象に調査が行われました。参加者は、臨床スタッフやプログラム担当者など、日常的に支援業務に関わる人々です。
調査では、拒絶感受性を測定する質問紙に加えて、次のような点が評価されました。
・上司からのフィードバックをどのように感じているか
・自分から積極的に助言や評価を求めているか
・上司との関係をどのように捉えているか
・トラウマインフォームドケアに関する研修経験や態度
これらの情報を統計的に分析することで、拒絶感受性と職場での経験との関連が検討されました。
拒絶感受性が高い人に起きていたこと
分析の結果、いくつかの一貫した傾向が明らかになりました。
まず、拒絶感受性が高い人ほど、上司から受け取るフィードバックの質を「低い」と評価しやすいことが示されました。同じ内容の助言であっても、否定的に受け止めやすい傾向があるのです。
次に、拒絶感受性が高い人ほど、自分から積極的にフィードバックを求める行動が少ないことも分かりました。評価や助言を求めること自体が、拒絶されるリスクを伴う行為として感じられるため、無意識のうちに避けられている可能性があります。
さらに、拒絶感受性が高い人は、上司との関係そのものを否定的に捉えやすい傾向も示されました。ただし、この点については、トラウマインフォームドケアに関する理解や研修経験を考慮すると、その影響は弱まることも確認されています。
フィードバックが「脅威」になるとき
フィードバックは、本来は成長のための情報です。しかし拒絶感受性が高い場合、その情報は「自分の価値を否定するもの」「関係を壊すきっかけ」として感じられてしまいます。
研究では、この状態を「防衛的な動機づけのシステム」と表現しています。拒絶されることを避けるために、人は距離を取ったり、感情的に反応したりします。その結果、フィードバックを活用する機会そのものが失われてしまうのです。
このような悪循環は、支援の質だけでなく、本人の疲弊や離職意向にもつながる可能性があります。とくにメンタルヘルスの現場では、支援者が孤立することは、利用者への影響にも波及しかねません。
トラウマインフォームドケアがもつ意味
興味深いことに、この研究では、トラウマインフォームドケアに関する研修経験や、その考え方への共感が、拒絶感受性の影響を和らげる可能性も示されました。
トラウマインフォームドケアは、人の行動や反応を「問題」として切り捨てるのではなく、その背景にある経験や安全感の欠如として理解しようとする枠組みです。この視点をもつことで、上司との関係やフィードバックの場面も、評価や監視ではなく「支え」として捉えやすくなると考えられます。
つまり、拒絶感受性という個人の特性は固定されたものではなく、組織の文化や支援のあり方によって、その影響の現れ方が変わる可能性があるのです。
関係の中で育てられる安全感
この研究が示しているのは、「フィードバックをうまく受け取れない人」が能力不足なのではない、という点です。むしろ、その背景には、関係性に対する深い不安や過去の経験が存在している可能性があります。
フィードバックを与える側にとっても、この理解は重要です。助言の内容だけでなく、それがどのような感情を呼び起こすのかに目を向けることが、結果的に支援の質を高めることにつながります。
拒絶感受性を前提にした関わり方は、特別な技術ではありません。安心して話せる関係をつくること、感情が揺れ動くことを前提として対話すること、その積み重ねが、職場の中での学びと成長を支える土台になるのです。
期待しないことが開く可能性
タイトルにある「期待しない」という言葉は、あきらめを意味しているわけではありません。拒絶されるかもしれないという予期が強すぎるとき、人は自分を守るために関係を閉じてしまいます。しかし、安全な関係の中で、その予期が少し緩むとき、はじめて他者の言葉を受け取る余地が生まれます。
この研究は、職場で起きているすれ違いや沈黙の背景に、個人の内面と組織の関係性が複雑に絡み合っていることを示しています。フィードバックが本当に支えになるためには、内容だけでなく、その受け取られ方にまで目を向ける必要があるのかもしれません。
わからなくても、理由はある。その理由に気づくことが、より良い関係への第一歩になるのです。

