問題を解決したいと願うだけでは、関係は変わらない

この記事の読みどころ
  • メンタル・コントラスティングは、望ましい未来を思い描いたあと自分の内なる障害を想像して、未来と現実を比べる方法です。
  • この方法は「とても重要だ」と感じる問題で効果が高く、重要度が低い問題には効果が出にくいです。
  • 男性は感情の自己開示が増え、女性は解決策の提案が減る一方で、話した後に具体策を出す流れが増える傾向が見られました。

心理学が示した「心の中の障害」に向き合う力

恋愛関係において、問題がまったく起こらないカップルはほとんどいません。
コミュニケーション、家事分担、お金のこと、将来設計、習慣の違い。小さな摩擦が積み重なり、ときに深刻な対立へと発展します。

では、そうした「解決したい問題」に向き合うとき、私たちは何をすればよいのでしょうか。

この研究は、この問いに対して、非常に興味深い答えを提示しました。

研究を行ったのは、ドイツのハンブルク大学心理学研究所、ツェッペリン大学政治社会科学部、ハレ=ヴィッテンベルク大学心理学研究所、ロイファナ大学リューネブルク持続可能性教育心理学研究所、そしてニューヨーク大学心理学部などの研究チームです。

彼らが注目したのは、「メンタル・コントラスティング(mental contrasting)」という自己調整の方法でした。


ただ願うのではなく、「内なる障害」に向き合う

メンタル・コントラスティングとは、
「望ましい未来」を思い描いたあとに、
それを妨げている「自分の内側の障害」を具体的に想像する方法です。

たとえば、

「もっと穏やかに話し合える関係になりたい」と願うだけで終わるのではなく、
「でも自分は、怒りやすい」「不安になると黙り込む」といった内的障害を直視する。

未来と現実を“対比させる”のが特徴です。

研究では、105組の男女カップルが参加しました。
カップルは無作為に2つの条件に分けられました。

  1. メンタル・コントラスティング条件
    ・問題が解決した未来を想像する
    ・その後、自分の内なる障害を想像する

  2. インダルジング条件(indulging)
    ・問題が解決した未来だけを想像する
    ・障害については考えない

その後、カップルはZoomで10分間、実際に問題について話し合いました。
さらに2週間後、問題がどの程度解決したかを再評価しました。


本当に変化が起きたのは「とても重要な問題」だった

結果は単純ではありませんでした。

メンタル・コントラスティングは、
「すべての問題」に効果があったわけではありません。

効果がはっきり現れたのは、
本人にとって“とても重要”だと感じている問題でした。

その場合、2週間後の問題解決度は、
インダルジング条件よりも有意に高くなっていました。

重要度が低い問題では、違いは見られませんでした。

つまりこの方法は、
「どうでもいい問題」を無理に解決させる力ではなく、
「本気で向き合いたい問題」にエネルギーを集中させる方法だといえます。

研究は、期待と価値の理論(expectancy-value theory)に基づき、
「重要性」が心理的エネルギーの源になることを前提にしています。

大事だと感じていないことには、人は本気になれない。
これは恋愛だけでなく、人生全般に通じる話かもしれません。


男性に起きた変化 ― 感情を語るようになった

研究のもう一つの大きな発見は、
行動観察にありました。

研究者はカップルの会話を詳細にコーディングし、
発話を細かい単位で分類しました。

特に注目されたのは「自己開示」です。

自己開示には3つの種類があります。

・感情の表明
・態度や行動の説明
・願いやニーズの表明

結果は明確でした。

メンタル・コントラスティングを行った男性は、自己開示が増えていました。

とくに増えたのは、

・「怒っていた」「怖かった」といった感情の表明
・「なぜ自分はそう考えるのか」という態度や行動の説明

でした。

一方で、「こうしてほしい」という願いやニーズの表明は増えていませんでした。

これは興味深い結果です。

一般的に、男性は女性より自己開示が少ない傾向があるとされます。
しかしこの研究では、メンタル・コントラスティングを行うことで、
男性の自己開示は女性に近い水準まで高まりました。

内なる障害に向き合う過程で、
感情や態度が明確化され、
それを言語化しやすくなった可能性があります。


女性に起きた変化 ― 解決策を「減らした」

もう一つ、予想外の結果がありました。

女性は、メンタル・コントラスティング条件で
解決策の提案数が少なくなっていたのです。

これは研究者の仮説とは逆でした。
本来は、解決策が増えると予想していました。

しかしデータは違う方向を示しました。

重要度が中程度から高い問題において、
メンタル・コントラスティングを行った女性は、
インダルジング条件よりも少ない解決策を提示していました。

ただし、問題解決度は下がっていませんでした。

つまり、
「たくさん提案した」ほうが
「より良い解決につながった」わけではなかったのです。

研究では、追加分析として発話の順序も検討しています。

その結果、メンタル・コントラスティング条件では、
自己開示の直後に解決策を提示する傾向が見られました。

これは、
「まず気持ちを語り、その上で具体策を出す」
という流れが生まれていたことを示唆しています。

解決策の量ではなく、
文脈に基づいた選択的な提案が増えた可能性があります。


ただ夢を見るだけでは、エネルギーは下がる

研究は、なぜインダルジングが効果的でない場合があるのかも示しています。

未来だけをポジティブに想像すると、
人は「もううまくいった気分」になります。

すると、行動エネルギーが低下することがあると、
過去の研究は示してきました。

難しい問題ほど、
「なんとかなるはず」と楽観的に思うだけでは足りません。

現実の障害を見ないままでは、
行動への動機づけが弱まる可能性があります。

メンタル・コントラスティングは、
未来と現実を接続します。

理想と障害を同時に意識することで、
脳内で両者が結びつき、
行動に向かう準備が整うとされています。


すべてのカップルに効く万能薬ではない

この研究には限界もあります。

参加者の多くは若く、教育水準が高く、
関係満足度も比較的高いカップルでした。

深刻な関係不満や長期的な葛藤を抱えるカップルでは、
同じ効果が出るとは限りません。

また、観察されたのは言語行動のみで、
非言語的な表情や声のトーンまでは分析されていません。

それでもなお、この研究は重要です。

なぜなら、
「両者同時にメンタル・コントラスティングを行う」
という双方向的なデザインで、
実際の行動を観察した初めての研究だからです。


問題を「どう扱うか」が関係を決める

恋愛関係における問題は、避けられません。

しかし、問題そのものよりも、
「どう向き合うか」が関係の質を左右します。

・感情を言葉にできるか
・現実の障害を直視できるか
・重要な問題にエネルギーを注げるか

メンタル・コントラスティングは、
カウンセリングに通う時間や費用がなくても、
自分たちで実践できるシンプルな方法です。

願うだけでは変わらない。
しかし、願いと障害を同時に見るとき、
行動が始まる。

この研究は、
関係を改善する鍵が、
「未来を見ること」ではなく、
「未来と現実を同時に見ること」にある可能性を示しています。

恋愛に限らず、
私たちが本当に大切にしたいことは何か。

そして、
それを妨げている自分の内側の何かは何か。

その問いから、
変化は始まるのかもしれません。

(出典:Journal of Social and Personal Relationships

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