- 人気情報があると多様性が減り、すでに人気のある画像がさらに選ばれやすくなる。
- 人気は探索を遅くし初期の革新を抑えるが、後半には質を守る方向へ作用することもある。
- 人気は創造を狭い方向へ導き、不平等を拡大する一方、長期的には質を保つ可能性も示す。
「人気」という数字は、創造性を後押しするのか
再生回数、いいね数、ランキング順位。
私たちは日々、「人気」を可視化する数字に囲まれています。
人気があるものを選ぶことは、合理的にも思えます。
多くの人が支持しているのだから、質も高いのではないか、と。
しかし、もしその「人気」という情報が、文化の多様性や革新性を静かに制限しているとしたらどうでしょうか。
この問いを実験的に検証した研究が、コーネル大学、プリンストン大学、マックス・プランク経験美学研究所などの研究チームによって行われました。
論文は2026年2月に公開されたプレプリント研究です。
本研究は、文化進化(cultural evolution)を「選択」と「創造」という二つの力の相互作用として捉え、その両方に人気情報がどのような影響を与えるかを大規模オンライン実験で検証しました。
実験の設計:選んで、変えて、次へ渡す
研究では1,008人の参加者がオンライン実験に参加しました。
参加者は、16×16ピクセルの白黒画像で構成された「市場」を観察します。
その市場には、直近世代で作られた最大12枚の画像が並びます。
参加者の役割は次の三段階です。
-
市場に並んだ画像の中から1つを選ぶ
-
その画像を最低1ピクセル、最大24ピクセル変更する
-
新しい画像を市場に追加する
このプロセスを60世代にわたり連鎖させました。
合計128の独立した「市場」が同時に進行しました。
ここで重要なのは、条件が二つに分かれていたことです。
・人気情報あり(PI条件)
各画像がこれまで何回選ばれたかが表示される
・人気情報なし(NPI条件)
人気情報は一切表示されない
参加者は、「次の参加者に自分の作品が選ばれる可能性を最大化するように行動してください」と指示されました。
つまり、人気に乗るべきか、あえて外すべきかという戦略的ジレンマが生まれる設計でした。
結果1:人気情報は文化の多様性を減らす
研究チームは、市場の多様性を三つの方法で測定しました。
・系統距離(どれだけ枝分かれしているか)
・ピクセル単位の違い
・意味的距離(画像の意味空間での距離)
その結果、いずれの指標でも、人気情報がある条件では多様性が有意に低下しました。
人気が見えると、人々はすでに人気のある画像を選びやすくなります。
これが「累積的優位(cumulative advantage)」と呼ばれる現象です。
一度人気を得たものは、さらに選ばれやすくなる。
その結果、アイデアは少数の系統に集中し、枝分かれが減少します。
文化市場は、より均質になります。
結果2:人気情報は探索の速度を遅らせる
研究では、時間差自己相関(autocorrelation)という指標を用いて、文化空間の探索速度を測定しました。
自己相関が高いということは、時間が経っても似た領域を探索し続けていることを意味します。
人気情報がある条件では、この自己相関が高くなりました。
つまり、
初期の方向性が長く残り、
新しい領域への移動が遅くなる。
人気は、文化の探索を保守的にするのです。
結果3:初期は質が下がるが、後半は逆転の兆し
研究では、別の参加者グループがすべての画像を評価しました。
評価項目は次の三つです。
・魅力度
・美しさ
・創造性
結果は興味深いものでした。
実験の前半(0〜47世代)では、人気情報がある条件の画像は、美しさと創造性が有意に低い傾向が見られました。
しかし、終盤(48〜59世代)では、この差が縮まり、場合によっては逆転の兆しも見られました。
研究チームはこれを、突然変異率の違いに例えて説明しています。
人気情報がない場合、人々はより大胆に変化させます。
初期段階ではそれが改善につながりやすい。
しかし、完成度が高まるにつれ、大胆な変化は破壊的になります。
一方、人気情報がある場合は、変化が控えめになります。
初期の改善は遅いが、後半では質を守る効果が生まれる可能性がある。
人気は、短期的には革新を抑制し、
長期的には安定をもたらすかもしれないのです。
選択への影響:なぜ人気は集中を生むのか
研究では、参加者の選択戦略をモデル化しました。
選択には主に四つのタイプが想定されました。
・画像の質に基づく選択
・累積的優位
・あえて不人気を選ぶ戦略
・ランダム選択
人気情報がある条件では、累積的優位が大きく増加しました。
逆張り戦略(あえて不人気を選ぶ)は、ほとんど増えませんでした。
人気が見えると、人は無意識にそれを重視する。
これは市場の成功格差も拡大させました。
ジニ係数は人気情報条件で高くなりました。
人気は、不平等を拡大する力も持っているのです。
創造への影響:変化はより保守的になる
創造の側面にも変化が見られました。
人気情報がある場合、参加者は
・変更するピクセル数が少ない
・意味空間での移動距離が小さい
さらに編集は五つのカテゴリに分類されました。
・破壊(disruption)
・追加(addition)
・パターン拡張(pattern growth)
・削除
・微調整
人気情報がある条件では、
・破壊的変更は減少
・既存パターンの拡張は増加
が確認されました。
これは研究者が「文化的ランナウェイ(cultural runaway)」と呼ぶ現象と整合的です。
人気のある特徴が、さらに誇張され、拡張される。
新しい方向に飛び出すのではなく、
既存のパターンが強化される。
文化はどこへ向かうのか
この研究が示したのは、人気情報は単に「どれが選ばれるか」を変えるだけではないということです。
人気は、
・多様性を減らし
・探索を遅らせ
・初期の革新を抑え
・既存パターンを拡張させ
・成功の不平等を拡大させる
しかし同時に、
長期的には質を保護する可能性もある。
文化市場において、
消費者は「何に注目するか」を推測し、
創作者は「何を作るべきか」を推測する。
その相互推論のループが、文化の形を決めている。
人気は単なる数字ではありません。
それは、文化進化の方向を曲げる力です。
では、私たちは人気を隠すべきなのでしょうか。
それとも、うまく設計すべきなのでしょうか。
この研究は答えを断定していません。
ただ一つ確かなのは、
人気は、創造性を刺激するだけの存在ではないということです。
ときにそれは、
文化を静かに、しかし確実に、
狭い方向へ導いているかもしれません。
そして私たちは、
そのループの中に、常にいるのです。
(出典:arXiv DOI: 10.48550/arXiv.2602.09997)

